同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『現実誘惑バトル編』

【第五八一話】 『おやつは“あーん”で勝負!口元距離バトル』

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 昼休み。

 つくば市の某進学校・2年B組の教室には、いつもと違う異様な緊張感が漂っていた。

 

「今日は“あーん実験日”です」

 ひよりのその一言が、全ての始まりだった。

 

 机の上には、カラフルなおやつがずらりと並び、
 その中心で、ひよりがタブレットを片手に堂々と語る。

 

「目標は“唇と唇の中間距離”での食品搬入」

「これは、“最短接近”と“合法性”の黄金比を探る実験です」

 

「ひよりちゃん……怖いほど科学的なんだけど、実質これ、キス前夜じゃね……?」
 ルナが苦笑いする。

 

「そう思わせるけど、ギリギリそうじゃない。その緊張感が青春だよ」
 すみれがティースプーンを構えながら頷く。

 

 そして──

 実験台、真壁弘弥は震えていた。

 

「ちょ、ちょっと待って!? 俺は何の研究対象!? これ実験って名のスキンシップ祭りでしょ!?」

 

「黙って口開けて♥」
 ルナがアイスをスプーンですくって迫ってくる。

 

「いや、でも! 校内ですよ!? 校内でそれは──」

「はい、あーん」

 

「あ、あー……ん……」

 

 スプーンが口元に運ばれる。
 スプーンの柄を持つルナの指先が、彼の頬に軽く触れる。
 そして……甘ったるい冷たさが、唇を割って滑り込んでくる。

 

「っ……」

 

 その一瞬、弘弥の目が大きく見開かれた。

 味は──不明。

 甘さは感じる。しかし、それよりも──指のぬくもりと、息の近さが支配的だった。

 

「記録! 心拍数:103、唇角度:やや緩み、視線動揺:大」
 ひよりがノートに書き込む。

 

「ちょ、次わたし行くからね!!」

 碧純が立ち上がる。

 

「兄には、和菓子の良さを思い出してもらいたいの。これは──団子三本!」

「え、三本!? ちょ、いきなり大量搬入!?」

 

 団子を串ごと手に持ち、口元へぐいぐい近づける碧純。

 弘弥は思わず顔をそらそうとするが──

 

「ダメ。逃げたら負け。青春から逃げる気なの?」

 

 そんなこと言われたら逃げられない!!

 

「……あー……ん……」

 

 団子が口に入ると同時に、碧純の顔が“異様に近い”ことに気づく。

 まつ毛の一本、額の汗、鼻息のリズムまで感じられる至近距離。

 

「う、うぐぐ……む、むぐ……(※三本は詰まる)」

 

「はい記録! 顔面温度上昇、唇形状“団子耐性型”、頬染色レベル:高」

 

「じゃあ次は私ね?」

 すみれが、上品にプリンを差し出す。

 

「これは、口当たりが命。だから、唇を軽く開いて──そのまま、優しく、溶けるように……」

 

(こ、これはもう完全にCMか何か……)

 

 ぷるん、と揺れるプリン。
 すみれの指先は、スプーンを握りながらも小さく震えていた。

 

「……どう? 甘すぎないでしょ?」

「……味……わかんないです……」

 

「え? なにそれ!? 味わかんないってどういうこと!?」

「……もう、口元近づけられるたびに、味覚が全部飛ぶんだよ!!!」

 

 弘弥は机に突っ伏した。

 顔が真っ赤で、耳まで火照っていた。

 

「甘さとかじゃない……距離だ……距離がやばいんだよ……!」

 

 その瞬間、教室の窓から吹き込んだ春風が、弘弥の髪を揺らした。

 外は明るく、どこかで誰かが笑っていた。

 けれど──この教室だけは、戦場だった。

 

 ◆

 

「……あーんだけで倒れるなんて、まだまだだね♥」
 ルナが背中をぽんと叩く。

「青春って、もっと粘っこいもんなんだよ」

 

「兄……今夜は、もう一回あーんしてあげようか?」

 

「……ダメだ……このままじゃ明日には“口の感覚が壊れる”……!!」

 

 弘弥の苦悩は続く。

 青春は──合法で、甘くて、距離感がえげつない。

 

【つづく】

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