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第1章:忘れられる子ども
第6話『あたたかい手』
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雨上がりの道は、水たまりだらけだった。
夕方の空は雲の切れ間からうっすら光が差し込んでいたけれど、地面はまだ黒く濡れていて、踏むたびにぬるりとした音を立てた。湿った空気が肌にまとわりついて、帰り道は少し肌寒かった。
わたしはランドセルの肩紐を握りしめながら、歩道の端をゆっくり歩いた。歩道の横に続く排水溝の隙間から水が流れる音がしていた。その音を聞いていると、心の奥で何かが冷たく沈んでいくような気がした。
「ななちゃん!」
呼ばれた声に、わたしは顔を上げた。
りおちゃんがそこにいた。
制服のスカートが濡れていて、前髪の先から小さな雫が落ちている。ランドセルを背負ったまま、わたしの方へ駆け寄ってきて、小さく笑った。
「一緒に帰ろう!」
わたしは少しだけ笑って、うなずいた。
りおちゃんはわたしの手を握った。
その手は、小さいけれどあたたかかった。
わたしの手は冷たく濡れていたのに、りおちゃんの手のぬくもりがゆっくりと伝わってきた。わたしの冷たい指先が、少しずつ温かくなるのを感じた。
「大丈夫、私が言うから」
りおちゃんが小さな声で言った。
「……え?」
「おめでとうって。わたしが言うから」
わたしは言葉が出なかった。
りおちゃんは笑顔のまま、わたしの手をぎゅっと握りしめた。
それだけで、胸の奥でつかえていた冷たい何かが少しだけ溶けていくような気がした。
道端の水たまりを避けながら歩くと、りおちゃんが靴の先で水を弾いて小さく笑った。水滴が太陽の光を反射して、七色にきらきら光った。
その光があまりにきれいで、わたしは小さな声で笑った。
それを見たりおちゃんがもっと笑った。
わたしたちは笑い合いながら、濡れた道を歩いた。
学校から少し離れた場所にある古いアパートの前で、りおちゃんは立ち止まった。
「ここ、うち」
りおちゃんは振り返って笑った。
「また明日ね!」
「……うん」
わたしはうなずいて、りおちゃんの手を離した。
その瞬間だった。
「いい加減にしなさいよ!!」
アパートの二階の窓が勢いよく開いて、女の人の怒鳴り声が飛び出してきた。
「金もないくせに、口答えするんじゃないよ!!」
窓から怒鳴り声が降ってきて、アパートの壁に反響した。
りおちゃんの顔が一瞬だけこわばった。
わたしはその顔を見て、何も言えなかった。
でも、りおちゃんはすぐに笑顔を作って、わたしの方を見た。
「大丈夫だよ!」
そう言って、小さく手を振った。
その笑顔は、泣きたくなるくらいにきれいだった。
「また明日ね!」
「……うん、また明日」
わたしは手を振り返した。
そのとき、窓の中からまた怒鳴り声が響いた。
「早く戻ってきな!!」
「うん、今行く!!」
りおちゃんはわたしに最後の笑顔を向けてから、アパートの階段を駆け上がっていった。
その背中を見送ったあと、わたしは濡れた道に立ち尽くした。
りおちゃんの笑顔が胸の奥でずっと残っていた。
冷たくなった指先に、さっき握ってくれたあたたかさが少しだけ残っていた。
「……大丈夫」
わたしは自分に言い聞かせるように、小さな声でつぶやいた。
「大丈夫……」
雨の匂いがまだ残る風が吹いて、わたしの髪を揺らした。
わたしは空を見上げた。
灰色の雲の向こうに、少しだけ光が見えた気がした。
夕方の空は雲の切れ間からうっすら光が差し込んでいたけれど、地面はまだ黒く濡れていて、踏むたびにぬるりとした音を立てた。湿った空気が肌にまとわりついて、帰り道は少し肌寒かった。
わたしはランドセルの肩紐を握りしめながら、歩道の端をゆっくり歩いた。歩道の横に続く排水溝の隙間から水が流れる音がしていた。その音を聞いていると、心の奥で何かが冷たく沈んでいくような気がした。
「ななちゃん!」
呼ばれた声に、わたしは顔を上げた。
りおちゃんがそこにいた。
制服のスカートが濡れていて、前髪の先から小さな雫が落ちている。ランドセルを背負ったまま、わたしの方へ駆け寄ってきて、小さく笑った。
「一緒に帰ろう!」
わたしは少しだけ笑って、うなずいた。
りおちゃんはわたしの手を握った。
その手は、小さいけれどあたたかかった。
わたしの手は冷たく濡れていたのに、りおちゃんの手のぬくもりがゆっくりと伝わってきた。わたしの冷たい指先が、少しずつ温かくなるのを感じた。
「大丈夫、私が言うから」
りおちゃんが小さな声で言った。
「……え?」
「おめでとうって。わたしが言うから」
わたしは言葉が出なかった。
りおちゃんは笑顔のまま、わたしの手をぎゅっと握りしめた。
それだけで、胸の奥でつかえていた冷たい何かが少しだけ溶けていくような気がした。
道端の水たまりを避けながら歩くと、りおちゃんが靴の先で水を弾いて小さく笑った。水滴が太陽の光を反射して、七色にきらきら光った。
その光があまりにきれいで、わたしは小さな声で笑った。
それを見たりおちゃんがもっと笑った。
わたしたちは笑い合いながら、濡れた道を歩いた。
学校から少し離れた場所にある古いアパートの前で、りおちゃんは立ち止まった。
「ここ、うち」
りおちゃんは振り返って笑った。
「また明日ね!」
「……うん」
わたしはうなずいて、りおちゃんの手を離した。
その瞬間だった。
「いい加減にしなさいよ!!」
アパートの二階の窓が勢いよく開いて、女の人の怒鳴り声が飛び出してきた。
「金もないくせに、口答えするんじゃないよ!!」
窓から怒鳴り声が降ってきて、アパートの壁に反響した。
りおちゃんの顔が一瞬だけこわばった。
わたしはその顔を見て、何も言えなかった。
でも、りおちゃんはすぐに笑顔を作って、わたしの方を見た。
「大丈夫だよ!」
そう言って、小さく手を振った。
その笑顔は、泣きたくなるくらいにきれいだった。
「また明日ね!」
「……うん、また明日」
わたしは手を振り返した。
そのとき、窓の中からまた怒鳴り声が響いた。
「早く戻ってきな!!」
「うん、今行く!!」
りおちゃんはわたしに最後の笑顔を向けてから、アパートの階段を駆け上がっていった。
その背中を見送ったあと、わたしは濡れた道に立ち尽くした。
りおちゃんの笑顔が胸の奥でずっと残っていた。
冷たくなった指先に、さっき握ってくれたあたたかさが少しだけ残っていた。
「……大丈夫」
わたしは自分に言い聞かせるように、小さな声でつぶやいた。
「大丈夫……」
雨の匂いがまだ残る風が吹いて、わたしの髪を揺らした。
わたしは空を見上げた。
灰色の雲の向こうに、少しだけ光が見えた気がした。
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