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第四章 支え合いの形
第38話 もっと力になりたい
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柊真さんのお手伝いを始めて、二週間ほどが経った。
私は午前中のうちに家事を一通り済ませてしまい、キッチンでぼんやりと今日の夕食を考えていた。
書斎では、柊真さんが相変わらずこもりきりで作業をしている。
それに比べて、私の担当は家事や掃除、それに少しの雑務くらいだ。
営業資料を仕上げてからは、フォルダの整理やミーティングのスケジュール調整など、簡単なお手伝いをいくつかこなすだけで、正直かなり余裕がある。
分かっていたことではあるけれど、一緒に働くようになって改めて実感した。
柊真さんは、とにかくストイックだ。
すべてを自分で管理しようとして、誰にも任せようとしない。
その徹底ぶりが、彼の頑なな完璧主義を雄弁に物語っている。
けれど、実際に彼の仕事ぶりを間近で見ていると、もっと手伝えることがあるんじゃないか、という気持ちが湧いてくる。
すっきりしないその思いを、私は、柊真さんに一度相談してみることにした。
_/_/_/_/_/_/
「あの……もう少し、私に手伝えることはありませんか?」
夕食の時間になり、食卓を囲みながら、私は意を決して声をかけた。
箸を進めていた柊真さんが、酢豚をもぐもぐと口に運びながら、不思議そうにこちらを見る。
「うん?どうして?」
「だって私、本当に簡単なことしかしてなくて……。柊真さんはあんなに忙しそうなのに、正直、見合ってない気がするんです」
私なりに、まっすぐ伝えたつもりだった。
けれど柊真さんは、少しも困った様子を見せずに笑った。
「いいんだよ。家のこと全部してくれてるし、美味しいご飯をすぐに食べられるし、本当に助かってる」
そうはっきりと言われてしまうと、それ以上踏み込めなくなる。
私は小さく息を吐いて、頷くしかなかった。
「なにか、あったら言ってくださいね。もっと手伝えるので」
「ありがとう。頼りにしてるよ」
その言葉に、胸の奥がちくりと痛んだ。
——絶対に、頼ってくれないくせに。
優しいだけの言葉に、私が初めて小さな不満を覚えた瞬間だった。
_/_/_/_/_/_/
深夜、書斎の前を通りかかると、デスクに向かって黙々と作業を続ける柊真さんの姿が目に入った。
同じ画面を何度も行き来しながら、スクロールしては止まり、また見返す。
「チェックですか?Wチェックならお手伝いしましょうか?」
そう声をかけると、彼は少しだけ肩を揺らして振り返る。
「あー……ううん。もう終わるところだから。ごめんね、夜遅くに明かりつけてて」
「いえ、それは全然……」
そう答えながらも、また断られてしまったことに、胸の奥が小さく沈む。
視線が自然と床に落ちた。
「そんなに慎重にならなくても、柊真さんなら大丈夫じゃないですか?」
思わず口をついて出た言葉だった。
その瞬間、彼の表情がほんの一瞬だけ硬くなる。
「……慎重すぎるくらいが、ちょうどいいんだ」
低く落とされたその声に、私は言葉を失った。
これまで向けられたことのない表情。
うまく言葉にできないけれど、何かを抱え込んでいるような、重さが滲んでいるように思えた。
「……ごめんなさい。あの、飲み物とか大丈夫ですか?」
慌てて手助けの方向を切り替えてそう声をかけると、彼はハッとしたように表情を柔らかくして、パソコンを閉じた。
「そうだね……。やっぱり今日はもう終わりにするよ、一緒に何か飲もう」
立ち上がった彼は、そのまま私を抱き寄せるようにして、書斎を出るよう促す。
背中に添えられた優しい手のひらを押し返すことはできないけれど。
それでも、背後に残された、あのPCの存在が、やけに大きく感じられてしまった。
_/_/_/_/_/_/
第38話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
気に入っていただけたら、お気に入りやエールをいただけますと励みになります!
次回もぜひよろしくお願いいたします。
私は午前中のうちに家事を一通り済ませてしまい、キッチンでぼんやりと今日の夕食を考えていた。
書斎では、柊真さんが相変わらずこもりきりで作業をしている。
それに比べて、私の担当は家事や掃除、それに少しの雑務くらいだ。
営業資料を仕上げてからは、フォルダの整理やミーティングのスケジュール調整など、簡単なお手伝いをいくつかこなすだけで、正直かなり余裕がある。
分かっていたことではあるけれど、一緒に働くようになって改めて実感した。
柊真さんは、とにかくストイックだ。
すべてを自分で管理しようとして、誰にも任せようとしない。
その徹底ぶりが、彼の頑なな完璧主義を雄弁に物語っている。
けれど、実際に彼の仕事ぶりを間近で見ていると、もっと手伝えることがあるんじゃないか、という気持ちが湧いてくる。
すっきりしないその思いを、私は、柊真さんに一度相談してみることにした。
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「あの……もう少し、私に手伝えることはありませんか?」
夕食の時間になり、食卓を囲みながら、私は意を決して声をかけた。
箸を進めていた柊真さんが、酢豚をもぐもぐと口に運びながら、不思議そうにこちらを見る。
「うん?どうして?」
「だって私、本当に簡単なことしかしてなくて……。柊真さんはあんなに忙しそうなのに、正直、見合ってない気がするんです」
私なりに、まっすぐ伝えたつもりだった。
けれど柊真さんは、少しも困った様子を見せずに笑った。
「いいんだよ。家のこと全部してくれてるし、美味しいご飯をすぐに食べられるし、本当に助かってる」
そうはっきりと言われてしまうと、それ以上踏み込めなくなる。
私は小さく息を吐いて、頷くしかなかった。
「なにか、あったら言ってくださいね。もっと手伝えるので」
「ありがとう。頼りにしてるよ」
その言葉に、胸の奥がちくりと痛んだ。
——絶対に、頼ってくれないくせに。
優しいだけの言葉に、私が初めて小さな不満を覚えた瞬間だった。
_/_/_/_/_/_/
深夜、書斎の前を通りかかると、デスクに向かって黙々と作業を続ける柊真さんの姿が目に入った。
同じ画面を何度も行き来しながら、スクロールしては止まり、また見返す。
「チェックですか?Wチェックならお手伝いしましょうか?」
そう声をかけると、彼は少しだけ肩を揺らして振り返る。
「あー……ううん。もう終わるところだから。ごめんね、夜遅くに明かりつけてて」
「いえ、それは全然……」
そう答えながらも、また断られてしまったことに、胸の奥が小さく沈む。
視線が自然と床に落ちた。
「そんなに慎重にならなくても、柊真さんなら大丈夫じゃないですか?」
思わず口をついて出た言葉だった。
その瞬間、彼の表情がほんの一瞬だけ硬くなる。
「……慎重すぎるくらいが、ちょうどいいんだ」
低く落とされたその声に、私は言葉を失った。
これまで向けられたことのない表情。
うまく言葉にできないけれど、何かを抱え込んでいるような、重さが滲んでいるように思えた。
「……ごめんなさい。あの、飲み物とか大丈夫ですか?」
慌てて手助けの方向を切り替えてそう声をかけると、彼はハッとしたように表情を柔らかくして、パソコンを閉じた。
「そうだね……。やっぱり今日はもう終わりにするよ、一緒に何か飲もう」
立ち上がった彼は、そのまま私を抱き寄せるようにして、書斎を出るよう促す。
背中に添えられた優しい手のひらを押し返すことはできないけれど。
それでも、背後に残された、あのPCの存在が、やけに大きく感じられてしまった。
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