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第四章 支え合いの形
第39話 溶かされる本音
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先に飲み物を用意し、ソファに深く腰掛けた柊真さんが、ぽんぽんと自分の足の間を軽く叩いた。
「茉莉、こっちおいで」
仕事中に感じている分厚い壁が嘘みたいな仕草に、思わず戸惑う。
立ち止まった私を見て、柊真さんはおかしそうに笑い、もう一度ソファを叩いた。
「別に噛みついたりしないよ」
冗談めかした言葉と、いたずらっぽく笑う表情が愛おしい。
ふざけているだけのはずなのに、どこか甘さを含んだ声に、心臓は正直に跳ね上がった。
気づけば私は、すっぽりと彼の腕の中に収まっていた。
仕事終わりの柊真さんは、とても甘い。
その優しさは、確かに私を幸せにしてくれる。
——けれど。
今日はどうしても、胸の奥に残ったひっかかりが消えなくて。
私は彼の腕の中で、もぞもぞと小さく身じろぎした。
「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
今の、この優しい雰囲気の柊真さんなら、何か答えてくれるかもしれない。
そう思って、くるりと体の向きを変え、正面から彼を見つめる。
「私がお仕事を手伝うの……そんなにダメですか?」
不安を押し隠すように、思い切って口にした。
私は、柊真さんがかつてくれた言葉を、今もはっきり覚えている。
――茉莉の丁寧で慎重なスキルは、俺にはないものだ。
――フリーでやっている俺が評価するんだから、信じてほしい。
自信なんて、米粒ほどもなかった私の手を取って、拾い上げてくれた人。
私なんかを「必要だ」と言ってくれた人。
だからこそ、そばにいるだけじゃなくて、ちゃんと役に立ちたかった。
「んー……」
柊真さんは少し考えるような間を置いたあと、さらりと私の髪を撫でる。
「茉莉には、そういうことより、もっと別のことを頼みたいかな」
耳元で囁かれた声に、思わず肩が跳ねた。
「えっ……?」
「たとえば、俺が疲れて見えたときは、こうやって抱きしめてくれるとか?」
「……っ」
距離が一気に詰まり、服の裾が持ち上げられる感触に、頭が真っ白になる。
「そ、そんな……」
「ダメ?」
腰に触れたひんやりとした感覚に、息が止まった。
「……っ」
思わず大きく反応してしまった体に、顔が熱くなる。
視線を逸らすと、柊真さんは楽しそうに小さく笑った。
「ほら、こういうコミュニケーションも大事でしょ?」
「そ、そういう話じゃなくて……!」
反論しようとしたのに、彼の腕がすっと肩を引き寄せ、気づけばさらに近づいていた。
優しく、髪に唇が触れる。
肌をかすめる吐息が近くて、苦しくなる。
「そんなに頑張らなくても、茉莉がいてくれるだけで十分助かってるんだって」
囁く声が近すぎて、もう言葉が出なかった。
「ねえ、茉莉」
「な、なんですか……?」
「キスしてほしいな」
「……っ」
「助けてくれるって言ったじゃん。俺ほんとにこの時間で癒されてるの。分かる?」
そう言って、彼はイタズラに微笑む。
——柊真さんは、ずるい。
完全に甘い空気に持ち込まれているのは分かっている。
誤魔化しになんて乗らずに、彼の奥にある本当の気持ちを知りたいのに。
それでも、柊真さんの甘さはあまりにも自然で、簡単に私を溶かしてしまうのだった。
_/_/_/_/_/_/
第39話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
気に入っていただけたら、お気に入りやエールをいただけますと励みになります!
次回もぜひよろしくお願いいたします。
「茉莉、こっちおいで」
仕事中に感じている分厚い壁が嘘みたいな仕草に、思わず戸惑う。
立ち止まった私を見て、柊真さんはおかしそうに笑い、もう一度ソファを叩いた。
「別に噛みついたりしないよ」
冗談めかした言葉と、いたずらっぽく笑う表情が愛おしい。
ふざけているだけのはずなのに、どこか甘さを含んだ声に、心臓は正直に跳ね上がった。
気づけば私は、すっぽりと彼の腕の中に収まっていた。
仕事終わりの柊真さんは、とても甘い。
その優しさは、確かに私を幸せにしてくれる。
——けれど。
今日はどうしても、胸の奥に残ったひっかかりが消えなくて。
私は彼の腕の中で、もぞもぞと小さく身じろぎした。
「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
今の、この優しい雰囲気の柊真さんなら、何か答えてくれるかもしれない。
そう思って、くるりと体の向きを変え、正面から彼を見つめる。
「私がお仕事を手伝うの……そんなにダメですか?」
不安を押し隠すように、思い切って口にした。
私は、柊真さんがかつてくれた言葉を、今もはっきり覚えている。
――茉莉の丁寧で慎重なスキルは、俺にはないものだ。
――フリーでやっている俺が評価するんだから、信じてほしい。
自信なんて、米粒ほどもなかった私の手を取って、拾い上げてくれた人。
私なんかを「必要だ」と言ってくれた人。
だからこそ、そばにいるだけじゃなくて、ちゃんと役に立ちたかった。
「んー……」
柊真さんは少し考えるような間を置いたあと、さらりと私の髪を撫でる。
「茉莉には、そういうことより、もっと別のことを頼みたいかな」
耳元で囁かれた声に、思わず肩が跳ねた。
「えっ……?」
「たとえば、俺が疲れて見えたときは、こうやって抱きしめてくれるとか?」
「……っ」
距離が一気に詰まり、服の裾が持ち上げられる感触に、頭が真っ白になる。
「そ、そんな……」
「ダメ?」
腰に触れたひんやりとした感覚に、息が止まった。
「……っ」
思わず大きく反応してしまった体に、顔が熱くなる。
視線を逸らすと、柊真さんは楽しそうに小さく笑った。
「ほら、こういうコミュニケーションも大事でしょ?」
「そ、そういう話じゃなくて……!」
反論しようとしたのに、彼の腕がすっと肩を引き寄せ、気づけばさらに近づいていた。
優しく、髪に唇が触れる。
肌をかすめる吐息が近くて、苦しくなる。
「そんなに頑張らなくても、茉莉がいてくれるだけで十分助かってるんだって」
囁く声が近すぎて、もう言葉が出なかった。
「ねえ、茉莉」
「な、なんですか……?」
「キスしてほしいな」
「……っ」
「助けてくれるって言ったじゃん。俺ほんとにこの時間で癒されてるの。分かる?」
そう言って、彼はイタズラに微笑む。
——柊真さんは、ずるい。
完全に甘い空気に持ち込まれているのは分かっている。
誤魔化しになんて乗らずに、彼の奥にある本当の気持ちを知りたいのに。
それでも、柊真さんの甘さはあまりにも自然で、簡単に私を溶かしてしまうのだった。
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第39話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
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