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第四部

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砦内部 ネクロス

 さて、オルビス様に大見得を切ったは良いが、一つだけ不安がある。
 そう、内偵者の存在だ。
 恐らくこいつらだろうという見立てはあるが……。

「ネクロス殿」

 私が、考え事をしていると不意に後ろから声をかけられた。
 振り返るとそこに居たのは、イアン殿だった。

「ネクロス殿、何か用があるとお聞きしてきたのだが」
「あぁ、貴殿に聞きたい事があってな」

 私はそう前置きをすると、声を潜めて話し始める。

「貴殿、風魔法で音を遮断する魔法は使えるか?」
「音を遮断する魔法なら使えない事もないが、奇襲に使うのか?」
「うむ、以前ディークニクト様にされた時に、馬蹄の音すら聞こえなかったのでな、配下になってからお聞きしたのだ。そうしたら風魔法の音を遮断する魔法を使ったと」

 私がそこまで言うと、イアンは一気に難しそうな顔をして話し始めた。

「なるほど、ディークニクト様ならそれくらい可能だろう。何せあの方は魔力量がエルフの中でも群を抜いているからな」
「それで、貴殿にもそれをしてほしいのだが、どうだろう?」
「軍全体をか!? う、う~む……」

 そう言うと、イアンは考え込んでしまった。

「イアン殿、ほんの少しでもいいのだが、難しそうか?」
「……そうだな、移動中全てにかける事は、私には不可能だな、重要な場面でだけかけるという事は出来るだろう。ただし、私では10分もすれば魔力を使い切って倒れてしまうな」
「10分か。最悪それでどうにかするしかないな」

 その後、二つ三つ確認したい事を打ち合わせて私たちは一度別れた。


砦内部 密偵

 先ほどから兵の動きが多い。
 夜間は基本的に兵が消耗しないようにさっさと寝るのが普通だし、先日までのこの軍なら既に寝静まっている時間だ。
 なのに、まだ動いているという事は夜襲の可能性があるという事だ。
 密偵に入っているのは、自分を合わせても3名。
 それ以外の者たちは、既に報告の為に戻ったか、戦いで不運にも散った。

「さて、恐らく夜襲が計画されている。この情報は恐らく大きいし、この夜襲が終わればここは包囲される。脱出するには今しかないぞ」

 私がそう言うと、他の二人も頷いて肯定してきた。

「そこでだ、水汲みや物資調達と称して砦の西部、南部の門からそれぞれ出ようと思う。出た後は、各々報告へと走って誰か一人でも到着したら御の字としないか?」
「では、くじ引きだな」

 私の提案に、一人の男が乗ってきた。
 そして、ある程度想定していたのだろう。
 既にくじを用意しており、こちらに出してきた。

「3つある。〇と×が書かれているので、×が南門、〇が西門だ」

 そう言うと、私たちに選べと促してきた。
 私たちは、それぞれ一つずつ手に取ると、一斉に開いた。

「ふむ、私は西門だな」
「我らは南門だ」

 これで決まった。
 後は脱出するだけだ。

「では、互いの武運を祈って」
「互いの武運を祈って」

 私たちは、お互いに頭を下げてほんの少し祈りをささげた。
 祈りが終わった後は、すぐさま門へと向かう。
 流石に夜襲前だけあって、門の回りにも兵がそれなりに居る。
 私が門に近づくと、守衛の兵が誰何をしてきた。

「何用だ?」
「いえ、隊長が今日の分の薪がなくなったので、森へ取ってこいと」

 私がそう言うと、守衛たちは私を拘束し始めた。
 突然の行動に、私は訳が分からなくなっていると一人の痩せぎすな男が出てきた。

「ふむ、ネクロス殿もすごいが、オルビス殿も中々人の心が分かっているな」
「な、なぜこんな!? 私が何をしたというのですか!?」

 私が、誰にともなく周囲に訴えかけると、痩せぎすの男は少し口角を上げて話し始めた。

「なに、簡単な事だ。兵の指揮権がある隊長各に『今夜の出入りはオルビスもしくは、ネクロスの書状なくさせることを禁ずる』と伝令しただけだ」
「な!? で、では、私は隊長に嵌められたと!?」

 私が、必死に思いつく嘘を演義に乗せながら言う。
 ここで密偵とバレては、意味が無い。
 夜襲を知らせなかった段階で、我らは用済みになってしまうからだ。
 せめて、せめて生き残らねばならない。

「なに、安心しろ。オルビス殿も拘束しろとまでは言ったが、殺せとは言っていない。こいつを牢へと連れて行け!」

 痩せぎすの男が命じると、私の脇を衛兵二人がガッチリと拘束して連行された。
 その後、私だけでなく残りの二人も捕まって牢へと繋がれたのは、言うまでもない。
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