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第四部
4-25
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第一王子軍 ワーカー
渡河を完了し、どうにか陣を張ることができた。
ただ、手持ちの食料は後数日分。
とてもではないが、兵糧攻めで落とすことは不可能だ。
「そうなると、作戦としては2万の兵をここで包囲させ、2~3千の兵で徴発を行わせるしかないな。ただ……」
地図に落としていた視線を上げて、頭の中で考えを整理する。
こちらの事情は、恐らく相手も察しがついているだろう。
そうなると、こちらが包囲戦を仕掛ける事も、後ろに控えている街で徴発を行うであろうことも分かっている。
そう考えると、どうしても今夜か明け方に敵が来る可能性がある。
「……さて、どうすべきか」
包囲自体は、2万でする必要はない。
ただ、こちらの状況相手の状況を鑑みるとそれくらいの兵数差がある事を見せつける必要がある。
だが、如何にして今夜から明け方までを乗り切るかだ。
一応こちらの密偵を放っているから、報せが無いならあのかがり火の明かりはブラフになる。
そう思いながらも、南の空が赤々と輝く様子を私は不安な気持ちで見ていた。
そんな私の後ろから、一人の兵が声をかけてきた。
「失礼します。密偵が帰ってまいりました」
「おぉ! 密偵が帰ってきたか! それでどのような報告であった?」
「はっ! 報告によりますと、夜襲の心配はなし。ただし、2人程捕まったとのことです」
向こうに残っているのは、現在3人。
となると、これで密偵は居なくなったと考えるべきか。
「ご苦労。では最低限度の兵に歩哨を命じておいてくれ。あと、必ず寝るときに武器と鎧を近くにおいておくように」
私がそう言うと、報告に来た兵は一礼して命令を伝えに走った。
それから少しして、少しずつ兵たちが寝て行くのが分かった。
「さて、私も今日は寝よう。明日からが大変だからな」
第一王子軍付近 ネクロス
どうにか、敵の近くまで気づかれずに近づくことができた。
もっとも、ここまでの間先頭で音を消し続けてくれたイアン殿が、魔力の枯渇で使い物にならなくなっているが。
「ネクロス殿……、後はよろ……し、く……」
イアン殿が息も絶え絶えにそう言って来たのに対して、私はグッと親指を立てて応えた。
イアン殿の為にも何とか成功させなければ。
「では、ここからは隊を分ける。1千ずつ私と副官で指揮する。こちらが正面から敵を引き付けるから、裏手に回って敵を混乱させろ」
私がそう言うと、影が一斉に頷く。
「あと、そこの二人の兵はイアン殿を担いで砦まで戻れ。ここに置いておくにはあまりにも無防備すぎるからな」
そう命令すると、二人の兵がイアン殿の脇と足を持ってササっと運び出した。
その様子を確認して、私は作戦開始の合図を送るのだった。
1時間後。
恐らく敵の裏手に味方が回ったくらいだろう、とあたりをつけて私は茂みの影から1千の兵を率いて出た。
最初はゆっくりと、足音を立てず。
そして、近づくにつれて徐々に歩を速め、足音も気にせず進む。
相手の陣営の間近くまで来た頃には、鬨の声と1千人の地を踏み鳴らす音と鎧のこすれる音が鳴り響く。
「突撃ぃーーーーーー!!!!!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」
夜襲は無いと思っていたのだろう。
突然の事に敵の歩哨も驚いて右往左往をしていた。
そして、何よりも門が空きっぱなしとなっていたのだ。
「敵の物資を根こそぎ燃やせ! 敵を完膚なきまでに叩き潰せぇぇぇ!」
そこかしこで、剣戟と喚声がわき起こる。
浮足立っている敵を切り裂きながら奥へと進むと、こちらに対して方陣を敷いている一団があった。
「敵は寡兵だ! ここで食い止めろ! あの巨体の敵将の首を取れぇ!」
そう言って叫んでいるのは、包帯を顔に巻いた男だった。
声は少ししゃがれているが、しっかりと聞き取れる声量で命令を飛ばしている。
「おう! 殺れるもんなら殺ってみやがれぇ!」
私は、そう言うのと同時に大剣を振り回す。
一瞬敵が怖気づくが、次の瞬間にはこちらに向かって左右から飛び掛かってきていた。
「甘い!」
私は叫ぶと、左の兵との距離を詰めて一太刀で屠ると、続けざまに右から来ていた兵の腹を一刺しした。
「さぁ! 次は誰だ!?」
私が吼えると、敵は気圧されて少し下がった。
だが、それでもこちらに向かってくる兵が居なくなるわけではない。
そんな向かってくる兵を一太刀ごとに屠っていく。
「ば、化物か!?」
「化物とは失礼な! これでもれっきとした人族だ!」
相手の罵声に対して、言い返すくらいの余裕を見せていた私だが、次の瞬間そんな余裕は無くなってしまった。
「ワーカー様! 召集完了いたしました!」
「よし! 全軍の力を持って正面の敵を叩き潰すぞ!」
そう叫んだ奴の後ろには、数千の兵が続々と参集していた。
「おいおいおいおい! 流石にそれは多すぎるだろ!?」
そう口では言っているものの、これだけこちらに割いたという事は、後ろががら空きになっているはず。
などと頭の中で考えていると、自然と口元が緩んでしまう。
「お、おい! あいつ笑ってやがるぞ!?」
「嘘だろ!? これだけの兵を用意しても平気なのか?」
何故か敵兵たちが騒然としているが、構わない。
むしろそれなら、こちらから突っ込んでいってやるだけだ!
「全軍敵兵を一人残らず屠れ! 突撃ぃぃぃ!!!!!」
渡河を完了し、どうにか陣を張ることができた。
ただ、手持ちの食料は後数日分。
とてもではないが、兵糧攻めで落とすことは不可能だ。
「そうなると、作戦としては2万の兵をここで包囲させ、2~3千の兵で徴発を行わせるしかないな。ただ……」
地図に落としていた視線を上げて、頭の中で考えを整理する。
こちらの事情は、恐らく相手も察しがついているだろう。
そうなると、こちらが包囲戦を仕掛ける事も、後ろに控えている街で徴発を行うであろうことも分かっている。
そう考えると、どうしても今夜か明け方に敵が来る可能性がある。
「……さて、どうすべきか」
包囲自体は、2万でする必要はない。
ただ、こちらの状況相手の状況を鑑みるとそれくらいの兵数差がある事を見せつける必要がある。
だが、如何にして今夜から明け方までを乗り切るかだ。
一応こちらの密偵を放っているから、報せが無いならあのかがり火の明かりはブラフになる。
そう思いながらも、南の空が赤々と輝く様子を私は不安な気持ちで見ていた。
そんな私の後ろから、一人の兵が声をかけてきた。
「失礼します。密偵が帰ってまいりました」
「おぉ! 密偵が帰ってきたか! それでどのような報告であった?」
「はっ! 報告によりますと、夜襲の心配はなし。ただし、2人程捕まったとのことです」
向こうに残っているのは、現在3人。
となると、これで密偵は居なくなったと考えるべきか。
「ご苦労。では最低限度の兵に歩哨を命じておいてくれ。あと、必ず寝るときに武器と鎧を近くにおいておくように」
私がそう言うと、報告に来た兵は一礼して命令を伝えに走った。
それから少しして、少しずつ兵たちが寝て行くのが分かった。
「さて、私も今日は寝よう。明日からが大変だからな」
第一王子軍付近 ネクロス
どうにか、敵の近くまで気づかれずに近づくことができた。
もっとも、ここまでの間先頭で音を消し続けてくれたイアン殿が、魔力の枯渇で使い物にならなくなっているが。
「ネクロス殿……、後はよろ……し、く……」
イアン殿が息も絶え絶えにそう言って来たのに対して、私はグッと親指を立てて応えた。
イアン殿の為にも何とか成功させなければ。
「では、ここからは隊を分ける。1千ずつ私と副官で指揮する。こちらが正面から敵を引き付けるから、裏手に回って敵を混乱させろ」
私がそう言うと、影が一斉に頷く。
「あと、そこの二人の兵はイアン殿を担いで砦まで戻れ。ここに置いておくにはあまりにも無防備すぎるからな」
そう命令すると、二人の兵がイアン殿の脇と足を持ってササっと運び出した。
その様子を確認して、私は作戦開始の合図を送るのだった。
1時間後。
恐らく敵の裏手に味方が回ったくらいだろう、とあたりをつけて私は茂みの影から1千の兵を率いて出た。
最初はゆっくりと、足音を立てず。
そして、近づくにつれて徐々に歩を速め、足音も気にせず進む。
相手の陣営の間近くまで来た頃には、鬨の声と1千人の地を踏み鳴らす音と鎧のこすれる音が鳴り響く。
「突撃ぃーーーーーー!!!!!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」
夜襲は無いと思っていたのだろう。
突然の事に敵の歩哨も驚いて右往左往をしていた。
そして、何よりも門が空きっぱなしとなっていたのだ。
「敵の物資を根こそぎ燃やせ! 敵を完膚なきまでに叩き潰せぇぇぇ!」
そこかしこで、剣戟と喚声がわき起こる。
浮足立っている敵を切り裂きながら奥へと進むと、こちらに対して方陣を敷いている一団があった。
「敵は寡兵だ! ここで食い止めろ! あの巨体の敵将の首を取れぇ!」
そう言って叫んでいるのは、包帯を顔に巻いた男だった。
声は少ししゃがれているが、しっかりと聞き取れる声量で命令を飛ばしている。
「おう! 殺れるもんなら殺ってみやがれぇ!」
私は、そう言うのと同時に大剣を振り回す。
一瞬敵が怖気づくが、次の瞬間にはこちらに向かって左右から飛び掛かってきていた。
「甘い!」
私は叫ぶと、左の兵との距離を詰めて一太刀で屠ると、続けざまに右から来ていた兵の腹を一刺しした。
「さぁ! 次は誰だ!?」
私が吼えると、敵は気圧されて少し下がった。
だが、それでもこちらに向かってくる兵が居なくなるわけではない。
そんな向かってくる兵を一太刀ごとに屠っていく。
「ば、化物か!?」
「化物とは失礼な! これでもれっきとした人族だ!」
相手の罵声に対して、言い返すくらいの余裕を見せていた私だが、次の瞬間そんな余裕は無くなってしまった。
「ワーカー様! 召集完了いたしました!」
「よし! 全軍の力を持って正面の敵を叩き潰すぞ!」
そう叫んだ奴の後ろには、数千の兵が続々と参集していた。
「おいおいおいおい! 流石にそれは多すぎるだろ!?」
そう口では言っているものの、これだけこちらに割いたという事は、後ろががら空きになっているはず。
などと頭の中で考えていると、自然と口元が緩んでしまう。
「お、おい! あいつ笑ってやがるぞ!?」
「嘘だろ!? これだけの兵を用意しても平気なのか?」
何故か敵兵たちが騒然としているが、構わない。
むしろそれなら、こちらから突っ込んでいってやるだけだ!
「全軍敵兵を一人残らず屠れ! 突撃ぃぃぃ!!!!!」
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