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第2章 再会
第9話
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一同がはっと息を呑む中、グレイはすっと視線を定めると、柔らかく微笑んだ。
「やっと会えたね。迎えにきたよ、フリージア」
そうして迷いのない足取りで、まっすぐに歩み寄る。
「さあ、一緒に行こう」
グレイが白い手袋をはめた手をそっと伸ばしたのは、普段着のままのフリージア。
誰の目にも花嫁だとわかるドレス姿の少女ではない。
その光景に誰も彼もが驚き、固まり、何も言葉にできないでいるうちに、グレイはフリージアをそっと抱き上げた。
「あ、あの、グレイ様」
「こんなに細い体では、歩くのも大変だろう……。馬車まで連れて行くよ」
グレイの瞳が痛ましげにフリージアを見る。
本物だ。
本物の、グレイだ。
混乱から、やっと現実なのだと実感し始めたフリージアに、鋭い声がかかった。
「待て!」
遅れて我に返ったカーティスが憎々しげな目を向ければ、グレイは紳士的な笑みを返した。
「ご心配には及びません。花嫁衣裳も、何もかもをこちらで用意させてもらいましたので、フリージアには着の身着のまま来ていただいてかまいません」
「グレイ様、花嫁はここにおりますわ」
花嫁衣裳のリディも氷が溶けたように立ち上がる。
しかしグレイは困ったような笑みを浮かべ、少しだけ首を傾げた。
「あなたがどなたかは存じませんが、私の花嫁はフリージアです。両家の間で既に決まっていることですので。そうですよね、カーティス卿」
隠しもせずに舌打ちをしたカーティスに顔色を変えることもなく、グレイはちらりとリディに目をやった。
「フリージアにとてもよく似ていらっしゃいますね。ということは、急遽身代わりをたてられたのでしょうか。病がぶり返してしまったとか、のっぴきならない事情でもおありだったのですか?」
苦々しく顔を歪めていたカーティスが、はっとして食いつく。
「そうだ……、フリージアは病気なんだ。一生治らない。だからここから出すわけにはいかない」
「一生治らない? それは大変だ。それならなおさら、一刻も早く我が家へ参りましょう」
そう答えたグレイに、カーティスは驚き目を剥いた。
「我が侯爵家の方がより質のよい医療を提供できるでしょう。王宮にもツテがありますし、医者や薬を変えることも有効かもしれません。敷地の周りには侯爵家の森が広がっておりますし、環境もいい」
伯爵家にできて侯爵家にできないことはないはずだ。
ギリギリと歯を噛み締めるカーティスに向かって、グレイはまっすぐな目を向けた。
「少なくとも、たったの1ヶ月でこのようにやつれさせるようなことは、私はしません」
それだけをいうと、何かを言いかけたカーティスにさっと背を向け、最後の挨拶をするように、再びリディを振り向いた。
「では、半年ほどではありましたが、お茶に付き合っていただいてありがとうございました、名も知らぬお方」
フリージアをその腕に抱いたままドアに向かったグレイに、思わずというようにカーティスが「フリージア!」と手を伸ばす寸前。
グレイがくるりと踵を返し、その手をさらりと避けた。
「あ、そうでした。馬車を用意しておりますので、お義兄様もどうぞ共においでください」
カーティスは歯噛みした。
震える拳を握り締め、怒気を孕んだ声でフリージアを呼ぶ。
「フリージア! 行くな! やっとフリージアを留め置く理由ができたのだ。こんな所まで来てみすみす連れ去られるなど許せるものか。フリージア、優しい私に戻ろう。だからずっとここにいてくれ。私と共に、ずっとここに……!」
支離滅裂に言い募るカーティスに、グレイは静かな目を向けた。
「カーティス卿。あちらでアシェント伯爵もお待ちになっていますよ」
その言葉に、カーティスは愕然と口を開いた。
「な……に……?」
「伯爵は誤った知識をお持ちだったようで、少々誤解されておりました。大丈夫です。私の方から真実をお話しておきましたので。今日の結婚式を楽しみにお待ちになっていらっしゃいますよ」
「お前……!」
「フリージアがここにいなければならない理由が既にないことはご理解いただけましたね?」
フリージアはわけがわからなかった。
わからないまま、ただグレイの腕の中でその顔を見つめていた。
それに気が付いたグレイの瞳が、ふと降りて来る。
「さあ、行こう。くわしい話は、後でね」
二度と会えないと思っていた人。
二度と手に入らないと思っていたもの。
気付けばそれがここにあった。
「やっと会えたね。迎えにきたよ、フリージア」
そうして迷いのない足取りで、まっすぐに歩み寄る。
「さあ、一緒に行こう」
グレイが白い手袋をはめた手をそっと伸ばしたのは、普段着のままのフリージア。
誰の目にも花嫁だとわかるドレス姿の少女ではない。
その光景に誰も彼もが驚き、固まり、何も言葉にできないでいるうちに、グレイはフリージアをそっと抱き上げた。
「あ、あの、グレイ様」
「こんなに細い体では、歩くのも大変だろう……。馬車まで連れて行くよ」
グレイの瞳が痛ましげにフリージアを見る。
本物だ。
本物の、グレイだ。
混乱から、やっと現実なのだと実感し始めたフリージアに、鋭い声がかかった。
「待て!」
遅れて我に返ったカーティスが憎々しげな目を向ければ、グレイは紳士的な笑みを返した。
「ご心配には及びません。花嫁衣裳も、何もかもをこちらで用意させてもらいましたので、フリージアには着の身着のまま来ていただいてかまいません」
「グレイ様、花嫁はここにおりますわ」
花嫁衣裳のリディも氷が溶けたように立ち上がる。
しかしグレイは困ったような笑みを浮かべ、少しだけ首を傾げた。
「あなたがどなたかは存じませんが、私の花嫁はフリージアです。両家の間で既に決まっていることですので。そうですよね、カーティス卿」
隠しもせずに舌打ちをしたカーティスに顔色を変えることもなく、グレイはちらりとリディに目をやった。
「フリージアにとてもよく似ていらっしゃいますね。ということは、急遽身代わりをたてられたのでしょうか。病がぶり返してしまったとか、のっぴきならない事情でもおありだったのですか?」
苦々しく顔を歪めていたカーティスが、はっとして食いつく。
「そうだ……、フリージアは病気なんだ。一生治らない。だからここから出すわけにはいかない」
「一生治らない? それは大変だ。それならなおさら、一刻も早く我が家へ参りましょう」
そう答えたグレイに、カーティスは驚き目を剥いた。
「我が侯爵家の方がより質のよい医療を提供できるでしょう。王宮にもツテがありますし、医者や薬を変えることも有効かもしれません。敷地の周りには侯爵家の森が広がっておりますし、環境もいい」
伯爵家にできて侯爵家にできないことはないはずだ。
ギリギリと歯を噛み締めるカーティスに向かって、グレイはまっすぐな目を向けた。
「少なくとも、たったの1ヶ月でこのようにやつれさせるようなことは、私はしません」
それだけをいうと、何かを言いかけたカーティスにさっと背を向け、最後の挨拶をするように、再びリディを振り向いた。
「では、半年ほどではありましたが、お茶に付き合っていただいてありがとうございました、名も知らぬお方」
フリージアをその腕に抱いたままドアに向かったグレイに、思わずというようにカーティスが「フリージア!」と手を伸ばす寸前。
グレイがくるりと踵を返し、その手をさらりと避けた。
「あ、そうでした。馬車を用意しておりますので、お義兄様もどうぞ共においでください」
カーティスは歯噛みした。
震える拳を握り締め、怒気を孕んだ声でフリージアを呼ぶ。
「フリージア! 行くな! やっとフリージアを留め置く理由ができたのだ。こんな所まで来てみすみす連れ去られるなど許せるものか。フリージア、優しい私に戻ろう。だからずっとここにいてくれ。私と共に、ずっとここに……!」
支離滅裂に言い募るカーティスに、グレイは静かな目を向けた。
「カーティス卿。あちらでアシェント伯爵もお待ちになっていますよ」
その言葉に、カーティスは愕然と口を開いた。
「な……に……?」
「伯爵は誤った知識をお持ちだったようで、少々誤解されておりました。大丈夫です。私の方から真実をお話しておきましたので。今日の結婚式を楽しみにお待ちになっていらっしゃいますよ」
「お前……!」
「フリージアがここにいなければならない理由が既にないことはご理解いただけましたね?」
フリージアはわけがわからなかった。
わからないまま、ただグレイの腕の中でその顔を見つめていた。
それに気が付いたグレイの瞳が、ふと降りて来る。
「さあ、行こう。くわしい話は、後でね」
二度と会えないと思っていた人。
二度と手に入らないと思っていたもの。
気付けばそれがここにあった。
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