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第3章 リークハルト侯爵家の秘密
第1話
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揺れる馬車の中、グレイはフリージアを支えるようにして隣に座った。
「グレイ様、あの、私――」
「大丈夫? 顔色がよくない。やはり結婚式は延期したほうがいいね」
「いえ! 嫌です! もう二度と、あの家には帰りたくありません」
グレイは安心させるように、必死に首を振るフリージアの肩に優しく手を置く。
「大丈夫。もうお義兄さんの好きなようにはさせないから。フリージアは僕が守るよ」
その言葉に、フリージアは涙が溢れるのを止められなかった。
「私、私、ずっと――」
「うん。慌てなくていいから、フリージアの話をゆっくり聞かせて」
・・・◆・・・◇・・・◆・・・
フリージアはカーティスに部屋に閉じ込められていたことや、リディがフリージアの身代わりとして連れて来られたことを話した。
ただ、その理由については触れなかった。
力のことは話さないとカーティスに約束していたことでもあったし、だからと言ってグレイに嘘はつきたくなかったから。
「そうか。やっぱりそうだったんだね」
「いつからわかっていたのですか?」
「病が治ったと聞いて久しぶりにアシェント伯爵の家にお邪魔した時だよ。あの時からフリージアではなかったよね?」
やはり最初からわかっていたのだ。
そのことが嬉しくて、フリージアは大きく頷きながら、また目が潤みそうになった。
ずっと一人で戦っているのだと思っていた。
けれどグレイはわかってくれていたのだ。
「ただ一度だけ、フリージアだったことがあったね。最後にこの邸に入れてもらえた時――お義兄さんがティールームに入って来てフリージアを連れて行ってしまったとき」
「わかっていて……合わせてくれていたんですか」
「事情はわからなかったけど、下手なことをすればまた会えなくなってしまいそうだったから。とにかくフリージアに会えたことが嬉しかったしね」
同じように思ってくれていたことが嬉しくて、フリージアは潤んでいた目から結局ぽろりと涙を零してしまった。
なぜグレイはこんなにもわかってくれるのだろう。
フリージアは本当のことも言えず、ずっと騙していたのに。
「フリージア、泣かないで」
「ごめんなさい。私、ずっとグレイ様を騙していたのです」
「謝ることはないよ。前にも言っただろう? 僕の方こそ、話さなきゃならないことがあるんだ。それなのに、結局ずっと言えずにいた。フリージアがそれでもかまわないと言ってくれた、その言葉に甘えて」
「それは――人でなし、だということですか?」
「うん。そうだよ。もうすぐ邸に着く。言葉だけで説明するのは少し難しいから、くわしい話はそれからでいいかな」
こくりと頷いて、フリージアは心に決めた。
力のことを話そう、と。
グレイを信じずに誰なら信じられるというのか。
いや。ただフリージアは話したかっただけかもしれない。
話して、楽になりたかったのかもしれない。
それでも、騙しているよりずっといい。
カーティスや父のように、態度が変わってしまったとしても。
「お義兄さんは、結婚式には来ないつもりかな――」
窓の外を眺めながら、グレイがぽつりと呟く。
フリージアは膝をつき、うなだれていたカーティスの姿を思い出す。
「……どうでしょうか」
フリージアはリディのことも気になった。
そのまま邸に残してくれば、どうなるかわからない。
そう思い、リディにも一緒に来るよう言ったのだが。
リディは何かを失ってしまったように力の抜けたカーティスをちらりと見やり、ここに残ると言ったのだ。
『この邸にはこの人をどうにかできる人なんていないでしょ? 罰されるのが怖くて寄らず触らずじゃ、この人死んじゃいそうだし。私がちゃんと見とくから、あんたはさっさと行きな』
そう言ってくれたのだ。
「いつかきっと、お義兄さんとももう一度ちゃんと話をしよう。一緒に」
グレイの優しい瞳が、フリージアを温かく包む。
「はい――」
グレイと一緒なら、カーティスともきちんと話せる気がした。
これまでどうしても噛み合わなかった会話も、わからなかったことも、どうにもできなかったことも、グレイと一緒ならもう一度立ち向かっていける気がした。
「グレイ様、あの、私――」
「大丈夫? 顔色がよくない。やはり結婚式は延期したほうがいいね」
「いえ! 嫌です! もう二度と、あの家には帰りたくありません」
グレイは安心させるように、必死に首を振るフリージアの肩に優しく手を置く。
「大丈夫。もうお義兄さんの好きなようにはさせないから。フリージアは僕が守るよ」
その言葉に、フリージアは涙が溢れるのを止められなかった。
「私、私、ずっと――」
「うん。慌てなくていいから、フリージアの話をゆっくり聞かせて」
・・・◆・・・◇・・・◆・・・
フリージアはカーティスに部屋に閉じ込められていたことや、リディがフリージアの身代わりとして連れて来られたことを話した。
ただ、その理由については触れなかった。
力のことは話さないとカーティスに約束していたことでもあったし、だからと言ってグレイに嘘はつきたくなかったから。
「そうか。やっぱりそうだったんだね」
「いつからわかっていたのですか?」
「病が治ったと聞いて久しぶりにアシェント伯爵の家にお邪魔した時だよ。あの時からフリージアではなかったよね?」
やはり最初からわかっていたのだ。
そのことが嬉しくて、フリージアは大きく頷きながら、また目が潤みそうになった。
ずっと一人で戦っているのだと思っていた。
けれどグレイはわかってくれていたのだ。
「ただ一度だけ、フリージアだったことがあったね。最後にこの邸に入れてもらえた時――お義兄さんがティールームに入って来てフリージアを連れて行ってしまったとき」
「わかっていて……合わせてくれていたんですか」
「事情はわからなかったけど、下手なことをすればまた会えなくなってしまいそうだったから。とにかくフリージアに会えたことが嬉しかったしね」
同じように思ってくれていたことが嬉しくて、フリージアは潤んでいた目から結局ぽろりと涙を零してしまった。
なぜグレイはこんなにもわかってくれるのだろう。
フリージアは本当のことも言えず、ずっと騙していたのに。
「フリージア、泣かないで」
「ごめんなさい。私、ずっとグレイ様を騙していたのです」
「謝ることはないよ。前にも言っただろう? 僕の方こそ、話さなきゃならないことがあるんだ。それなのに、結局ずっと言えずにいた。フリージアがそれでもかまわないと言ってくれた、その言葉に甘えて」
「それは――人でなし、だということですか?」
「うん。そうだよ。もうすぐ邸に着く。言葉だけで説明するのは少し難しいから、くわしい話はそれからでいいかな」
こくりと頷いて、フリージアは心に決めた。
力のことを話そう、と。
グレイを信じずに誰なら信じられるというのか。
いや。ただフリージアは話したかっただけかもしれない。
話して、楽になりたかったのかもしれない。
それでも、騙しているよりずっといい。
カーティスや父のように、態度が変わってしまったとしても。
「お義兄さんは、結婚式には来ないつもりかな――」
窓の外を眺めながら、グレイがぽつりと呟く。
フリージアは膝をつき、うなだれていたカーティスの姿を思い出す。
「……どうでしょうか」
フリージアはリディのことも気になった。
そのまま邸に残してくれば、どうなるかわからない。
そう思い、リディにも一緒に来るよう言ったのだが。
リディは何かを失ってしまったように力の抜けたカーティスをちらりと見やり、ここに残ると言ったのだ。
『この邸にはこの人をどうにかできる人なんていないでしょ? 罰されるのが怖くて寄らず触らずじゃ、この人死んじゃいそうだし。私がちゃんと見とくから、あんたはさっさと行きな』
そう言ってくれたのだ。
「いつかきっと、お義兄さんとももう一度ちゃんと話をしよう。一緒に」
グレイの優しい瞳が、フリージアを温かく包む。
「はい――」
グレイと一緒なら、カーティスともきちんと話せる気がした。
これまでどうしても噛み合わなかった会話も、わからなかったことも、どうにもできなかったことも、グレイと一緒ならもう一度立ち向かっていける気がした。
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