【R18】適当に呪文を唱えたらオッサン悪魔が来てしまった

チーズたると

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「マゾっ気のある方でしたか」
「そんなことはないはずなんだけどねぇ。けど、君の言葉はこう……胸に響いたっていうか」

 胸に手をあてて瞼を閉じたローランドが、深く染み入るような声調で言った。その仕草が妙に演技掛かっており、胡散臭く見えないこともない。

 ため息混じりに、彩香は返す。

「じゃあ私みたいな人間じゃなくて、もっと女王様気質の女性のところに行ったらどうですか」
「そういうのは求めてないんだよね」

 すっぱりと真顔で男は否定をした。彩香は眉根を寄せる。

「めんどくさいですね」
「そう、そういうとこ。そういうとこだよ、彩香ちゃん」

 冗談などではなく、心の底から感じたことを彩香はくちにしただけなのだが、それが不思議にローランドのツボに入るらしく、彼はこぶしを握って熱く頷いた。

 わかりやすいかと思えば、わけのわからないところにツボがある。やはり、「面倒な悪魔だ」という感想をいだかざるをえない。

 ローランドは腕を組んで、うなった。

「んー……じゃあ、一週間! 一週間だけ一緒に暮らして、それでおじさんに満足できないってんなら諦めるよ」
「地味にしつこいんですけど……」

 もはや困惑の域である。彼はこぶしを握ったまま、身を乗り出して続けた。

「家事はおじさんが全部やるから! ご飯も洗濯も掃除も、みんな。そのあいだ彩香ちゃんはのんびりするなり遊びにいくなり、自由にしたらいいよ」
「……ぜ、全部……?」

 その発言は、悔しいことに彩香を誘惑するには充分すぎるものだった。

 忙しい仕事に、馬の合わない上司。それらによって蓄積されたストレスを発散させるために、彩香は魔法陣を描いたのである。それが、事の始まりだったのだ。

 自由な時間が生まれて、おまけに家事まで任せられる。多忙なひとり暮らしをしている人間で、これに心が動かされない者が果たしているだろうか。

 ローランドは重ねる。

「ああ。料理に満足できないってんなら、レパートリーを増やす努力をしよう。夜道をひとりで歩くのが不安なときは、おじさんが迎えにいくし。悪くないと思うんだけどなぁ」

「む……むむ……」

 魅力的な提案が、ひとつ、またひとつと積み重なっていく。
 彩香は頭をかかえた。このまま素直に首を縦に振るのは、いたく癪な気がした。

 が、仕事の疲れで心身ともにボロボロになっていた彩香が、この甘い誘惑に抗いきれるはずもない。

 自身のプライドと戦いながら、彩香は声を絞り出した。

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