25 / 28
25
しおりを挟む「マゾっ気のある方でしたか」
「そんなことはないはずなんだけどねぇ。けど、君の言葉はこう……胸に響いたっていうか」
胸に手をあてて瞼を閉じたローランドが、深く染み入るような声調で言った。その仕草が妙に演技掛かっており、胡散臭く見えないこともない。
ため息混じりに、彩香は返す。
「じゃあ私みたいな人間じゃなくて、もっと女王様気質の女性のところに行ったらどうですか」
「そういうのは求めてないんだよね」
すっぱりと真顔で男は否定をした。彩香は眉根を寄せる。
「めんどくさいですね」
「そう、そういうとこ。そういうとこだよ、彩香ちゃん」
冗談などではなく、心の底から感じたことを彩香はくちにしただけなのだが、それが不思議にローランドのツボに入るらしく、彼はこぶしを握って熱く頷いた。
わかりやすいかと思えば、わけのわからないところにツボがある。やはり、「面倒な悪魔だ」という感想をいだかざるをえない。
ローランドは腕を組んで、うなった。
「んー……じゃあ、一週間! 一週間だけ一緒に暮らして、それでおじさんに満足できないってんなら諦めるよ」
「地味にしつこいんですけど……」
もはや困惑の域である。彼はこぶしを握ったまま、身を乗り出して続けた。
「家事はおじさんが全部やるから! ご飯も洗濯も掃除も、みんな。そのあいだ彩香ちゃんはのんびりするなり遊びにいくなり、自由にしたらいいよ」
「……ぜ、全部……?」
その発言は、悔しいことに彩香を誘惑するには充分すぎるものだった。
忙しい仕事に、馬の合わない上司。それらによって蓄積されたストレスを発散させるために、彩香は魔法陣を描いたのである。それが、事の始まりだったのだ。
自由な時間が生まれて、おまけに家事まで任せられる。多忙なひとり暮らしをしている人間で、これに心が動かされない者が果たしているだろうか。
ローランドは重ねる。
「ああ。料理に満足できないってんなら、レパートリーを増やす努力をしよう。夜道をひとりで歩くのが不安なときは、おじさんが迎えにいくし。悪くないと思うんだけどなぁ」
「む……むむ……」
魅力的な提案が、ひとつ、またひとつと積み重なっていく。
彩香は頭をかかえた。このまま素直に首を縦に振るのは、いたく癪な気がした。
が、仕事の疲れで心身ともにボロボロになっていた彩香が、この甘い誘惑に抗いきれるはずもない。
自身のプライドと戦いながら、彩香は声を絞り出した。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる