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11話 放課後にて

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 それから暫く経って。
 俺たちは無事、卒業式を迎えることができた。

 代表挨拶も緊張したが、何とか乗り切り、卒業という一生に一度しかない晴れ姿を仲間たちと共に噛みしめた。

 そして……放課後になった。

「ちょっと早めに来すぎたか……」

 屋上へと続く扉を開け、外に出る。
 
「いつ来てもここは良い場所だな……」

 街を一望できる学園内一の絶景スポット。
 特に今日みたいに晴れている時は最高だ。

 だいたい俺は嫌なことがあったら、ここに来ていた。
 ここに来ると何だか穏やかに気分になって、小さいことで悩んでいたことがバカバカしく思えてくるのだ。

 俺にとっては心の処方箋みたいな場所とも言える。

「お、お待たせ」

 景色を眺めていると、後ろでガチャンという音が聞こえる。
 振り向くと、少し息を切らしたアリスが立っていた。

 制服の胸ポケットにはお揃いのコサージュが付けられている。

「ごめんね、待たせちゃって。ちょっと学園長先生に捕まっちゃって……」

「いや、俺も今来たところだから大丈夫」

 俺はアリスに隣に来るよう言うと、暫くの間二人で景色を眺めることに。
 
「……綺麗だ」

「……えっ、き、綺麗!?」

「うん。特に晴れの日に見る時計台は格別だ」

「あっ、景色の話ね……そうだよね!」

「ん……? どうしたんだ?」

「ううん! 何でもない! 確かに綺麗だよね!」

 なんか焦っているが、変なことでも言っただろうか?

 まぁそれはいいとして……

「それで、アリス。俺に話したいことって?」

 頃合いを見て、本題へと移ることに。
 するとアリスの身体がピクっと動いた。

「あ、そうだったね。アリシ……じゃなくて、景色を見ていたら本来の目的を忘れちゃいそうになっちゃった」

「そ、そうか……」

 まぁこの絶景だ。
 そうなるのも仕方ない。

 最初何かを言いかけて止めたのが気になる所だが…… 

 アリスは一呼吸置くと、再度を口を開いた。

「あ、あのね。話したいことっていうのはその……今後のことなんだけど」

「今後のこと?」

「うん。実はわたし、王都の宮廷魔導士団から入団のお誘いを受けたの。さっきも学園長とその話をしていて……」

「マジで!? そりゃすごいじゃないか!」

 宮廷魔導士というと誰もが憧れる職業の一つだ。
 
 これは魔法適正がある者に限るが、能力があってもかなり狭き門。

 というのも、ある程度才能があって能力もそれなり……のレベルじゃ到底なれる職業ではないのだ。

 ずば抜けた才能と宮廷魔導士に見合う能力がなければ、決してその門を潜ることはできない。
 
 なのであまりの難しさに聖域化してしまっているくらい。
 
 でもその代わり、なれた時の見返りはかなり大きく、後の人生は安泰だ。

 だが驚きなのはそこだけじゃない。

 そもそもこの歳で宮廷魔導士団から直々に誘いが来ることはよほど類稀な能力がない限り、ほぼあり得ないのだ。

 大体は成人した能力者に限るから、学生の身分で誘われることは歴史上でも指で数えるほどしかない。

 それに才能があっても認めれないケースはよくあること。

 才能を能力へと上手く結びつけられることによって、初めて認めてもらえるのだ。

 聞けばスカウトの理由は前に視察に来た際に決めたことらしい。
 多分、大神官誕生の噂を聞きつけてきたのだろう。

 確かに何度か派手な服装をした人たちが学園を訪れていたことがあった。

 要するにアリスの場合、才能も能力も両方とも宮廷魔導士団に認められたっ別格の存在ということになる。

 これはもうすごい以外の言葉しか見当たらない。

「じゃあ、卒業後は宮廷魔導士団に入るのか?」

「そ、それなんだけど……迷っているの」

「迷ってる? 何でさ?」

「わたしは確かに大神官の恩恵を授かった身だけど、まだまだ未熟だし。今宮廷魔導士団に入っても、お荷物にしかならないと思うの」

「そんなことはないんじゃないか? だって向こうはアリスの能力をしっかりと把握した上で誘ってきたんだろう?」

「それはそうだろうけど……」

 なんだ? あまり嬉しくなさそうだな。

 本来ならもっと喜んでもいいだろうに。

「何か気がかりなことでもあるのか?」

「気がかりというか、このまま行ってもいいのかなって。まだわたしは学生の身だし、高等部までは通いたいなって思ってたから……」

「まだ学生気分を味わっていたいと?」

「そういう理由もあったりする……」

 あったりする……って……

 でもアリスの言いたいことは何となく分かった。
 要はこの件に関して自分では収拾がつかなくなったから、相談相手になってほしい……とこんな感じか。

 少々期待していただけに残念……

「ごめんね、いきなりこんなこと言われても困るよね」

「いや、いいんだ。アリスの為なら相談役だろうが何だろうが協力するよ。実際、こうして平和に卒業できたのもアリスの助力があってのものなんだし」

 強くなれたの自分だけの力だけではないのは承知している。
 アリスは俺のアホみたいな特訓にいつも付き合ってくれてたんだ。

 せめて何か恩返しをしないと。

「じゃ、じゃあ一つアリシアくんに質問してもいい?」

「おう、なんでも聞いてくれ」

 その一言で少し安心感を得たのかさっきよりも明るい雰囲気に変わると、

「アリシアくんって卒業した後、高等部に進むんだよね?」

「あぁ……そのことなんだけど、俺高等部行くの止めたよ」

「えっ……?」

 なぜと言わんばかりに表情を曇らせるアリス。
 
 アリスにはまだ言ってなかった。
 俺が決めた新しい道の話を。

 一応全て準備が出来た時に打ち明けるつもりだったけど、この際仕方ない。

「実は、俺さ――」

 一呼吸置き、アリスの方を見る。
 そしてしっかりと目を合わせると、その理由を話した。
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