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10.暗殺者の正体
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翌朝から、私たち一行は只管にドートリッシュ王城を目指した。別荘で爆発事故を起こしたロイ・ベルモンの容態が芳しくない。保存食としてのパンも残りが限られている。
道すがら食料を集める事になった。備蓄食料も別荘で燃えてしまい、ジスランが指示して持ち出した微量のパンしかない。一週間足らず絶食しても生きていけるというのは私の感覚。ガタイの良い騎士たちも同じとは限らない。
「それは、ツキヨタケという毒キノコです。キノコ採りは私に任せて川で魚を獲ってきて頂けますか? ここから二分程下ったところにある川には食用魚がたくさんいます」
ルイス・ビュケが率先して道すがら食材を集めてくれていた。彼は非常に協力的なので、私はメイン料理の調達を頼んだ。
「了解しました。フェリシア様。この辺りは海も近いですし魚だけでなく、カニなども獲れそうですね」
「いえ、魚だけで結構です。岩場は危険なので避けてください。苔むしていて滑って頭でも打ったら大変です。一番大事なのは自分の命。一週間くらい絶食しても生きていけますよ」
岩場ではカニが獲れる。しかし、この辺りは毒性のあるスベスベマンジュウガニが生息していて危険。食用ガニと特徴が近く、初見では判別がしにくい。
「了解しました。安全第一に魚を獲って参ります」
ルイス・ビュケは右手を掲げて敬礼をし、足早に森を下っていく。
「ビュケ卿、冬も近いですし魚がいなかったら無理せず戻ってください!」
ビュケ卿の背に向かい叫ぶと、彼は速度を落として気をつけながら下り出した。この辺りの森は土から根がはみ出ていて段差も多く危ない。私はもう誰も失いたくない。
「フェリシア様はお優しいですね。臣下を大切にしていらっしゃる」
後ろから話し掛けられて振り向くと、ギル・ブトナの翡翠色の瞳が私を見つめていた。
「当然です。私たちは仲間ですよ」
「仲間⋯⋯」
私が微笑みながら言った言葉にギル・ブトナは明らかに戸惑っていた。
彼は忠誠心が強そうに見えたのに意外な反応だ。
私は周りの騎士たちに指示を出した。この辺りは食用できる植物も豊富だが、気をつけなければならない危険も多い。
「集めて頂いた食料は私の方でまとめて調理致します。それから、赤いこれくらいのクワガタに似た虫には毒があるので、触れないようにしてください」
私の言葉にギル・ブトナが素早く反応する。
「王子妃であるフェリシア様に食事の用意などさせられません」
ギル・ブトナの言葉に微かな違和感。
通常時であれば当然のことを彼は言っているが、今は非常時。
ジスランが騎士たちに対して疑心暗鬼になっている以上、私が調理することで彼の信用を買うのは当然だ。
ギル・ブトナは昨晩スープを投げつけたジスランを見ている。
冷静沈着と評されるジスランが過敏になっている姿に、今が非常時だと察して欲しい。
「私の愛おしい旦那様が、私の作った食事しか食べたくないと我儘をおっしゃるのです」
私は騎士たちの中に裏切り者がいる可能性を疑っているとは言えず、とりあえず惚気てみた。
「⋯⋯分かりました」
ギル・ブトナは小さく舌打ちをして、引き下がった。
暗くなるまで歩き続けたから、ドートリッシュ王城まであと半分の道のり。
周囲の騎士たちの疲弊と、息も絶え絶えのロイ・ベルモンが心配だ。
そんな私の不安をよそに、ジスランは幸せそうに私をチラチラ見ながら私の作った緊急食を頬張っている。
騎士たちは焚き火を囲み食事をする中、私はジスランの希望で二人っきりのテントの中で食事をする事になった。
「魚に、キノコとじゃがいものソテー、じゃがいものスープまで。何もないところから、こんなに食事を作るなんて僕の愛しい妻は本当に凄いな」
「ビュケ卿が川まで魚を獲りに行ってくれたお陰です」
「この非常時に美味しい食事が食べられるのはフェリシアのお陰だよ。魚の骨を全部抜いて調理するなんて、こんな不便な環境の中でもまるで一流シェフじゃないか」
ジスランの私への称賛が止まらない。
魚の骨を抜いて調理したのは、西洋水仙の毒で喉が腫れている騎士たちがいたからだ。
「そんなことを言ったら、一流シェフに失礼ですよ」
「今まで食べたどの料理より美味しく感じる。やっぱり好きな人が作ったからかな」
ジスランが急に私の手を引き、唇を寄せてくる。
「ジスランやめてください!」
思いの外冷たい声が出てしまう。
「フェリシア、本当に僕のことを好きではなくなってしまったんだな」
傷ついたのを隠せないくらい弱々しい声を出したジスランは、そのままふて寝してしまった。
寝入ったジスランを起こさないように、食器を片付けようとテントの外に出る。
皆がテントで寝入っている真夜中。
街の明かりがないからか、余計な明かりがなくて満点の星空が美しい。
その時、木の影に隠れジスランの眠るテントに近づく影が見えた。
私は近くのテントの天幕を開け、置いてある剣をとる。
「⋯⋯フェリシア様?」
眠気まなこのルイス・ビュケを起こしてしまったようだ。
「剣を借りるわよ」
私は口元に人差し指をあて囁くと、ジスランがいるテントに近づく影を追った。
影がテントの天幕を開け、剣を振り上げたのが見えた。
「死ね! ジスラン・ドートリッシュ!」
なんとか影に追いついた私は、影の男の振り上げた腕を力の限り剣で切り落とした。影の男の上腕動脈が切れたのか、大量の血が吹き出す。
「くそっ!」
私が腕を切り落とした男の正体はジスランの側近ギル・ブトナだった。
道すがら食料を集める事になった。備蓄食料も別荘で燃えてしまい、ジスランが指示して持ち出した微量のパンしかない。一週間足らず絶食しても生きていけるというのは私の感覚。ガタイの良い騎士たちも同じとは限らない。
「それは、ツキヨタケという毒キノコです。キノコ採りは私に任せて川で魚を獲ってきて頂けますか? ここから二分程下ったところにある川には食用魚がたくさんいます」
ルイス・ビュケが率先して道すがら食材を集めてくれていた。彼は非常に協力的なので、私はメイン料理の調達を頼んだ。
「了解しました。フェリシア様。この辺りは海も近いですし魚だけでなく、カニなども獲れそうですね」
「いえ、魚だけで結構です。岩場は危険なので避けてください。苔むしていて滑って頭でも打ったら大変です。一番大事なのは自分の命。一週間くらい絶食しても生きていけますよ」
岩場ではカニが獲れる。しかし、この辺りは毒性のあるスベスベマンジュウガニが生息していて危険。食用ガニと特徴が近く、初見では判別がしにくい。
「了解しました。安全第一に魚を獲って参ります」
ルイス・ビュケは右手を掲げて敬礼をし、足早に森を下っていく。
「ビュケ卿、冬も近いですし魚がいなかったら無理せず戻ってください!」
ビュケ卿の背に向かい叫ぶと、彼は速度を落として気をつけながら下り出した。この辺りの森は土から根がはみ出ていて段差も多く危ない。私はもう誰も失いたくない。
「フェリシア様はお優しいですね。臣下を大切にしていらっしゃる」
後ろから話し掛けられて振り向くと、ギル・ブトナの翡翠色の瞳が私を見つめていた。
「当然です。私たちは仲間ですよ」
「仲間⋯⋯」
私が微笑みながら言った言葉にギル・ブトナは明らかに戸惑っていた。
彼は忠誠心が強そうに見えたのに意外な反応だ。
私は周りの騎士たちに指示を出した。この辺りは食用できる植物も豊富だが、気をつけなければならない危険も多い。
「集めて頂いた食料は私の方でまとめて調理致します。それから、赤いこれくらいのクワガタに似た虫には毒があるので、触れないようにしてください」
私の言葉にギル・ブトナが素早く反応する。
「王子妃であるフェリシア様に食事の用意などさせられません」
ギル・ブトナの言葉に微かな違和感。
通常時であれば当然のことを彼は言っているが、今は非常時。
ジスランが騎士たちに対して疑心暗鬼になっている以上、私が調理することで彼の信用を買うのは当然だ。
ギル・ブトナは昨晩スープを投げつけたジスランを見ている。
冷静沈着と評されるジスランが過敏になっている姿に、今が非常時だと察して欲しい。
「私の愛おしい旦那様が、私の作った食事しか食べたくないと我儘をおっしゃるのです」
私は騎士たちの中に裏切り者がいる可能性を疑っているとは言えず、とりあえず惚気てみた。
「⋯⋯分かりました」
ギル・ブトナは小さく舌打ちをして、引き下がった。
暗くなるまで歩き続けたから、ドートリッシュ王城まであと半分の道のり。
周囲の騎士たちの疲弊と、息も絶え絶えのロイ・ベルモンが心配だ。
そんな私の不安をよそに、ジスランは幸せそうに私をチラチラ見ながら私の作った緊急食を頬張っている。
騎士たちは焚き火を囲み食事をする中、私はジスランの希望で二人っきりのテントの中で食事をする事になった。
「魚に、キノコとじゃがいものソテー、じゃがいものスープまで。何もないところから、こんなに食事を作るなんて僕の愛しい妻は本当に凄いな」
「ビュケ卿が川まで魚を獲りに行ってくれたお陰です」
「この非常時に美味しい食事が食べられるのはフェリシアのお陰だよ。魚の骨を全部抜いて調理するなんて、こんな不便な環境の中でもまるで一流シェフじゃないか」
ジスランの私への称賛が止まらない。
魚の骨を抜いて調理したのは、西洋水仙の毒で喉が腫れている騎士たちがいたからだ。
「そんなことを言ったら、一流シェフに失礼ですよ」
「今まで食べたどの料理より美味しく感じる。やっぱり好きな人が作ったからかな」
ジスランが急に私の手を引き、唇を寄せてくる。
「ジスランやめてください!」
思いの外冷たい声が出てしまう。
「フェリシア、本当に僕のことを好きではなくなってしまったんだな」
傷ついたのを隠せないくらい弱々しい声を出したジスランは、そのままふて寝してしまった。
寝入ったジスランを起こさないように、食器を片付けようとテントの外に出る。
皆がテントで寝入っている真夜中。
街の明かりがないからか、余計な明かりがなくて満点の星空が美しい。
その時、木の影に隠れジスランの眠るテントに近づく影が見えた。
私は近くのテントの天幕を開け、置いてある剣をとる。
「⋯⋯フェリシア様?」
眠気まなこのルイス・ビュケを起こしてしまったようだ。
「剣を借りるわよ」
私は口元に人差し指をあて囁くと、ジスランがいるテントに近づく影を追った。
影がテントの天幕を開け、剣を振り上げたのが見えた。
「死ね! ジスラン・ドートリッシュ!」
なんとか影に追いついた私は、影の男の振り上げた腕を力の限り剣で切り落とした。影の男の上腕動脈が切れたのか、大量の血が吹き出す。
「くそっ!」
私が腕を切り落とした男の正体はジスランの側近ギル・ブトナだった。
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