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鼓動が激しく高鳴る。
そのせいか身体が燃えるかのように熱く、微かに痛みを覚えた。
刹那はその痛みで少し冷静さを取り戻し、感じたその痛みが何なのか理解もしないまま、慌ててリゼットを引き剥がした。
「な、なんなんだよいったい??! 何がしたいんだあんたは!!?」
刹那はそう声を荒げた。
「・・・へ? え・・・え、え??? 私なにを??!」
リゼットは顔を真っ赤にして狼狽えていた。
そして刹那が立ち上がろうと手を床に付けると、そこにはリゼットが取り乱した時に地面に転がしていた翡翠晶があった。それが刹那の指に触れた瞬間に、水晶玉の中に模様が浮かび上がる。
ニブルヘンリはそれを見るやいなや、翡翠晶をスーツケースに片付け、刹那の身体を軽々と持ち上げた。
「おい、何すんだ!!!」
「やはりお嬢は正しかった。このコウ=ニブルヘンリ、心では一度だって疑っておりませんでした」
ニブルヘンリはリゼットの手を取り、刹那を抱えたまま堂々とその場から離れていった。
そして学校から数分歩いた土手で立ち止まり、刹那を下ろす。
「・・・俺は術師じゃない」
「いいや、お前は術師だ。さっきまでは違ったのかもしれんがな」
「どういう意味だ?」
「お前は先程のお嬢とのキッスにより、術師となったのだ」
「は? そんなはずないだろ!? 錬成は代々子に受け継がれていく力のはずだ!?」
「詳しいのだな。あぁそうだ。だが今回は違う。お前には初めから錬成の力が宿っていたのだ。だが何が原因かは知らんが、その力は眠っていた。そしてその眠りがお嬢とのキッスにより、お嬢の心力に当てられ覚醒し、お前は晴れて術師になれたのだ。お嬢のキッスに感謝するのだな」
「ーーーキスキスって言わないでよ! 馬鹿ニブルヘンリ!!!」
リゼットは顔を手で隠しながらそう叫んだ。
「私、あんな事するつもりなんてなかったのよ・・・」
遂にはそう言ってその場でうずくまってしまった。
刹那も今更になってあの時の事を思い出し、動揺していた。
「お二方、いつまでも術師がここにいるのはよろしくありません。ですから早くお立ちください、奥様」
「私はまだ未婚よッ!!!」
「いいえ、衆人環視の前で異性に抱きつき、ああも激しいキッスをしたのです。あれはもう誓いのキッスと言っても過言ではありません」
「なんでそうなるのよ! 馬鹿ッ!!!」
そうリゼットがニブルヘンリを怒鳴った後、すかさずリゼットは刹那に顔を向けこう言った。
「いい! あれは事故よ、事故! だから変な勘違いはしないこと! そして誰にも言いふらさないこと! ニブルヘンリもよ! 分かった?!」
「御意に」
「あ、あぁ・・・」
刹那はリゼットの勢いに押されコクリと頷く。
そして三人は再び歩き出した。
その道中刹那の要望により、翡翠晶による判定をもう一度行った。
結果は反応有り、つまり刹那が術師であると判定された。
「俺が術師・・・でもなんで?」
「詳しくは分からん。だが、不思議な事ではない」
「私がいうのもあれだけど、未だかつて一般人が術師に目覚めたなんて話聞いたことがないわよ」
「そんな事はありませんよ、お嬢。過去に居たではありませんか。その大昔、悪魔に怯える人々の前に颯爽と現れ、世界に平和をもたらした英雄達が」
ニブルヘンリがそう言うとリゼットも刹那もハッと顔を見合わせこう言った。
「「《十三華月》!」」
「そうです。かつて世界を救った十三人の英雄は御伽噺ではありません。つまり術師にとっての始祖であらせられる《十三華月》は、何かしらの方法でこの力に目覚めたのだと思うのが自然でしょう」
「ま、御託はいいわ。私が間違っていなかったことが証明されたもの。そうでしょ? ニブルヘンリ」
「はい、その通りでございます!」
「貴方もよ。貴方も・・・って、そういえば名前を聞いていなかったわね。貴方、名前は?」
「俺は・・・刹那。秋鹿刹那だ」
「刹那ね。私はリゼット=ロローよ。ここのアカデミーに通うために、遥々イギリスからやってきたのよ。そしてこっちの大男が私のボディーガード兼荷物持ちのーーー」
「コウ=ニブルヘンリだ。本来の肩書きはイギリス所属防衛機構特殊隊副隊長だ。覚えなくてもいいが」
「はあ・・・」
ーーーペルセウス? 聞いたことがないな。
大抵の一般人は防衛機構についてはその存在程度しか知らず、その中の構成について知る者は僅かだった。そのため刹那も知らない。
そしてそれはこの先の世界についても同様に。
「お嬢、着きました。ここがニホンの天上界への扉になります」
街の中央に大きく聳え立つ壁。それは一般人と術師を隔てる壁。しかしその城の様な豪華な仕様も加わり、立場の違い、人種として優劣を表す象徴のようでもあった。
そしてここはその向こうへと繋がる唯一の門。それが天上界への扉。
この先は紛れもなく術師の世界。
「イギリスからミョルニルの魂を護送する任を受けたコウ=ニブルヘンリと、その魂の器ーーーリゼット=ロローだ。ここを通してもらおう」
ニブルヘンリが門番にそう言った。
「おおー! 貴女様が・・・お待ちしておりました! えっとそれでそちらは?」
「こっちは野良術師のアイカセツナというものだ」
「ノラ・・・?」
「天然物といってもいい」
「は、はあ・・・しかしまぁ一応術師判定は受けてもらう規則ですので、こちらへどうぞ」
そうして門の隣にある建物へと案内され、先程の翡翠晶による判定を行った。
やはり結果は変わらず術師判定だった。
ーーー俺、このままどうなるんだ・・・? 家には兎和もいるのに・・・
「判定は終わりました。が、しかし・・・そちらの方の身分が特定出来ません。いったいどこの所属でしょうか?」
門番は刹那の身元の特定が出来ず、困惑しているようだった。
「だから野良だと言っただろう。どこにも所属していない。所属していないのだから防衛機構のデータベースに登録されていないのは当然だ。ならばここで登録すればいいだけのこと。そんな事も判断できないのか、お前は? そんな事でいちいち俺たち術師を待たせるつもりか? いい御身分だな」
「い、いいえ! 申し訳ありません! 今すぐに登録して参ります!」
門番は慌てて部屋から出て行った。
その場面を見て刹那は術師はやはり術師なのだと実感した。
リゼットの子供らしい一面も、ニブルヘンリの気さくな物言いも相手が術師だからなのだと。
「・・・なんでお前たちはそうなんだ?」
「なんだ? 気を悪くしたか?」
「当たり前だろ・・・!」
「そうか、当たり前か。ならここから先、その当たり前は通用しなくなると覚えておけ」
「そうよ。一般人を対等な人間として見ていること自体が異常なのよ」
「ーーーなにが異常だッ!!? おかしいのはお前らの方だろ!!?」
その刹那の発言に二人はため息を吐き、こう言った。
「あのね。平和ボケしている貴方の頭じゃ到底理解出来ないかもしれないけど、それは一般人のためでもあるのよ。そもそもの話し、一般人は術師を対等な人間として見ることが出来るのかしら? こんな強大な力を持った相手を、心の底から信用出来るのかしら?」
「それは・・・!?」
「まぁ出来ないでしょうね。馬鹿ならどうか分からないけど。方や悪魔にもなりうる力を持った人間と方や同等の知力を持った無力な人間。そんな人達が同じ檻に入れられて見なさいよ。まぁきっかけは口論でも飢えでもなんでもいいわ。でもきっと最後に残るのは悪魔でしょうね。力を持ってるって、そういうことだから。だから私たち術師は一般人との接触を制限されているのよ。そして強者は強者らしく振る舞わなければ、無駄な血が流れてしまうものよ。覚えておきなさい」
刹那は感情的に納得したくないという反面、その言い分も理解出来てしまい、言葉を詰まらせた。しかし、すぐに拳を握りしめ、声を震わせてこう言った。
「ーーー俺の親は術師に殺された」
そのせいか身体が燃えるかのように熱く、微かに痛みを覚えた。
刹那はその痛みで少し冷静さを取り戻し、感じたその痛みが何なのか理解もしないまま、慌ててリゼットを引き剥がした。
「な、なんなんだよいったい??! 何がしたいんだあんたは!!?」
刹那はそう声を荒げた。
「・・・へ? え・・・え、え??? 私なにを??!」
リゼットは顔を真っ赤にして狼狽えていた。
そして刹那が立ち上がろうと手を床に付けると、そこにはリゼットが取り乱した時に地面に転がしていた翡翠晶があった。それが刹那の指に触れた瞬間に、水晶玉の中に模様が浮かび上がる。
ニブルヘンリはそれを見るやいなや、翡翠晶をスーツケースに片付け、刹那の身体を軽々と持ち上げた。
「おい、何すんだ!!!」
「やはりお嬢は正しかった。このコウ=ニブルヘンリ、心では一度だって疑っておりませんでした」
ニブルヘンリはリゼットの手を取り、刹那を抱えたまま堂々とその場から離れていった。
そして学校から数分歩いた土手で立ち止まり、刹那を下ろす。
「・・・俺は術師じゃない」
「いいや、お前は術師だ。さっきまでは違ったのかもしれんがな」
「どういう意味だ?」
「お前は先程のお嬢とのキッスにより、術師となったのだ」
「は? そんなはずないだろ!? 錬成は代々子に受け継がれていく力のはずだ!?」
「詳しいのだな。あぁそうだ。だが今回は違う。お前には初めから錬成の力が宿っていたのだ。だが何が原因かは知らんが、その力は眠っていた。そしてその眠りがお嬢とのキッスにより、お嬢の心力に当てられ覚醒し、お前は晴れて術師になれたのだ。お嬢のキッスに感謝するのだな」
「ーーーキスキスって言わないでよ! 馬鹿ニブルヘンリ!!!」
リゼットは顔を手で隠しながらそう叫んだ。
「私、あんな事するつもりなんてなかったのよ・・・」
遂にはそう言ってその場でうずくまってしまった。
刹那も今更になってあの時の事を思い出し、動揺していた。
「お二方、いつまでも術師がここにいるのはよろしくありません。ですから早くお立ちください、奥様」
「私はまだ未婚よッ!!!」
「いいえ、衆人環視の前で異性に抱きつき、ああも激しいキッスをしたのです。あれはもう誓いのキッスと言っても過言ではありません」
「なんでそうなるのよ! 馬鹿ッ!!!」
そうリゼットがニブルヘンリを怒鳴った後、すかさずリゼットは刹那に顔を向けこう言った。
「いい! あれは事故よ、事故! だから変な勘違いはしないこと! そして誰にも言いふらさないこと! ニブルヘンリもよ! 分かった?!」
「御意に」
「あ、あぁ・・・」
刹那はリゼットの勢いに押されコクリと頷く。
そして三人は再び歩き出した。
その道中刹那の要望により、翡翠晶による判定をもう一度行った。
結果は反応有り、つまり刹那が術師であると判定された。
「俺が術師・・・でもなんで?」
「詳しくは分からん。だが、不思議な事ではない」
「私がいうのもあれだけど、未だかつて一般人が術師に目覚めたなんて話聞いたことがないわよ」
「そんな事はありませんよ、お嬢。過去に居たではありませんか。その大昔、悪魔に怯える人々の前に颯爽と現れ、世界に平和をもたらした英雄達が」
ニブルヘンリがそう言うとリゼットも刹那もハッと顔を見合わせこう言った。
「「《十三華月》!」」
「そうです。かつて世界を救った十三人の英雄は御伽噺ではありません。つまり術師にとっての始祖であらせられる《十三華月》は、何かしらの方法でこの力に目覚めたのだと思うのが自然でしょう」
「ま、御託はいいわ。私が間違っていなかったことが証明されたもの。そうでしょ? ニブルヘンリ」
「はい、その通りでございます!」
「貴方もよ。貴方も・・・って、そういえば名前を聞いていなかったわね。貴方、名前は?」
「俺は・・・刹那。秋鹿刹那だ」
「刹那ね。私はリゼット=ロローよ。ここのアカデミーに通うために、遥々イギリスからやってきたのよ。そしてこっちの大男が私のボディーガード兼荷物持ちのーーー」
「コウ=ニブルヘンリだ。本来の肩書きはイギリス所属防衛機構特殊隊副隊長だ。覚えなくてもいいが」
「はあ・・・」
ーーーペルセウス? 聞いたことがないな。
大抵の一般人は防衛機構についてはその存在程度しか知らず、その中の構成について知る者は僅かだった。そのため刹那も知らない。
そしてそれはこの先の世界についても同様に。
「お嬢、着きました。ここがニホンの天上界への扉になります」
街の中央に大きく聳え立つ壁。それは一般人と術師を隔てる壁。しかしその城の様な豪華な仕様も加わり、立場の違い、人種として優劣を表す象徴のようでもあった。
そしてここはその向こうへと繋がる唯一の門。それが天上界への扉。
この先は紛れもなく術師の世界。
「イギリスからミョルニルの魂を護送する任を受けたコウ=ニブルヘンリと、その魂の器ーーーリゼット=ロローだ。ここを通してもらおう」
ニブルヘンリが門番にそう言った。
「おおー! 貴女様が・・・お待ちしておりました! えっとそれでそちらは?」
「こっちは野良術師のアイカセツナというものだ」
「ノラ・・・?」
「天然物といってもいい」
「は、はあ・・・しかしまぁ一応術師判定は受けてもらう規則ですので、こちらへどうぞ」
そうして門の隣にある建物へと案内され、先程の翡翠晶による判定を行った。
やはり結果は変わらず術師判定だった。
ーーー俺、このままどうなるんだ・・・? 家には兎和もいるのに・・・
「判定は終わりました。が、しかし・・・そちらの方の身分が特定出来ません。いったいどこの所属でしょうか?」
門番は刹那の身元の特定が出来ず、困惑しているようだった。
「だから野良だと言っただろう。どこにも所属していない。所属していないのだから防衛機構のデータベースに登録されていないのは当然だ。ならばここで登録すればいいだけのこと。そんな事も判断できないのか、お前は? そんな事でいちいち俺たち術師を待たせるつもりか? いい御身分だな」
「い、いいえ! 申し訳ありません! 今すぐに登録して参ります!」
門番は慌てて部屋から出て行った。
その場面を見て刹那は術師はやはり術師なのだと実感した。
リゼットの子供らしい一面も、ニブルヘンリの気さくな物言いも相手が術師だからなのだと。
「・・・なんでお前たちはそうなんだ?」
「なんだ? 気を悪くしたか?」
「当たり前だろ・・・!」
「そうか、当たり前か。ならここから先、その当たり前は通用しなくなると覚えておけ」
「そうよ。一般人を対等な人間として見ていること自体が異常なのよ」
「ーーーなにが異常だッ!!? おかしいのはお前らの方だろ!!?」
その刹那の発言に二人はため息を吐き、こう言った。
「あのね。平和ボケしている貴方の頭じゃ到底理解出来ないかもしれないけど、それは一般人のためでもあるのよ。そもそもの話し、一般人は術師を対等な人間として見ることが出来るのかしら? こんな強大な力を持った相手を、心の底から信用出来るのかしら?」
「それは・・・!?」
「まぁ出来ないでしょうね。馬鹿ならどうか分からないけど。方や悪魔にもなりうる力を持った人間と方や同等の知力を持った無力な人間。そんな人達が同じ檻に入れられて見なさいよ。まぁきっかけは口論でも飢えでもなんでもいいわ。でもきっと最後に残るのは悪魔でしょうね。力を持ってるって、そういうことだから。だから私たち術師は一般人との接触を制限されているのよ。そして強者は強者らしく振る舞わなければ、無駄な血が流れてしまうものよ。覚えておきなさい」
刹那は感情的に納得したくないという反面、その言い分も理解出来てしまい、言葉を詰まらせた。しかし、すぐに拳を握りしめ、声を震わせてこう言った。
「ーーー俺の親は術師に殺された」
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