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23 ときめきが止まらない
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私は和馬と一緒にアパートを出る。いつもより少し早い時間と雲一つない空。今日も暑くなりそうな一日だった。
「……ぐっすり眠れた。那波効果抜群。一日頑張れそうだ」
和馬がセットした前髪をかき上げながら空を見上げていた。ダークブラウンの瞳をキュッと細めてまぶしそうにしていた。手入れされた眉が見えた。暑くなってぐちゃぐちゃになりそうな一日の始まりでも、実に爽やかな笑顔だ。
「変な効果の名前をつけないでよね。でも、私も何だかよく眠れたわ」
狭いベッドで抱きしめられたまま眠ったのに何故か深い眠りだった。
(どうしてかな。寝返りもうてないほど狭いのに。何だろう匂いとか温かさとか……いや心音かな?)
一人で眠るときよりも心地が良かった。謎すぎて私は歩きながら考え込む。
「だろ? 俺達本格的に一緒に暮らす事を考えた方がいいかもな。那波がいるなら、俺のマンションで暮らすのもいいかも。満員電車に揺られる事もなくなるぜ。どうだ?」
「何言ってるの。冗談は止めてよね」
通勤距離が短くなるのは魅力的だけど……って。危ない危ないそんな事につられるなんて。
「もう仕事モードかよ。もっと恋人としての時間を楽しもうぜ」
「あのねぇ」
私はおでこに手をつけて俯いてしまう。
(恋人としての時間なんて。そんな事これっぽっちも思っていないくせに)
何処までもこの状況を楽しむだけの和馬だ。私は頭を抱える事しか出来ない。そんな私を横目に、和馬が鞄を改めて肩にかけ直す。和馬と私の鞄の中には一緒に作ったお弁当がそれぞれ入っている。
「弁当を作るのって時間との勝負なんだな」
「そうね。朝はやる事が多いからね」
朝起きてお弁当の準備に取りかかろうとすると和馬が手伝うと言い出した。傍観しているだけかと思ったので意外だった。
「俺、まともな朝食を食ったの久し振りだった。実家にいた以来かも」
そう言って和馬は自分のお腹をポンポンと叩いた。
「大げさだよ。ごはんとお味噌汁に冷凍していた温野菜食べただけでしょ」
「大体シリアルが多かったしさ。後は飲むゼリー的なやつとかさ。ああいうのばっかりだったし」
「そういう日もあるよ?」
「そうだろうけど。普段やってないとあんなにスムーズには出来ないもんさ。那波は手際もいいし事前の準備もバッチリ。さすがだよな。改めて感心した……ありがとう」
そう言って和馬は私の頭を優しく撫でた。
何をするのよと、手を振りほどきたかったけれども最後に優しくお礼を言われたらそれも出来なくなる。
(褒められ慣れていないからさ。こういうの調子狂うんだよね。と言うかチョロいって思われるよね。嫌だな)
実際和馬は大げさに褒めているだけだ。それより驚いたのは隣で手伝ってくれた、和馬の飲み込みの早さだった。
確かに家事全般はあまりやっていない様子だ。それだけ手つきが危うかったのだが、教えた事はスルスルと飲み込んでしまう。しかも最後上手い具合にアレンジするし。卵焼きが一発で上手に巻けるとは思わなかった。
驚く私の側で和馬は照れて笑いながら「那波の教え方が上手だからだろ」と言っていた。そんな事はない。
だって私は普通なだけだ。
世の中私より料理やお弁当作りが上手な人は沢山いる。だって私は冷凍食品も入れちゃう派だし。和馬だって付き合ってきた女性達の中には、家事が得意な女性もいたはずだろう。
「別にたいした事ないわよ……」
私は頬を染めた事がバレるのが恥ずかしくて視線を逸らす様にして首を傾げてみせる。そんな見え透いた方法でしか和馬の手から逃れられなかった。
「俺達いい感じで台所でも連携がとれていたよな? 夜も那波と料理するの楽しみだな」
「なっ、何言って」
突然夜も手伝うとさらりと言われて私は思わず口ごもってしまった。
「だってさ、準備も後始末も二人でやった方が早いだろ?」
和馬はにっこりと微笑みながら白い歯を光らせて笑う。人なつっこい飾らない笑顔に私は、思わず歩いてた足を止めて釘付けになった。出会った頃、こんな微笑み方はしなかった。そうもっと作った様な笑い方だったのに。喧嘩をして仕事を一緒に頑張り始めた頃からこんな風に笑う様になった。それでも今の笑い方はまずいよ。
(うわっこのキラキラの無印(?)笑顔……止めてよね。そういうの私ちょっと困る)
私の事を脅して付き合っている和馬。和馬はその優しい雰囲気とは異なって、俺様気質なところをチラリと覗かせたりするのに、なんでこんな風に家庭的アピールと言うかいつも一緒にいたいって言うか。
私はズブズブと沼にはまっていく様な気がして、益々どうしていいか分からなくなる。
「それにさ。俺と那波ってトイレ行くタイミングが同じだよな。ハハハ、朝は慌てない様にしないとな」
「!」
私は思いっきり和馬の背中を叩いて呻く彼を置き去りにして駅に向かって歩いた。
(前言撤回、やっぱり和馬はデリカシーなさすぎ。トイレは朝から共有する羽目になってちょっと気にはなっていたのに。そんな事だから、和馬は付き合っても、二週間とか三ヶ月しかもたないのよっ!)
恥ずかしさと怒りで私は顔から火が出た。
「……ぐっすり眠れた。那波効果抜群。一日頑張れそうだ」
和馬がセットした前髪をかき上げながら空を見上げていた。ダークブラウンの瞳をキュッと細めてまぶしそうにしていた。手入れされた眉が見えた。暑くなってぐちゃぐちゃになりそうな一日の始まりでも、実に爽やかな笑顔だ。
「変な効果の名前をつけないでよね。でも、私も何だかよく眠れたわ」
狭いベッドで抱きしめられたまま眠ったのに何故か深い眠りだった。
(どうしてかな。寝返りもうてないほど狭いのに。何だろう匂いとか温かさとか……いや心音かな?)
一人で眠るときよりも心地が良かった。謎すぎて私は歩きながら考え込む。
「だろ? 俺達本格的に一緒に暮らす事を考えた方がいいかもな。那波がいるなら、俺のマンションで暮らすのもいいかも。満員電車に揺られる事もなくなるぜ。どうだ?」
「何言ってるの。冗談は止めてよね」
通勤距離が短くなるのは魅力的だけど……って。危ない危ないそんな事につられるなんて。
「もう仕事モードかよ。もっと恋人としての時間を楽しもうぜ」
「あのねぇ」
私はおでこに手をつけて俯いてしまう。
(恋人としての時間なんて。そんな事これっぽっちも思っていないくせに)
何処までもこの状況を楽しむだけの和馬だ。私は頭を抱える事しか出来ない。そんな私を横目に、和馬が鞄を改めて肩にかけ直す。和馬と私の鞄の中には一緒に作ったお弁当がそれぞれ入っている。
「弁当を作るのって時間との勝負なんだな」
「そうね。朝はやる事が多いからね」
朝起きてお弁当の準備に取りかかろうとすると和馬が手伝うと言い出した。傍観しているだけかと思ったので意外だった。
「俺、まともな朝食を食ったの久し振りだった。実家にいた以来かも」
そう言って和馬は自分のお腹をポンポンと叩いた。
「大げさだよ。ごはんとお味噌汁に冷凍していた温野菜食べただけでしょ」
「大体シリアルが多かったしさ。後は飲むゼリー的なやつとかさ。ああいうのばっかりだったし」
「そういう日もあるよ?」
「そうだろうけど。普段やってないとあんなにスムーズには出来ないもんさ。那波は手際もいいし事前の準備もバッチリ。さすがだよな。改めて感心した……ありがとう」
そう言って和馬は私の頭を優しく撫でた。
何をするのよと、手を振りほどきたかったけれども最後に優しくお礼を言われたらそれも出来なくなる。
(褒められ慣れていないからさ。こういうの調子狂うんだよね。と言うかチョロいって思われるよね。嫌だな)
実際和馬は大げさに褒めているだけだ。それより驚いたのは隣で手伝ってくれた、和馬の飲み込みの早さだった。
確かに家事全般はあまりやっていない様子だ。それだけ手つきが危うかったのだが、教えた事はスルスルと飲み込んでしまう。しかも最後上手い具合にアレンジするし。卵焼きが一発で上手に巻けるとは思わなかった。
驚く私の側で和馬は照れて笑いながら「那波の教え方が上手だからだろ」と言っていた。そんな事はない。
だって私は普通なだけだ。
世の中私より料理やお弁当作りが上手な人は沢山いる。だって私は冷凍食品も入れちゃう派だし。和馬だって付き合ってきた女性達の中には、家事が得意な女性もいたはずだろう。
「別にたいした事ないわよ……」
私は頬を染めた事がバレるのが恥ずかしくて視線を逸らす様にして首を傾げてみせる。そんな見え透いた方法でしか和馬の手から逃れられなかった。
「俺達いい感じで台所でも連携がとれていたよな? 夜も那波と料理するの楽しみだな」
「なっ、何言って」
突然夜も手伝うとさらりと言われて私は思わず口ごもってしまった。
「だってさ、準備も後始末も二人でやった方が早いだろ?」
和馬はにっこりと微笑みながら白い歯を光らせて笑う。人なつっこい飾らない笑顔に私は、思わず歩いてた足を止めて釘付けになった。出会った頃、こんな微笑み方はしなかった。そうもっと作った様な笑い方だったのに。喧嘩をして仕事を一緒に頑張り始めた頃からこんな風に笑う様になった。それでも今の笑い方はまずいよ。
(うわっこのキラキラの無印(?)笑顔……止めてよね。そういうの私ちょっと困る)
私の事を脅して付き合っている和馬。和馬はその優しい雰囲気とは異なって、俺様気質なところをチラリと覗かせたりするのに、なんでこんな風に家庭的アピールと言うかいつも一緒にいたいって言うか。
私はズブズブと沼にはまっていく様な気がして、益々どうしていいか分からなくなる。
「それにさ。俺と那波ってトイレ行くタイミングが同じだよな。ハハハ、朝は慌てない様にしないとな」
「!」
私は思いっきり和馬の背中を叩いて呻く彼を置き去りにして駅に向かって歩いた。
(前言撤回、やっぱり和馬はデリカシーなさすぎ。トイレは朝から共有する羽目になってちょっと気にはなっていたのに。そんな事だから、和馬は付き合っても、二週間とか三ヶ月しかもたないのよっ!)
恥ずかしさと怒りで私は顔から火が出た。
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