【R18】普通じゃないぜ!

成子

文字の大きさ
49 / 88

49 イケメン無罪

しおりを挟む
 突然登場した桂馬さんに、私と和馬は一瞬ポカンとしてしまった。だから桂馬さんは私に抱きついたままで和馬に話しかける。

「フュテュールモバイルって最近出来たばかりの携帯会社の事でしょ?」
 桂馬さんが私の頭の上に顎をつけて話しかける。

(え? 私、今どうなっているの?)

 和馬以外に抱きしめられた事がないので、今自分に起こっている状態が瞬時に把握出来なかった。鈍い私より先に動いたのが和馬だった。和馬は私を抱きしめている桂馬さんの腕をはねのけると、私の二の腕を掴んで自分の後ろに隠した。

「わっ、わわっ!」
 私はブン! と、引っ張られ和馬の背中にはりついた。あっという間の出来事で、腕を弾かれた桂馬さんも両手を上げて笑っていた。

「ありゃ。凄い勢いで弾かれちゃった」
 桂馬さんは抱きついた事を謝る事もなくニコニコ笑っていた。

「何で俺の彼女に抱きついてるんだよ。これだから油断も隙もない」
 和馬が声を張りながら、桂馬さんの胸の真ん中辺りに右手を突き出し押し返した。

(お、俺の、俺の彼女って)
 和馬のはっきりした言葉が私の中で響いた。

 こんな僅かな事で胸がときめく。安っぽくて嫌になってくるけど、嬉しいと思う事を止められない。和馬の背中のシャツをぎゅっと握りしめてしまった。

「あーら。和馬はマジなの? 悪い悪い。直原さんって小動物みたいに可愛いから~つい抱きしめたくなっちゃって」
 桂馬さんは自分の後頭部をポリポリかきながら、ペロッと舌を出して笑った。

(そんな理由で抱きつかれたの?!)
 私は和馬の背中にはりつきながら、顔だけ桂馬さんに向けて思わず文句を言ってしまった。

「小動物みたいに可愛いと言われても嬉しくないですっ!」
 和馬の後ろで喚いても何の効果もないだろう。桂馬さんは「えー?」と声を上げる。

「あらー? 女の子って大抵さ、抱きついたら頬を染めたりするんだけどなぁ」
 和馬の後ろに隠れる私に視線を合わせる為腰を曲げ、桂馬さんは首を傾げた。顎に指を添えて、不思議なものを見る目だった。

 次男の桂馬さんはがっちりした体格に、柔らかいブラウンの髪と瞳。少し垂れた二重は色っぽい。和馬とよく似ているのだけど年上なのもあり、余裕のある男性──という印象だった。

 いつもは社内で遠目に見るだけでスーツ姿しか見た事なかったが、今日は一段とリラックスした服装だった。少しゆったりとしたデニムに、薄いグレーのシャツ。胸板が厚くてシャツがピッタリと体のラインにはりついている。

 確かに外見は素敵とだ思うし、早坂三兄弟の中で総合的に女性に一番人気があるのは桂馬さんだろう。

(だけど、突然抱きつかれて頬を染めるとか……ない! ない! ない!)

「……桂馬そのうちセクハラで訴えられるぞ。俺は嫌だぞ。身内からそういうのが出るの」
 和馬は後ろに隠れている私の肩を抱きしめながら呆れる様に呟いた。

 しかし、桂馬さんは悪びれる事なく呟いた。
「えー? そんな事を言うの? ほら俺達ってイケメン無罪だろ。だけど、さすが三兄弟の中でもとびきり顔いい和馬──の、彼女は他の女の子とは反応が違うね?」

(何言ってんのー?! イケメン無罪って自分で言う? 桂馬さんってこんな人なの。知らなかった)
 自分勝手な事を言う桂馬さんについていけず、私は心の中で叫んだ。凄く優しいお兄さんだと思っていたのに、意外と和馬以上に癖のある男性かもしれない。

 和馬は桂馬さんの言葉にカチンと来たのか噛みつく様に言い返す。
「うるさいな! 『俺達ってイケメン無罪』だなんて自分で言うとか痛いぞ」
 しかし、桂馬さんは何処吹く風だった。
「えー? あんまり俺と変わらない事ばっかりしてきたくせに。俺達一緒じゃん」
「俺達って……地味に俺を混ぜるな! それと俺の事をみたいに言うな!」
「だって、和馬が自分で言っていたんじゃないか『ポンコツ顔だけ三男』って」

 その言葉に和馬がギリギリと歯を食いしばる。
「くっ……そんな前から那波との会話を聞いていたのかよ……いたんだったらさっさと声をかけろよ!」
 どうやら桂馬さんは、迎門をくぐる辺りからずっと私と和馬のやりとりを聞いていたらしい。

「だってさー『家? そんなの別に興味ないわ。ポンコツ顔だけ三男でいいの……ハートマーク。テヘッ』 なーんて、可愛い彼女に言われたらさー確かに俺でも『この子マジで俺を殺しに来てるのかな?』って思うし。そりゃ盛大に照れるよなーハハハハ~」
 桂馬さん、ものすごく楽しそう……これは完全からかっているよね。ニヤニヤと実に嫌らしそうに和馬に笑いかける。

 それにしてもイケメンとは言え、こんなにニヤニヤ笑ったら台無しだ。まるで悪役ではないか。

(ハートマークなんて私別に語尾につけてないし! テヘッなんて言ってないし!)

 私は言葉にならないまま、ブルブルと首を左右に振った。和馬はそんな桂馬さんの顔を見て、頬を赤く染めて喚いた。

「きっ、聞き耳を立てるとか本当に悪趣味だな! 行くぞ那波。馬鹿な桂馬を相手にしてたら切りがない」
「えっ、あっ」
 和馬は私の肩から手を離して手を繋ぎ直すと、桂馬さんから背を向けて玄関に向かって歩き出そうとした。見上げるとほんのり和馬の耳が赤かった。

(そんなに顔を赤くしなくても)

 そんな私と和馬の前に回り込んで、桂馬さんが両手をバタバタさせた。

「こらこら~こんなに素敵で頼りになるお兄ちゃんを馬鹿とか言わないのー悪かったって! ちょっとからかいすぎたかな?」
「ちょっとどころじゃねぇよ!」
「ごめんごめん。そんな事よりさ、フュテュールモバイルのヤマギシくんだっけ? 誰か借金でもしているの? 物騒だねぇ。情報が欲しいなら協力するよ」

「「!」」
 後半の借金の話は私の勝手な想像で、全く正しい話ではない。しかし『協力』と言われると、私と和馬は顔を見合わせ歩く足を止めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

処理中です...