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01 まさかの三人

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 カーテンを閉め忘れた部屋は月明かりで照らされている。時計を見ると時間は二十二時。一日が終わる少し前だ。
 
 私が着ていた浴衣は全開となっていて、レースのナイトブラジャーは引き上げられて胸は丸出し。腰には外し忘れた帯が垂れ下がっている。

「あっ……んんっ」

 畳の上に敷かれた布団で私は、二人の男にいい様にされていた。

 溜まらず声を抑えたくて人指し指を噛んだが、その手をあまに振り払われる。

「噛むなよ。ほら、声を聞かせてくれよ」

 あま ゆうの日焼けした肌が熱くて気持ちがいい。鍛えられた胸筋に後頭部を預ける。おかげで高く緩く結っていた髪も無惨に崩れている。

「だって、声を出すなんて恥ずかしいしっ! んんっ」

 天野は私の後ろから胸を掬い大きな手でゆっくりと揉む。乳首が痛いぐらい尖っているのを見つけると指で優しく弾いた。

 私は思わず反応してしまい、驚く程高い声を上げる。こんな事は耐えられないと首を振るが、天野に後ろから抱きしめられて逃れる事も出来ない。

くらってこんな凄いの隠していたんだ。大きい上に美乳とか。柔らかくってスベスベで。ああ……触り心地も最高。何でバストが小さく見える下着をつけているんだ? うちで販売している下着でもっと良いのあるだろ?」
 そう言って天野は後ろ上から、私の右胸の固く尖った頂きに吸いついた。口の中で優しく敏感な先端だけを舌先でつつかれる。そうして最後に、乳輪の周りをクルリと舐められる。

 そんな事をされると、腰から頭の上にかけて背中をゾクゾクするものが這い上がるのに。

「だって胸が大きいと皆そこしか見てくれないか、らっ。あっ!」

 下着会社に勤めている事もあり、どんな下着をつければ大きな胸を隠せるか熟知している。出来るだけ下着で小さく見える様にしていたのに。
 よりにもよって天野に──顔は整っているけれど、いかにも軽そうな男にバレてしまうなんて。

「んっ、うっ~」

 声が聞きたいと促されたが、恥ずかしさ勝ってしまう。だから私は声が出ない様に歯を食いしばる。大きく無駄に敏感な胸。触られれば触られるほど快感がお腹の奥に溜まっていく。だから、両足の膝を擦り合わせて何とかこの快感を逃したい。

 しかし、私の股の間にはもう一人の男──おかもとがいた。

「ああ……凄いです。天野さんが弄れば弄るほど、ショーツのこの部分が滲んできていますよ」
 おかもと さとは長い指でぬかるんでいる部分を優しく押す。

「あああっ」
 私は堪らず仰け反り、岡本の腕を膝で挟んでしまう。岡本の顔を見ると白い頬から目尻にかけてほんのり朱色に染まっていた。サラリとした黒髪が黒縁眼鏡のフレームの上に落ちた。
 それから岡本は長い指でぬかるんで染みが出来ている部分の少し上で、ぷっくり膨らんでいる芽をショーツの上から撫ではじめた。

「ああっあっあっ」
 痛くない様に優しく円を描いて動く。私はますますショーツに染みをつくっていく。

「布団の上っていいですね。ベッド特有のギシギシ煩い音がしないし」
 黒縁眼鏡の向こうで切れ長の瞳が嬉しそうに弧を描いた。

「あっそんなに擦られたら!!!」
 堪らず私は小声で叫び背中を反らせた。

 二人の局地的な愛撫から逃れられない。岡本も天野も、少し物足りないと感じた途端激しく舌で、指で、擦ってくる。

 緩急をつけて乳首を舐られ、敏感な花芯を優しく撫でられると、お腹の奥で熱くなった熱がゆっくりと体液に変わって流れ出てくる。

「わぁ~ショーツが透けるぐらい染みが広がってきました。ああ……もしかして」
「あーそうかそうか。同時に弄られるの好きなんだ?」
 天野と岡本が笑って低い声で呟く。二人共無駄に良い声なのだから。

 強く弄られた瞬間、私は体がフワリと浮いた感覚に陥る。

「イッくぅ!」
 二人に体を弄られてから二分程であっけなく達してしまった。



 私の名前はくら すず。三十一歳、仕事漬けの女。下着会社の企画部所属で一つのチームを任されているリーダーだ。仕事が楽しくて仕方ない時期なのもあり、男性に全く縁がない。大学時代に付き合った彼氏以降、気がつけば誰ともお付き合いしないまま三十歳を超えてしまった。

 お付き合いがなくても抱かれる事はあるでしょ? って

 例えば、酔っ払って前後不覚になり一夜を共にするとか? って

 それがないんだなーこれが。

 もう少し男性と楽しんで気軽に付き合えばいいのにと、友達からは言われるのだけれどね。やはり私はそういった事と縁遠い様だ。
 
 そんな「私ってセックスっていつやったのが最後?」と振り返って考えるこの私が。

 今、何故か社内の一位、二位を争う大人気男子二人とベッドイン! と言うか、布団の上でこんな事になっている。

 事の起こりは、天野が岡本を担いで私の部屋に雪崩れ込んできた事が始まりだった。



「どうして二人が私の部屋に来るのよ」
「シーッ! 倉田さ頼むから。一人部屋だろ? 匿ってくれよ」
 浴衣を着崩した同じ年の天野 悠司が岡本の肩を担いだまま静かにする様、口元の前で人指し指を立てる。

 私達は今、温泉旅館に慰安旅行に来ているのだが、社内で大人気の男性二人が髪の毛を振り乱しながら私の部屋に転がり込んで来た。

「島田さんと鈴木さんの集団が俺達を追いかけてくるんだって。しつこいのなんの」
 いつもラフにしているが、おそらく計算ずくでラフに整えている、長めの前髪を乱れさせて天野が小声で喚く。

「ううっ。僕はもう飲めません」
 その傍らでは、サラサラの黒髪をボサボサにして、黒縁眼鏡を斜めにかけた岡本が口元を押さえながら倒れ込もうとする。

「うわっ。馬鹿っ。ここで吐くなよ、それに倒れるな。ビール一杯しか飲んでないのに」
 岡本が突然天野に寄りかかったので、天野もフラついた。
 
「部屋の入り口で大男二人に倒れられると困るから。奥に布団を敷いてあるからそこで横になったらいいわ」
「分かった。岡本あと少しだ歩けよ」
「はぁ~い。もう飲めないけど頑張りますぅ」
 天野は倒れかけた岡本を引きずって奥に敷かれた布団を目指した。

「何で私の部屋に逃げ込むのよ」
 私は呆れながら部屋の襖を閉めようとした。


 日焼けの茶髪男はあま ゆうと言う。私と同じ年の男だ。180センチ超えの長身と鍛えられた体。甘いマスクにチャラそうな雰囲気ながらも、しっかりしていて誰にでも優しい。日焼けしているのはサーフィンを趣味にしているからだそうだ。プロになりたいと思っていた時期もあったが、残念ながら叶わなかったそうだ。
 私と同じ年だが同期ではなかった。彼は会社に来て半年経つ転職組だった。そして営業部の歴代一位のトップセールスをたたき出した男の一人だった。

 そして独身。とくれば、社内の女性達は放っておく筈もなく。

 その天野に担がれているのはおかもと さと。彼は私と天野のより二つ年下で二十九歳だ。天野と同じく180センチ超えの長身で色白の細身だ。細身と言っても別にもやしっ子ではなく程々に鍛えている様子だ。週末はジムに通っていると聞いたし。非常に整った顔をしている。黒髪で切れ長の瞳そして黒縁眼鏡。風貌は天野と逆といった感じだ。純日本風なのに、アメリカ育ちの五カ国語を喋るという高学歴男。
 天野と同時に転職してきた男だった。営業部で勤務し天野と組んで歴代一位のトップセールスをたたき出した。

 そして独身。とくれば、社内の女性達は放っておく筈もなく。


 二人共着ていた浴衣は着崩れており、それぞれの肌を晒している。何やらもみくちゃにされた感がある。

 先程、天野が言っていた「島田さんと鈴木さんの集団」とは、社内で勢力を二分する女子の集団だった。どちらの派閥に属さなければならないらしい女子の集団。どちらも二十歳前半から後半のメンバー構成だった。人数は不明。ギャル系の島田組とお嬢様系の鈴木組と私は認識している。

 私の後輩となるのだが、仕事一辺倒の私はこの集団からも除外されている。別に所属したいとはこれっぽっちも思わないけれどさ。声すらかからないと言う事はそういう事なのだろう。

 仕事が出来て、しかも見目麗しい天野と岡本は女性達の格好の獲物だ。誰が二人の恋人になるのか日々争いが起こっている。

 今日は会社の慰安旅行。宿──つまり同じ屋根の下で一夜を共にするのだから何とか二人きりになるチャンスを! と思っていたに違いない。

 潰れている岡本から想像するに、食事か露天風呂を出たあとに捕まりバーにでも移動したのだろう。

 そう推測していると、私の部屋のチャイムが鳴った。

 天野がチャイムを聞いて閉じかけた肩を撥ねた。

 部屋のドアスコープから覗くと、ギャル風に緩く髪の毛を巻いた島田さんと、黒髪ストレートを横に緩く縛った鈴木さんがいた。

「倉田さん。ねぇ、いますよねぇ」
「すいません。聞きたい事があるんです」
 島田組と鈴木組、それぞれの組長が自らのお出ましだった。

 その二人の声に部屋の布団に岡本を寝かしつけた天野が顔を青くしていた。そして私の顔を見て小刻みに首を振った。

 嫌だ! 頼む! 人質として差し出さないでくれ!
 声に出さずに口だけ動かして私に訴える。

 天野よ。整った顔なのになんとも情けない表情なの。若干涙目って、男前も台無しね。
 私は一つ溜め息をついて、部屋に続く襖を閉める。

 これで天野と岡本の二人がいる事は玄関から覗いても分からないだろう。


「ねぇ倉田さんってば」
「寝たのかしら。年とると寝るの早いし」

 む。お嬢様系の鈴木組長が何か失礼な事を言っている様な。

 よーし。それなら追い払ってやる。

 私は着ている浴衣を少しだけ着崩した。実は大きな胸なのだが普段は出来るだけ小さく見える下着を身につけている。胸ばかり見られるのが嫌だからだ。
 今は寝る前なのもあり、浴衣の下はレースのナイトブラジャーをつけていた。なので、少し前を開くとレースと共に胸の谷間が見える。

 このぐらいなら良いだろう。
 今だけ、この一瞬だけ、着崩れた様子が視界に入るのであれば、普段からバストばかり見られる事もないだろうし。

 私は意を決してドアを開け二人の姿を見た。私と同じ浴衣姿だ。

「どうしたの二人共大きな声で。泊まってる他のお客さんにも迷惑がかかるわよ」
 すると島田組長は、煉瓦色に染めカールした髪の毛を指でクルクル回し口を尖らせ尋ねてくる。
 話ながら視線がだんだん私の着崩した胸元に落ちてくる。
「天野君来ていませんか? 私、じゃないや、私達話がしたくて一緒に飲んでいたんですけどぉ。って、デカっ!」

 デカっ! って何よ失礼な。
 
 同じ様に鈴木組組長も首を傾げて大きな黒いキラキラした瞳で話し始めるが、同じ様に私のはだけた胸元を見て固まる。
「私も岡本君と話をしていたんだけど急に調子が悪くなったみたいで。その、吐きそうなのかな? って介抱したいと思って、えぇ、豊胸?」

 豊胸? ではないからっ。

「そうだったの。でも二人の姿は見ていないけど」
 狭い部屋の玄関口で私は、緩く結った髪の解けた先を直す振りをした。そして、さりげなくはだけた胸元を隠す様にした。

 何しているのだろ……私。
 よく考えたら、こんな色っぽい事柄とはすっかり無縁だと言うのに。
 こんな手口が通用するものだろうか。作戦ミスだったか……

「でも、二人がこっちに来るのを見たんです。この方向には倉田さんの一人部屋だけだし」
「だから倉田さんの部屋にいるんじゃないかなって」
 二人は食ってかかってくるが、声が先程から小さくなっていく。私の仕草と呆けた様な流し目に何かを察した様だ。

「二人が来るわけないでしょ。だって私は今──」
 視線をわざと落とすと、天野か岡本が脱ぎ捨てたであろう下駄が玄関先に目に留まった。

 そうよ男性用の下駄よ!
 これがあったら男性が訪れていると思うに違いないからこの作戦に──あら? しかし下駄が二足あったらバレるわよね?
 私は薄笑いを浮かべながら冷や汗が流れた。
 
 しまった~
 男性用の下駄が二つあったら二人がいる事が分かるよね。バレるよなぁ。
 これは責められるなぁ。どうしたものか。

 って、あら?
 何故か下駄は一人分だけだった。
 もしかして、引きずられていた岡本は途中で脱ぎ捨てた?
 いずれにしてもこれならごまかせるかも!
 
 私が視線を下に移した事で、組長二人も視線を下に移す。
 そして、男性用の下駄が一足ある事に気がつくと、慌てて玄関から廊下に下がった。

「そうですか~こっちには来てないんですね。じゃぁ私はこれで。ははは」
 島田組長が慌てて手を振る。
「そうですね~何だかお取り込み中のところすみませんでした。ふふふ」
 鈴木組長も慌ててドアを閉める。

 私はニッコリ笑って軽く手を振ると、閉じたドアの鍵を速攻で閉める。

 そして、ドアに張り付きドアスコープから覗く。二人の組長がブツブツ言いながら去るのを確かめる。

「もしかしてぇ。倉田さんって男とヤル前だったんじゃなーい? ほら着崩れてたし」
 島田組長がボソボソ話している。
 食いついたわね? そう見せるためのお芝居だったのよ。引っかかってくれた。
 
「絶対そうよね。でもびっくりした。見た? あの胸。もしかして豊胸した?」
 鈴木組長もボソボソ話す。
 凄く疑うわね。しかし本物なのよ。
 
「えぇ~男日照りでとうとう改造? はは。そんなんで男の気を引くんだ。ヤバイね」
 前半は否定出来ない。しかし改造はしていないからね。

「ねぇ倉田さんって誰を引き込んでるのかしらね。もしかして──」
 誰だと思うの?

「「大木部長だったりして」」
 大木部長は妻子持ちの五十代よ。ありえないから!

 きゃはは、と笑いながら去って行く二人の組長を見送りホッとする。

「失礼なヤツらだな」
「わっ!」
 突然私の耳元で天野が囁いた。

 ドアに張りつく私の後ろから覆い被さる様にドアに耳をつけていた。聞き耳だけ立てて外の様子を窺っていた。
 私は驚いて振り向き天野を押し返す。すると天野の着崩れた浴衣の隙間の素肌を押す事になり驚いてパッと手を離す。

 びっくりした。素肌だった。細身だがしっかりと鍛えられた腹筋に触れてしまいドキリとする。
 
「ちょ、ちょっと。何をくっついているのよ」
「ははは。悪い悪い。ドアがしまって鍵を閉める音がしたからさ──あ」
「え? あ」
 天野の視線は私の着崩した浴衣の合わせから覗く胸元に注がれていた。お芝居の着崩した姿のままだった。私は天野に背中を向けて慌てて胸元を正す。

「悪い。見るつもりはなかったんだが」
 天野も私から慌てて距離をとり、後頭部をかきながら上の方を見つめていた。
 
「分かってるわよ。ほらどいて。天野も浴衣を着直してよ、はだけ過ぎよ……それで? 岡本はどうなったの」
 私は出来るだけ平常心を保ちながら、部屋の奥へ向かった。

「ああ、大丈夫だ。水を飲みたいと言っている」
 そう言って天野が私の後ろからついて歩き、部屋に入ると短い廊下をつないでいる襖を閉めた。
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