美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏

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第一章 定食屋で育って

心配

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 私が朝の仕込みの合間に窓を拭こうと思って外に出た時だ。
 ナツさんのお店に、私服姿の男性が3人入って行くのが見える。まだ開店時間になっていないはずなのに。

 前の仕事関係の知り合いかな、と確信があった。

 普通のサラリーマンというにはクリエイター風の外見で、1人はハンチング帽を被っていたし、1人は茶髪にパーマをかけていて黒縁眼鏡という風貌だし、1人は横と後ろを刈り上げているくせに長髪だった。

 私の友人にはいないタイプの外見やファッション。ナツさんもだけど。

 以前、ナツさんはクリエイティブディレクターの肩書きを名刺に載せないつもりだったと話していた。
 それでも残さなきゃいけなくなったのは、何やらその肩書きを使った仕事が残っていそうなニュアンスだったのだ。

 あの人たちも、恐らく……。
 クリエイティブディレクターとしてのナツさんを頼ってやってきたのだろう。

 どうしようもなく、ナツさんのことが心配になった。

 無理をしながらコーヒーショップの店長をしているのだと言ったナツさん。
 前職を辞めなければならなかった理由がどこかにあるのだとしたら。
 あの人たちはきっと、それを知っている。

 この間お店に来ていた綺麗な女の人も、ナツさんと親しそうだった。その辺の事情には通じているのだろう。

 この町で店長をするナツさんは、柔らかくて人が良くて、話しやすい人だけれど。
 私の知らないナツさんが、今、お店の中で何かの話をしているんだ。

 急に、あのコーヒーショップが知らない場所のように見える。
 私は店の引き戸をガラガラと開いて店内に戻り、いつも通りの仕込みを始めた。
 お米を洗いながら、いつものナツさんを思い出す。カウンターの中で、いつも道具や器具を大切に扱っていたナツさん。

 ナツさん、ナツさん……。
 私には、ナツさんの過去を知る権利はないのだろうか。
 そう思って、はっと気が付いた。

 ブレンドコーヒーを作るのを手伝った時、ナツさんはお礼をしてくれると言っていた。何か、考えておいて、と。
 もしかして、お礼を使って一緒にいる時間を作ってもらうようなお願いをしても良いのだろうか?
 ナツさんのお店も、日曜定休だ。

 日曜日にどこかで会って、聞きたいことを聞いてしまうのはどうだろう。
 この辺だと、誰の目があるか分からないから……ちょっと離れた場所で待ち合わせをした方がよさそう。

 って、まさかそれはデートになるのだろうか。
 あからさまにデートっぽいお願いは恥ずかしいし、何か言い訳が作れないかなあ……。

 いや、それならいくらでもあるではないか。
 私たちは、これから新しいフードメニューを考えようとしている。
 街へ出て、市場調査に行けば良いんだ。
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