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第二章 夢なんかみなくても
神と呼ばれた男 3
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「祥太くん絶対モテると思うのに、家族として利津さんと一緒にいようとしているのが不思議です。それって他に好きな人を作らないって意味ですよね?」
「あー……別に、恋愛を諦めたわけじゃないんですよ。利津とは別に好きな子を作る可能性は全然あるんですけど。でもなんつーか、美容師するようになってから面倒になったせいで、すっかり疎遠なんですよね」
「恋愛が?」
恋愛が、なのか、女が、なのかうまく言えない。
恋愛をしたくないわけじゃないし、女性嫌いになったわけでもない。
「うちの店って自分のお客さんとSNSで連絡取り合うんです。悩みとかスタイリング剤の質問とか、なんでも相談に乗るようにしてて。あと予約もメッセージでもらうし、キャンペーンのお知らせも送ったり」
「お客さんとの距離が近いんですね」
「これが、『彼女』には理解できないらしいんですよね」
ふうっと息を吐いて、女からしたらホストと付き合うようなもんですよねと呟く。
以前、とある女に男性美容師のやっていることはホストとそこまで変わらないと言われたのを、俺はそこそこ根に持っている。別にホストを馬鹿にしているわけじゃなく、美容師はお客さんに気を持たせるようなことをしている覚えはないっていう意味だ。
髪型を任されるってのは、大きな責任を与えられているのと同じだ。
髪は女の命と言うけれど、髪は全体の印象に大きく関わっている。そのコンディションを気にしたいというのは、少なくない頻度で通ってくれて俺に技術料を払ってくれているお客さんに対する誠意だと思っていた。
「僕も、よく怒られましたよ。女性だろうが男性だろうが、距離が近いらしくて」
「日葵さんにですか?」
「はい」
「俺、交友関係に口出しされると、信用してくれてないんだなって途端に冷めるんですよね」
「それって多分、祥太くんが女性からモテるからだと思いますよ」
さっきからナツさんは、俺がモテるというのを何とか認めさせようとしてくる。モテるの定義など曖昧で、そんなのは認めにくい。
「祥太くん、多くの男性は、付き合っている女性から嫉妬されるのが好きらしいですよ?」
「あー……そういうとこありますね」
夜に男同士で、何を話してんだろうと話題を変えることにした。
ナツさんに聞きたいことは、もっといっぱいある。
「ナツさんの夢って……聞いても良いですか?」
「実は、現在軌道修正中なんです。本当は映画撮るのが夢だったんですけど」
「映画監督ですか?!」
俺が大袈裟に驚くと、「いや、クリエイティブディレクター出身の映画監督って多いんですよ」とナツさんは笑った。
「リドリー・スコットなんかもそうですし」
「聞いたことあるな……何撮ってる人ですか?」
「『エイリアン』が一番有名ですかね。あと『グラディエーター』とか」
「巨匠!」
「日本でも、クリエイティブディレクターから映画監督で成功する人は結構いて」
ナツさんから日本人の例を聞くと、確かに有名な映画監督の名前が並んでいた。まさかナツさんが映画を撮りたかったなんて。
「僕はアーティストのMV(ミュージックビデオ)は撮りましたけど、それだと台詞なんかは書けないんですよね。これまで手掛けて来たショートムービーは、あくまでも短い時間で印象を残す必要がある。じっくりと2時間くらいかけて言いたいことを伝えると、どんな作品が作れるのかというのはすごく興味がありました」
「でも……映画業界へは行かなかったんですか?」
「そうですね、映画に強い制作会社に行けばそういう仕事も出来たんだと思いますけど……前の会社にいたとある人が僕の目標だったんですよ」
ナツさんが憧れて追いかけた人って、どんな人なのか。
俺はその人について詳しく聞いた。
昭和の時代に生まれたあらゆるサービスや商品のCMを数々手掛けてヒットさせてきた人らしく、ナツさんは入社して数年はその人の仕事を見せてもらえたらしい。
「もう引退してしまったので、その方の仕事は観られません。でも、最初の頃にいろんな話を聞いたり現場を見せてもらったから、その後で僕が色んな仕事を回せたんだと思います。人生で一番刺激が多かったのは、その方の仕事に付いていた時ですね。毎日わくわくしながら、こんな仕事がしてみたいと思っていました」
「その方が辞めてしまって、転職しようとは思わなかったんですか?」
「映画を撮るのは、自主製作でも行けるんで……経験を積む方が大事だったんです」
話を聞けば聞くほど、なんて勿体ない人を失ったんだろうと悔しい。
ナツさんの作るミュージックビデオやショートムービーを、俺はもっともっと観ていたかった。冗談ではなく、そのうち映画も撮っていた気がする。
この町で出会えなかったとしても、きっと俺はナツさんの仕事に惹かれていたのだろう。
町の美容師をしながら、「最近観たあの映像かっこよかったな」なんて思ったり、もしかすると「夏木ユウタロウ」という名前すら覚えていたかもしれない。
「前も言いましたけど……俺、ナツさんの仕事スゲー好きで」
「はは、ありがとうございます」
「映画自主製作するなら出資します」
「いやいや、絶対回収できないんでお金払って終わりですよ?」
ナツさんは横になりながらこっちに顔を向けて苦笑している。
くりっとした二重の顔は35歳にしては随分若く見えて、かっこいいというより可愛い顔だ。
母性本能をくすぐるってこういう感じなんだろう。
この人が映画監督をしたら、俺はチョイ役で出てナツさんの仕事を側で臨場感持って見たいなとか思う。
「俺のことなんで、大金は払いませんから安心してください」
「それが無難です」
ナツさんは住んでいる家が遠く、こうしてたまに俺の部屋に泊まっている。
通勤時間が短くなるだけで、睡眠時間の確保ができて違うらしい。
ナツさんの役に立てることがあって、すごく嬉しい。
今はコーヒーショップの店長をしているけれど、ナツさんはきっとあの場所に留まっている人ではない。
俺みたいな町の美容師ですら人生で影響を受けたような映像を作る人だ。
ナツさんの仕事を待っている人が、きっとまだどこかにいる。
「そろそろ、寝ますか」
あまり夜更かしさせてはうちに寄ってもらう意味がなくなるから、部屋の電気を消して明日に備えることにした。
やけに明るい夜で、電気が消えていても部屋の中のナツさんが分かる。
ナツさんは何も言わず、携帯もいじっていなかったから起きているか寝ているかは分からない。
こうして俺の元を訪ねてくれることで、ちゃんと眠れているんだろうか。
熱帯夜対策で動かしているエアコンの音が、やけに部屋に響いていた。
「あー……別に、恋愛を諦めたわけじゃないんですよ。利津とは別に好きな子を作る可能性は全然あるんですけど。でもなんつーか、美容師するようになってから面倒になったせいで、すっかり疎遠なんですよね」
「恋愛が?」
恋愛が、なのか、女が、なのかうまく言えない。
恋愛をしたくないわけじゃないし、女性嫌いになったわけでもない。
「うちの店って自分のお客さんとSNSで連絡取り合うんです。悩みとかスタイリング剤の質問とか、なんでも相談に乗るようにしてて。あと予約もメッセージでもらうし、キャンペーンのお知らせも送ったり」
「お客さんとの距離が近いんですね」
「これが、『彼女』には理解できないらしいんですよね」
ふうっと息を吐いて、女からしたらホストと付き合うようなもんですよねと呟く。
以前、とある女に男性美容師のやっていることはホストとそこまで変わらないと言われたのを、俺はそこそこ根に持っている。別にホストを馬鹿にしているわけじゃなく、美容師はお客さんに気を持たせるようなことをしている覚えはないっていう意味だ。
髪型を任されるってのは、大きな責任を与えられているのと同じだ。
髪は女の命と言うけれど、髪は全体の印象に大きく関わっている。そのコンディションを気にしたいというのは、少なくない頻度で通ってくれて俺に技術料を払ってくれているお客さんに対する誠意だと思っていた。
「僕も、よく怒られましたよ。女性だろうが男性だろうが、距離が近いらしくて」
「日葵さんにですか?」
「はい」
「俺、交友関係に口出しされると、信用してくれてないんだなって途端に冷めるんですよね」
「それって多分、祥太くんが女性からモテるからだと思いますよ」
さっきからナツさんは、俺がモテるというのを何とか認めさせようとしてくる。モテるの定義など曖昧で、そんなのは認めにくい。
「祥太くん、多くの男性は、付き合っている女性から嫉妬されるのが好きらしいですよ?」
「あー……そういうとこありますね」
夜に男同士で、何を話してんだろうと話題を変えることにした。
ナツさんに聞きたいことは、もっといっぱいある。
「ナツさんの夢って……聞いても良いですか?」
「実は、現在軌道修正中なんです。本当は映画撮るのが夢だったんですけど」
「映画監督ですか?!」
俺が大袈裟に驚くと、「いや、クリエイティブディレクター出身の映画監督って多いんですよ」とナツさんは笑った。
「リドリー・スコットなんかもそうですし」
「聞いたことあるな……何撮ってる人ですか?」
「『エイリアン』が一番有名ですかね。あと『グラディエーター』とか」
「巨匠!」
「日本でも、クリエイティブディレクターから映画監督で成功する人は結構いて」
ナツさんから日本人の例を聞くと、確かに有名な映画監督の名前が並んでいた。まさかナツさんが映画を撮りたかったなんて。
「僕はアーティストのMV(ミュージックビデオ)は撮りましたけど、それだと台詞なんかは書けないんですよね。これまで手掛けて来たショートムービーは、あくまでも短い時間で印象を残す必要がある。じっくりと2時間くらいかけて言いたいことを伝えると、どんな作品が作れるのかというのはすごく興味がありました」
「でも……映画業界へは行かなかったんですか?」
「そうですね、映画に強い制作会社に行けばそういう仕事も出来たんだと思いますけど……前の会社にいたとある人が僕の目標だったんですよ」
ナツさんが憧れて追いかけた人って、どんな人なのか。
俺はその人について詳しく聞いた。
昭和の時代に生まれたあらゆるサービスや商品のCMを数々手掛けてヒットさせてきた人らしく、ナツさんは入社して数年はその人の仕事を見せてもらえたらしい。
「もう引退してしまったので、その方の仕事は観られません。でも、最初の頃にいろんな話を聞いたり現場を見せてもらったから、その後で僕が色んな仕事を回せたんだと思います。人生で一番刺激が多かったのは、その方の仕事に付いていた時ですね。毎日わくわくしながら、こんな仕事がしてみたいと思っていました」
「その方が辞めてしまって、転職しようとは思わなかったんですか?」
「映画を撮るのは、自主製作でも行けるんで……経験を積む方が大事だったんです」
話を聞けば聞くほど、なんて勿体ない人を失ったんだろうと悔しい。
ナツさんの作るミュージックビデオやショートムービーを、俺はもっともっと観ていたかった。冗談ではなく、そのうち映画も撮っていた気がする。
この町で出会えなかったとしても、きっと俺はナツさんの仕事に惹かれていたのだろう。
町の美容師をしながら、「最近観たあの映像かっこよかったな」なんて思ったり、もしかすると「夏木ユウタロウ」という名前すら覚えていたかもしれない。
「前も言いましたけど……俺、ナツさんの仕事スゲー好きで」
「はは、ありがとうございます」
「映画自主製作するなら出資します」
「いやいや、絶対回収できないんでお金払って終わりですよ?」
ナツさんは横になりながらこっちに顔を向けて苦笑している。
くりっとした二重の顔は35歳にしては随分若く見えて、かっこいいというより可愛い顔だ。
母性本能をくすぐるってこういう感じなんだろう。
この人が映画監督をしたら、俺はチョイ役で出てナツさんの仕事を側で臨場感持って見たいなとか思う。
「俺のことなんで、大金は払いませんから安心してください」
「それが無難です」
ナツさんは住んでいる家が遠く、こうしてたまに俺の部屋に泊まっている。
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ナツさんの役に立てることがあって、すごく嬉しい。
今はコーヒーショップの店長をしているけれど、ナツさんはきっとあの場所に留まっている人ではない。
俺みたいな町の美容師ですら人生で影響を受けたような映像を作る人だ。
ナツさんの仕事を待っている人が、きっとまだどこかにいる。
「そろそろ、寝ますか」
あまり夜更かしさせてはうちに寄ってもらう意味がなくなるから、部屋の電気を消して明日に備えることにした。
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