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第二章 夢なんかみなくても
気分転換に 2
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「へえ、そうなんですね」
真樹ちゃんはそう言って特に楽しくもなさそうに店内を見回していた。
「祥太さんは、どんなつもりだったんですか?」
「えっ?」
二次会に誘った時点で、下心がゼロではない。
こんなストレートに尋ねてくる子は初めてだった。真樹ちゃんの顔は見れば見るほど俺の好みで、だけど彼女から俺に対する恋心のようなものは一ミリだって感じられない。
試されてるな、ということくらいは分かった。
何が正解かは分からない。どうせ、もう二度と会わないのだろう。
「顔が好みだから誘っただけだよ」
真樹ちゃんの顔はここ最近出会った中で一番タイプだった。しっかりとメイクをしている顔だけど、その下に隠れるベースも好みだと分かる。
「私、顔を褒められるのって好きじゃないんですよね」
「……なんか言われ慣れてそうな言い分だ」
22歳。これだけ可愛くて、スタイルも良くてアパレルの販売員。
そりゃ、外見は褒められ放題なんだろう。褒め方を間違えたらしい。だけど実際、俺はこの子の外見以外を知らない。
「うち来ます?」
「は?」
「そういうつもりで誘ったんじゃないの?」
「いや……」
そこまでの期待はしてないよ、と頭の中で警告が鳴る。
学生時代、こういうことが無かったわけじゃない。だけど何かが引っかかって、この誘いに乗るのを躊躇した。
「彼氏要らないんだよね……?」
「お互い彼氏彼女が居ない方が、あと腐れなくいられそうじゃないですか?」
「そういうもの?」
「浮気とか不倫は嫌なんです。かといって、フリーの男にイイ男が少ないのも事実で。だからちょっと今日は、運命感じました」
勝手に感じるなよ、余計な運命を……。俺は複雑だ。
こんな可愛い子が、自分のことをそんな風に見ていたなんて。そりゃ、嬉しくないかと聞かれたら嬉しいことに間違いはない。でも真樹ちゃんと何かが始まったところで彼女にはなり得ないんだと思うと……。
「でもさあ、情が沸かない? そんな簡単に割り切れるかなあ」
「情……。それならそれで、そういう情の関係でもいいですよ」
そう来るかあ……。すげーなー。この子。
世の中どうなってんだよ。こんな可愛い顔して相当淫乱なんだろうか。
「私、祥太さんが美容師って知ってるから、本気にはならないし」
「それ言われるとかなり複雑なんだけど」
「真面目なんですか? 彼女相手じゃないとできないとか?」
幸いこのバーはガヤガヤとうるさくて、この会話が他の客に聞こえることはない。聞かれていたら相当焦っていたと思う。
「相手の気持ちが無いと思ったら、盛り上がらないんだよね。だからそういうこと言われちゃうと、なんか冷めるかも」
「そうですね、ごめんなさい。フィクションでも愛は必要ってことか」
「……人の話聞いてた?」
そこでフィクションとか言われるから冷めるんだっつーの。少なくとも、気持ちの持って行き所が無いのは嫌だ。
「祥太さん、今日一日の、彼氏彼女しますか」
「今日一日の……」
「手を繋いで帰って、ただいまーって私の家に着いて一緒に寝るだけ」
「だけって……」
「気分が乗らなかったら添い寝で」
「真樹ちゃんは、一体俺に何を求めてんの?」
呆れた俺は本音をぶつけた。一瞬、真樹ちゃんの顔が予想外のことを聞かれたみたいに固まって、頬杖をつく。後ろの背景には、バーの白い間接照明。俺が写真をやっていたら、3回はシャッターを切っていたかもしれない。
とにかくこの子は、何をしてもそれが一枚の絵みたいだった。
「分かんないですよ。そんなの」
「……?」
「祥太さんなら、私をちゃんと扱ってくれそうかなって思っただけで」
これまでの話を全て吹っ飛ばして、急にその話に持っていかれる。
さっきの飲み会では見られなかった目の前の女の子の、なにか抱えているモノが見え隠れしている気がする。
頭では、そんなのに深入りしていい事なんかないと分かってた。
*
真樹ちゃんの家は、店から2つの路線を乗り継いで30分。駅からは10分の小さなマンションだった。女の子の家に来たのは久しぶりで、そういやめっきり利津の部屋にも入らなくなっていたなと思い出す。
ワンルームの広くもない部屋に、服がいっぱいかかっていた。メイクボックスらしきものも置いてある。お洒落をする優先順位が一番みたいな部屋で、隅っこに追いやられて申し訳なさそうに布団が積んであった。
「どうします? シャワーでも?」
「ああ、えっと……」
勧められるがままに、トイレと一体型になったユニットバスでシャワーカーテンをして身体の汗を流した。
女の子の家に来ると、何のシャンプーを使っているかをチェックしてしまう。真樹ちゃんは通販で人気のちょっと高めなオイルシャンプーを使っていた。香りがフローラル系で、やっぱり女の子らしい。
今度、店の買い出しに行ったついでに真樹ちゃんが好きそうなサロンシャンプーを買ってこようかなんてよぎってしまい、いや、何のプレゼントだよ、と我に返った。
「サンキュー。ドライヤー借りていい?」
タオルだけを腰に巻いてユニットバスから出ると、真樹ちゃんは何故か驚いている。
「あ。そっか、着替え、ないのか」と小さな声で気付いた彼女に、もしかしてこういうことを頻繁にやっている子じゃないんじゃないかという確信が増していく。
さっきの堂々とした態度とは打って変わって、真樹ちゃんは慌ててドライヤーとブラシを俺に渡して「私もシャワーして来るから」と逃げるようにユニットバスの扉の中に消えた。
俺、あの空間を結構びしょびしょにしてきちゃったんだけど、大丈夫なのかな。
真樹ちゃんはそう言って特に楽しくもなさそうに店内を見回していた。
「祥太さんは、どんなつもりだったんですか?」
「えっ?」
二次会に誘った時点で、下心がゼロではない。
こんなストレートに尋ねてくる子は初めてだった。真樹ちゃんの顔は見れば見るほど俺の好みで、だけど彼女から俺に対する恋心のようなものは一ミリだって感じられない。
試されてるな、ということくらいは分かった。
何が正解かは分からない。どうせ、もう二度と会わないのだろう。
「顔が好みだから誘っただけだよ」
真樹ちゃんの顔はここ最近出会った中で一番タイプだった。しっかりとメイクをしている顔だけど、その下に隠れるベースも好みだと分かる。
「私、顔を褒められるのって好きじゃないんですよね」
「……なんか言われ慣れてそうな言い分だ」
22歳。これだけ可愛くて、スタイルも良くてアパレルの販売員。
そりゃ、外見は褒められ放題なんだろう。褒め方を間違えたらしい。だけど実際、俺はこの子の外見以外を知らない。
「うち来ます?」
「は?」
「そういうつもりで誘ったんじゃないの?」
「いや……」
そこまでの期待はしてないよ、と頭の中で警告が鳴る。
学生時代、こういうことが無かったわけじゃない。だけど何かが引っかかって、この誘いに乗るのを躊躇した。
「彼氏要らないんだよね……?」
「お互い彼氏彼女が居ない方が、あと腐れなくいられそうじゃないですか?」
「そういうもの?」
「浮気とか不倫は嫌なんです。かといって、フリーの男にイイ男が少ないのも事実で。だからちょっと今日は、運命感じました」
勝手に感じるなよ、余計な運命を……。俺は複雑だ。
こんな可愛い子が、自分のことをそんな風に見ていたなんて。そりゃ、嬉しくないかと聞かれたら嬉しいことに間違いはない。でも真樹ちゃんと何かが始まったところで彼女にはなり得ないんだと思うと……。
「でもさあ、情が沸かない? そんな簡単に割り切れるかなあ」
「情……。それならそれで、そういう情の関係でもいいですよ」
そう来るかあ……。すげーなー。この子。
世の中どうなってんだよ。こんな可愛い顔して相当淫乱なんだろうか。
「私、祥太さんが美容師って知ってるから、本気にはならないし」
「それ言われるとかなり複雑なんだけど」
「真面目なんですか? 彼女相手じゃないとできないとか?」
幸いこのバーはガヤガヤとうるさくて、この会話が他の客に聞こえることはない。聞かれていたら相当焦っていたと思う。
「相手の気持ちが無いと思ったら、盛り上がらないんだよね。だからそういうこと言われちゃうと、なんか冷めるかも」
「そうですね、ごめんなさい。フィクションでも愛は必要ってことか」
「……人の話聞いてた?」
そこでフィクションとか言われるから冷めるんだっつーの。少なくとも、気持ちの持って行き所が無いのは嫌だ。
「祥太さん、今日一日の、彼氏彼女しますか」
「今日一日の……」
「手を繋いで帰って、ただいまーって私の家に着いて一緒に寝るだけ」
「だけって……」
「気分が乗らなかったら添い寝で」
「真樹ちゃんは、一体俺に何を求めてんの?」
呆れた俺は本音をぶつけた。一瞬、真樹ちゃんの顔が予想外のことを聞かれたみたいに固まって、頬杖をつく。後ろの背景には、バーの白い間接照明。俺が写真をやっていたら、3回はシャッターを切っていたかもしれない。
とにかくこの子は、何をしてもそれが一枚の絵みたいだった。
「分かんないですよ。そんなの」
「……?」
「祥太さんなら、私をちゃんと扱ってくれそうかなって思っただけで」
これまでの話を全て吹っ飛ばして、急にその話に持っていかれる。
さっきの飲み会では見られなかった目の前の女の子の、なにか抱えているモノが見え隠れしている気がする。
頭では、そんなのに深入りしていい事なんかないと分かってた。
*
真樹ちゃんの家は、店から2つの路線を乗り継いで30分。駅からは10分の小さなマンションだった。女の子の家に来たのは久しぶりで、そういやめっきり利津の部屋にも入らなくなっていたなと思い出す。
ワンルームの広くもない部屋に、服がいっぱいかかっていた。メイクボックスらしきものも置いてある。お洒落をする優先順位が一番みたいな部屋で、隅っこに追いやられて申し訳なさそうに布団が積んであった。
「どうします? シャワーでも?」
「ああ、えっと……」
勧められるがままに、トイレと一体型になったユニットバスでシャワーカーテンをして身体の汗を流した。
女の子の家に来ると、何のシャンプーを使っているかをチェックしてしまう。真樹ちゃんは通販で人気のちょっと高めなオイルシャンプーを使っていた。香りがフローラル系で、やっぱり女の子らしい。
今度、店の買い出しに行ったついでに真樹ちゃんが好きそうなサロンシャンプーを買ってこようかなんてよぎってしまい、いや、何のプレゼントだよ、と我に返った。
「サンキュー。ドライヤー借りていい?」
タオルだけを腰に巻いてユニットバスから出ると、真樹ちゃんは何故か驚いている。
「あ。そっか、着替え、ないのか」と小さな声で気付いた彼女に、もしかしてこういうことを頻繁にやっている子じゃないんじゃないかという確信が増していく。
さっきの堂々とした態度とは打って変わって、真樹ちゃんは慌ててドライヤーとブラシを俺に渡して「私もシャワーして来るから」と逃げるようにユニットバスの扉の中に消えた。
俺、あの空間を結構びしょびしょにしてきちゃったんだけど、大丈夫なのかな。
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