美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏

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第二章 夢なんかみなくても

気分転換に 1

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 あれから利津に連絡を入れていない。利津からの連絡もなく、俺は久しぶりに友達との飲み会に参加した。

「おーっす」

 悪友の剛(ごう)が個室で既に席に着いている。ちょっと目つきが鋭い剛は、シンプルでも俺らの年では手が出ないようなブランドの服を身に着けていて、その辺のお洒落さんとは一線を画している。

 同い年の剛は、アパレル会社でバイヤーをしていた。そんな職業だからか、女の子の知り合いが多い。

「結局何人くんの?」
「俺の後輩が3人」

 剛が当たり前のように言ったけど、今日は3対3なのかと何気なく思う。世間でこれは合コンと呼ばれるやつなのかもしれない。

「剛の後輩かあ……美容師の男とか無いわーって言ってそうじゃん」
「いや、祥太の話したらめっちゃ会いたがってたし」
「どんな話し方したんだよ」

 掘りごたつ式の席で剛の斜め前に腰を下ろして、今日の店のメニューを眺める。何となく今日の会費は男が4000円、女が2000円くらいかなと想像がついた。

「やっぱ2人共早いねー」

 そこに到着した友基(ともき)が相変わらず嫌味な爽やかさを振りまいている。体育大を出てジムのインストラクターをしている友基は、清潔さが一番大事だとかなんだとか言っていて、いつもシャワーを浴びたてのような雰囲気が漂う。

 この3人でいると、俺たちは目立つ。
 陰のあるファッションセンスが異常な剛、金髪で背丈のある俺、そして無駄に爽やかで細マッチョの友基。
 3人で飲み会に参加すると、俺たちはよくモテた。

「今日はどんな子が来るの?」友基が興味津々だ。
「あー。若いよ。20歳と22歳。販売員だからかわいいし」
「友基、彼女いなかったっけ?」
「別れたよ。職場恋愛だったから気まずい」

 そんな世間話をしていたら、女の子たちが同時に到着した。3人は同じ職場らしいし、きっとどこかで待ち合わせて来たんだろう。

 3人ともパンツスタイルだったけど、利津みたいな女を捨てた雰囲気はどこにもない。「こんにちはー」と笑った時に塗られていたリップの光沢が光っていて、やっぱり化粧がちゃんとしている女は良いなと思った。

 手足が長くていい匂いがしそうなキラキラした3人だ。

「わー3人ともすげーかわいい!」

 友基は本人たちを前に、平気でそういうことを言う。俺は友基を根っからの女たらしだと睨んでいる。

 食事やドリンクを頼みながら、お互いの自己紹介なんかをし合った。
 友基は隣に座った小柄な20歳の子に身体を向けて熱心に話している。こりゃ、完全に狙ってんなあ……。

「祥太さんは、やっぱり火曜休みなんですか?」
「そう。あと1日はシフト。真樹ちゃんは?」
「私たちは完全シフト制ですね。月曜とか火曜には1日休みをもらいますが」

 セミロングでパーマをかけている真樹ちゃんは、金色の大きなイヤリングなのかピアスなのかが髪から覗いて話す度に揺れている。猫顔系統で……うん、好みかもしれない。

 2時間半で店の時間が来た。まだ21時半で、大人が解散するには早い時間だ。

「さて、どうするー? 友基はアカリと二次会行きたいんだろ? アカリは?」
「えっ……」

 友基とずっと話をしていたアカリちゃんは、剛に二次会と言われて戸惑っていた。あんまりこういうの慣れていないんだろう。

「じゃあ俺、真樹ちゃんと飲み直してくるわー」

 先輩ぶってそんなことを言い、真樹ちゃんを誘う。「はーい」と軽く返事をした真樹ちゃんに、アカリちゃんも「じゃあ……」と友基についていくのを決めたらしい。

 剛は幹事同士で「今日は帰る」と去っていく。
 程よく身体のラインを拾うカットソーを着た真樹ちゃんを、何度か行ったことのあるバーに誘った。

 *

 最初の飲食店から3分ほど歩いたところにあるバーは、外から見るとライブハウスのような印象を受ける。地下に降りる階段に、初めての客を寄せ付けないバリアのようなものが張られている空間だ。

 美容師は仕事で夜のショーなんかをやる。このバーを貸し切って行われたショーに先輩から誘われたのがきっかけで、たまにこの店を訪れるようになった。

 店に着くと、いかにもカルチャー好きといった独特の風貌をした若者が集まっている。昔の映画セットを真似した店内は、暗いのに妙に間接照明の使い方が近未来的だった。

「この店、よく来るんですか?」
「たまに。ここ、貸し切りでステージ作ってヘアメイクのショーとかできるんだよね」

 真樹ちゃんは「ふうん」と言って「すいません」と付け加えると、荷物から煙草を出して火をつけた。
 さっきの飲み会では吸っていなかったから、遠慮していたんだろう。

 小さなハイテーブルの席に着いている。ミックスナッツが席に置かれて俺と真樹ちゃんはジンバックとモスコミュールを頼んだ。

「祥太さんって、彼女いないんですよね?」
「うん」
「なんでですか?」

 煙をふーっと吐いて、それを手で散らしている。けだるそうな雰囲気が、さっきの真樹ちゃんとは別人みたいだ。

「真樹ちゃん、さっきと雰囲気違くない?」
「先輩の目が無いんで、こっちが素です」

 なるほど、と思う。剛の前ではこういう姿は出さないらしい。
 ぐっと色気が増したようにも見えた。

「だから、なんでなんですか? 祥太さんモテるでしょ?」
「前に付き合ってた子がねー……束縛系というか、メンヘラ系というか」
「ああ、懲りたんですか」

 真樹ちゃんは煙草を灰皿にトントンとして灰を落としている。尖った爪にパープル系のネイルが光っていたけど、この店の暗い照明で見ると煙草の灰と同じ色に見えた。

「懲りたっていうかねー。なんか、面倒になっちゃって」
「終わってますね」
「始まってないよ」

 俺と真樹ちゃんはそんな話をしながら、お互いの知る剛の話をしたり仕事の話をしたりした。

「真樹ちゃんは?」
「ああ、彼氏は……要らないです」
「それは終わってるんじゃないの?」

 真樹ちゃんは、じっとこっちを見ていた。仮にも年下の美人に「終わってる」なんて言い過ぎたと気付く。

「さっきのあの……胡散臭い笑顔の友基って人、アカリのこと持ち帰ってます?」
「さあ? 友基は相手の希望にゆだねると思うよ。出会った日にがっつくタイプじゃないし」

 俺は、友基を「胡散臭い」と言われたのが気に入らなかったのか、なんだか友基の肩を持ってしまった。あの笑顔のどこが胡散臭いのか。あいつは、素で良いやつだと思う。確かに女好きではあるけれど。
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