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第三章 足りない僕とコーヒーと
噂話
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「やっぱりナツさんのところにも来てたんですか!」
「来てたましたよー。もうほんと、彼氏彼女って雰囲気漂わせて」
「祥太って分かりやすいですよね」
祥太くんがまきちゃんという女性を連れてきた翌日、利津さんがお店に来た。利津さんも利津さんのお父さんも、祥太くんのデレデレっぷりに「あれはどう見ても……」となったらしい。
もしかして祥太くん、これまでの人生はずっとあんな感じに周囲に好意を隠さずに生きて来たのだろうか。
昨日のあれを見てしまうと、器用に見えてそうでもないのかもしれないと思い始める。いや、あれで計算という可能性も……いやいや、そんなタイプじゃない。
「大丈夫でした? 利津さんのお父さん」
「何がですか?」
「いや、祥太くんを義理の息子にしたがってたみたいだったから……」
この間倒れたという利津さんのお父さんが、これでまた体調を崩さないか僕は心配だ。「定食まなべ」はあのお父さんに懸かっている。
利津さんには祥太くんみたいな頼れる幼馴染がいると心強い。
赤の他人である僕がそう思うくらいなのだから利津さんのお父さんはもっと思っているはずで、僕はなんだかまきちゃんという人の存在を素直に喜べないでいる。
男女の幼馴染って、彼氏や彼女の嫉妬でうまくいかなくなったりするものだよね。僕は、カウンターの向こうにいる利津さんの複雑な顔を見た。
「お父さんはびっくりしてたけど、なんか納得もしていて。祥太ってあれで惚れっぽいっていうか、彼女できると浮かれるんですよ。そういうの、私もお父さんもずっと見て来たから」
「でも、付き合ってないって言い張ってましたよ、祥太くん」
僕が一番納得が行っていないのはその辺だけど。
これから付き合うというニュアンスを感じさせずに、ただ付き合っている関係ではないという言い方をしていた。
「なんか事情があるんでしょうね」
「事情ですか……」
「祥太、優しいから。ちなみに私は祥太と喧嘩してたんですけど、幸せそうな姿で現れて帰っていくのを見たら、どうでもよくなっちゃいました」
「なんか分かります。結局僕も驚いちゃってショックはありましたけど、祥太くんを信じちゃうんですよね」
僕は頷いて焙煎機から離れ、利津さんのブレンドコーヒーを淹れる。
部外者の僕らがどうこう言う問題じゃないから、祥太くんが話したくなるまで待つしかない。
「ところでこの間、お店に日葵さんが来ていましたね」
利津さんから急に日葵の話を振られた。そっちに話が行ったかああ。利津さん容赦ないからなあ……。
「なんか、失礼な感じでしたよね……すいませんでした」
「日葵さんこそ、ナツさんに気がありそうでしたけど」
「いやあ、そんなことはないと思いますよー」
ひいい。怖い。こういう尋問みたいなのは苦手だというのに。
カウンターから睨まれて「今すぐ吐け」という圧がすごい。利津さんは、僕が食器を拭いているのをジロリと見ながらコーヒーをすすった。
「祥太もナツさんも、私には話してくれないんですね」
「いや、そういうわけでは……」
うーん、まあ、祥太くんと利津さんでいえば、祥太くんの方が懐が広くて深い。利津さんに日葵の話などしようものなら、利津さんは日葵に喧嘩を売りかねないだろう。
利津さんのまっすぐなところは好きだけど、僕には勢いが強くて扱いを持て余すところがある。
なんというか、逃げられない感じがしてしまう。
まあ、実はそういうの嫌いじゃないんだけど……。
「ナツさんて、日葵さんのどんなところが好きだったんですか?」
「ええっ?!」
「元カノさんですよね? つまり、好きだったってことですよね?」
「いや、まあ、そうですけど……」
これ、コーヒーショップの店長とお客さんの会話かなあ……。
できれば避けたい話題だけど、利津さんは許してくれないだろう。
他のお客さんから聞かれていない今くらい、過去の話をするのはいいのかな……。
「まあ、以前は支えてもらっていたんですよ」
「日葵さんにですか?」
「日葵は営業担当で、僕の仕事をすごく支持してくれていたんです。お客さんにも猛プッシュしてくれて……僕は自分にあまり自信が無かったので、お陰で自信が持てました」
「……日葵さん、あれで支えるタイプなんですか?」
利津さんの眉間に皺が寄っている。あからさまだなあ。
そんなに日葵って支えそうなタイプに見えないのだろうか。
確かに、自由奔放に見えがちなところはある。人に気を遣って生きているようには見えないのかもしれない。
「見た目があんな感じだから、誤解されやすいんですけどね。彼女は人を支えることにかけては一流ですよ」
「まさかそんな感じだとは……」
利津さんは茫然としながら言葉を失っている。この話、そんなに驚く内容だろうか。誰にだって、いろんな顔がある。
日葵は、芯が強くて他人を守ろうとするタイプだ。
その正義感がたまに危うく感じることもあったけれど、僕はそういう日葵だから当時は一緒にいることを選んでいた。
「まあ、仕事中の日葵と、普段の日葵はちょっと違うかもしれませんね」
僕はブレンドコーヒーを焙煎することにした。それぞれの生豆を計量して、焙煎機に向かう。
別に利津さんから逃げたわけではない。いや、ちょっと逃げた。
僕はまだ、日葵から来たメッセージに返信をしていない。
日曜休みかどうか聞かれたその先に、何かしらの誘いがあることは間違いない。それが分かっているから、僕はどうしたら良いのか分からないでいる。
夏祭りで日葵に手伝ってもらってみて、やっぱり一緒に仕事をするのには楽な相手だと思い知った。
皮肉なことに、僕たちは私生活のパートナーとしては恐ろしく相性が悪い。
日葵は仕事を離れた途端、思い切り構ってほしいタイプになるからだ。
僕はどうも引っ張って行ってくれる女性でないとダメらしい。
日葵と僕は、仕事でコンビを組む位が丁度いいのだろう。
焙煎機のやかましい音が、僕の雑念を読んだように店内に響く。
長いこと仕事も私生活も共にした相手を、そう簡単に憎めないのは普通だろう。人には情というものがある。
きっと日葵は、あのクリエイターに弄ばれた。
そういう噂の絶えない人だったから、日葵のような女性に目を付けていてもおかしくはなかったけれど。
仕事が尊敬できても、ろくでもない人間は確かに存在する。
僕が前にいた世界は、比較的そんな話に溢れていた。
「来てたましたよー。もうほんと、彼氏彼女って雰囲気漂わせて」
「祥太って分かりやすいですよね」
祥太くんがまきちゃんという女性を連れてきた翌日、利津さんがお店に来た。利津さんも利津さんのお父さんも、祥太くんのデレデレっぷりに「あれはどう見ても……」となったらしい。
もしかして祥太くん、これまでの人生はずっとあんな感じに周囲に好意を隠さずに生きて来たのだろうか。
昨日のあれを見てしまうと、器用に見えてそうでもないのかもしれないと思い始める。いや、あれで計算という可能性も……いやいや、そんなタイプじゃない。
「大丈夫でした? 利津さんのお父さん」
「何がですか?」
「いや、祥太くんを義理の息子にしたがってたみたいだったから……」
この間倒れたという利津さんのお父さんが、これでまた体調を崩さないか僕は心配だ。「定食まなべ」はあのお父さんに懸かっている。
利津さんには祥太くんみたいな頼れる幼馴染がいると心強い。
赤の他人である僕がそう思うくらいなのだから利津さんのお父さんはもっと思っているはずで、僕はなんだかまきちゃんという人の存在を素直に喜べないでいる。
男女の幼馴染って、彼氏や彼女の嫉妬でうまくいかなくなったりするものだよね。僕は、カウンターの向こうにいる利津さんの複雑な顔を見た。
「お父さんはびっくりしてたけど、なんか納得もしていて。祥太ってあれで惚れっぽいっていうか、彼女できると浮かれるんですよ。そういうの、私もお父さんもずっと見て来たから」
「でも、付き合ってないって言い張ってましたよ、祥太くん」
僕が一番納得が行っていないのはその辺だけど。
これから付き合うというニュアンスを感じさせずに、ただ付き合っている関係ではないという言い方をしていた。
「なんか事情があるんでしょうね」
「事情ですか……」
「祥太、優しいから。ちなみに私は祥太と喧嘩してたんですけど、幸せそうな姿で現れて帰っていくのを見たら、どうでもよくなっちゃいました」
「なんか分かります。結局僕も驚いちゃってショックはありましたけど、祥太くんを信じちゃうんですよね」
僕は頷いて焙煎機から離れ、利津さんのブレンドコーヒーを淹れる。
部外者の僕らがどうこう言う問題じゃないから、祥太くんが話したくなるまで待つしかない。
「ところでこの間、お店に日葵さんが来ていましたね」
利津さんから急に日葵の話を振られた。そっちに話が行ったかああ。利津さん容赦ないからなあ……。
「なんか、失礼な感じでしたよね……すいませんでした」
「日葵さんこそ、ナツさんに気がありそうでしたけど」
「いやあ、そんなことはないと思いますよー」
ひいい。怖い。こういう尋問みたいなのは苦手だというのに。
カウンターから睨まれて「今すぐ吐け」という圧がすごい。利津さんは、僕が食器を拭いているのをジロリと見ながらコーヒーをすすった。
「祥太もナツさんも、私には話してくれないんですね」
「いや、そういうわけでは……」
うーん、まあ、祥太くんと利津さんでいえば、祥太くんの方が懐が広くて深い。利津さんに日葵の話などしようものなら、利津さんは日葵に喧嘩を売りかねないだろう。
利津さんのまっすぐなところは好きだけど、僕には勢いが強くて扱いを持て余すところがある。
なんというか、逃げられない感じがしてしまう。
まあ、実はそういうの嫌いじゃないんだけど……。
「ナツさんて、日葵さんのどんなところが好きだったんですか?」
「ええっ?!」
「元カノさんですよね? つまり、好きだったってことですよね?」
「いや、まあ、そうですけど……」
これ、コーヒーショップの店長とお客さんの会話かなあ……。
できれば避けたい話題だけど、利津さんは許してくれないだろう。
他のお客さんから聞かれていない今くらい、過去の話をするのはいいのかな……。
「まあ、以前は支えてもらっていたんですよ」
「日葵さんにですか?」
「日葵は営業担当で、僕の仕事をすごく支持してくれていたんです。お客さんにも猛プッシュしてくれて……僕は自分にあまり自信が無かったので、お陰で自信が持てました」
「……日葵さん、あれで支えるタイプなんですか?」
利津さんの眉間に皺が寄っている。あからさまだなあ。
そんなに日葵って支えそうなタイプに見えないのだろうか。
確かに、自由奔放に見えがちなところはある。人に気を遣って生きているようには見えないのかもしれない。
「見た目があんな感じだから、誤解されやすいんですけどね。彼女は人を支えることにかけては一流ですよ」
「まさかそんな感じだとは……」
利津さんは茫然としながら言葉を失っている。この話、そんなに驚く内容だろうか。誰にだって、いろんな顔がある。
日葵は、芯が強くて他人を守ろうとするタイプだ。
その正義感がたまに危うく感じることもあったけれど、僕はそういう日葵だから当時は一緒にいることを選んでいた。
「まあ、仕事中の日葵と、普段の日葵はちょっと違うかもしれませんね」
僕はブレンドコーヒーを焙煎することにした。それぞれの生豆を計量して、焙煎機に向かう。
別に利津さんから逃げたわけではない。いや、ちょっと逃げた。
僕はまだ、日葵から来たメッセージに返信をしていない。
日曜休みかどうか聞かれたその先に、何かしらの誘いがあることは間違いない。それが分かっているから、僕はどうしたら良いのか分からないでいる。
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日葵は仕事を離れた途端、思い切り構ってほしいタイプになるからだ。
僕はどうも引っ張って行ってくれる女性でないとダメらしい。
日葵と僕は、仕事でコンビを組む位が丁度いいのだろう。
焙煎機のやかましい音が、僕の雑念を読んだように店内に響く。
長いこと仕事も私生活も共にした相手を、そう簡単に憎めないのは普通だろう。人には情というものがある。
きっと日葵は、あのクリエイターに弄ばれた。
そういう噂の絶えない人だったから、日葵のような女性に目を付けていてもおかしくはなかったけれど。
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※小説家になろうにも掲載中です。
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