鬼上司は間抜けな私がお好きです

碧井夢夏

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第一章

配属1日目

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 花森沙穂はなもりさほ、配属1日目ーー。

 東御とうみの歩くペースが速いので、花森は何度も小走りして必死で付いていく。

「あの、サポート担当でも営業先に行かなきゃいけないんですか?」
「そういうわけではないが、新入社員なんだから顔を売っておくのも悪くない。電話でやり取りすることも多いのだから一度でも顔を合わせておくと良いと思ってな」
「はあ……」

 花森はそういうものなのかと東御に同行していた。
 客先のオフィスに着くと、担当者との名刺交換をする。そして東御の商談を横でただ聞いて過ごした。話している内容は殆ど分からない。

 そんなことを数社繰り返しているうちに、あっという間に夕方になった。

 二人はオフィスに戻り自席に着く。
 花森は新しくできた靴擦れに絆創膏を重ねて誤魔化していたが、これでようやく座ることができる。

「名刺は管理ソフトに入れておくんだ」

 席に着くと早速東御は花森に名刺の管理方法を教えた。一息つく暇さえ与えずに動き続ける様子は、さすが『完璧超人 トーミー』と陰で名付けられるだけある。

 この会社はクラウドで社員たちの名刺を管理することで、誰かが急に辞めたり仕事が出来なくなってもすぐに対応できるようになっていた。

「名刺のどこかに今日の日付を書き込んでおくといい」
「今日の日付……ですか?」
「名刺をスキャンして全社管理するから、一番新しい名刺を誰が持っているかが分かる」

 花森は、名刺に日付を書く意味がよく分からない。

「相手も昇進したり異動したりするんだよ。名刺は常に変わると思っておけ」
「なるほど」

 花森は一日の疲れを感じながら、また席を立ってコピー機で名刺をスキャンしていく。
 東御が仕事熱心だという事は良く分かった。だが、憧れるかと聞かれたら確実にノーだ。

 東御は男尊女卑なのだろうか、パワハラなのだろうか、どうも上から目線を感じる。
 いつか必ず見返してやると思うと、花森は別のやる気が湧いてきていた。
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