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第二章
先輩と後輩 2
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「二人の時の東御ってどうなの? 会社とは違うんでしょ?」
「はい、まあ……優しいです」
「へえぇ、あれが優しくなるんだ?」
「割と……その、溺愛? だと思います」
「出た」
那由多と松井はニヤニヤし始める。
これは仕入れて損のないネタだなと途端に花森側に身を乗り出した。
花森の隣に座る松井は、花森の腕を肘でつつくようにしながら舞い上がっている。
「聞きたーい。あの東御がどんな溺愛してるのか興味あるう」
「私も、トーミーのいやらしいエピソードが聞きたーい」
「えっ……そ、そういうの話していいか聞いてきませんでした」
「良いに決まってんじゃん、先輩と後輩の恋バナの範疇でしょー」
恋バナの範疇とは何なのかよく分からないが、昼間から先輩二人は会社とは違う東御の話を聞きたがる。
花森は、てっきり反対されると思っていたので予想外の反応に戸惑った。
「あのね、花森ちゃん。二人が付き合ってるのは別にいいと思う。けど、それを知ったら面白くない人が結構いると思うんだよね」
「そうそう、三木なんかは東御を蹴落とそうとして材料探してると思うし」
「そうですね、私、三木さんに酔い潰されたのを東御さんに助けてもらってからの付き合いですし」
花森は三木の様子を思い出して頭が痛くなる。一方、那由多と松井は目を輝かせていた。
「ちょっとそれ、詳しく!」
那由多と松井のスイッチが入る。
花森は周りに会社の人がいないかを念のため確認すると、三木との一件を那由多と松井に話した。
東御がすぐに駆け付けて助けてくれた日の話を、二人は目を輝かせて聞いている。
「やだートーミーったらちゃんと漢なんじゃんかーときめいちゃったー」
「そんなことされたら、好きになっちゃうよねえ。でも、三木は最低だな」
「で? 東御の家に泊まったってことは、その日に結ばれちゃったのかい? 赦してしまったのかい? 花森ちゃん?」
「……あはは」
「花森~隅に置けない~」
「……なんかすいません」
「もー超いい話聞いちゃった。そっか、私、会社では黙っておくね」
「私も、誰にも言わないから」
「え??」
那由多と松井は「ふふふ」と笑って楽しそうにしている。
「まだオープンにしない方が絶対良いって。頭の固い人たちが、東御のこと支社に送るかもしれないでしょ?」
「アリバイ工作が必要になったら何でも言って」
そう言った先輩二人は注文したメニューが並ぶのを見届けると、「食べよ食べよ」と普段通りに食事を始める。
「あ、ありがとう……ございます……」
花森は予想外の言葉に目頭が熱くなった。
東御が支社に異動になってしまうのだろうと落ち込んでいたのもあり、ほっとしたのも加わって言葉を失う。
「いいんだよ、花森。あんたはただ好きな人と付き合っただけでしょ」
「トーミーって学校とかで出会ったらいい男だったんだろうなーって思ってたんだよねえ。やっぱさあ、見た目がいいよね」
「……いつも東御さんの文句を言ってたじゃないですか。それに那由多さんの彼氏さん、すごい爽やかな好青年だったし」
「上司としては嫌いだもん。花森みたいにトーミーに魅力を見せられたこともないし。それに、私にとっては彼が最高なのでー」
花森はホロリとしてしまった。
早く東御にこの話を教えたい。
人に幸せを応援されるというのがこんなに温かいのだと、東御に伝えるにはどうしたらいいのだろうか。
「はい、まあ……優しいです」
「へえぇ、あれが優しくなるんだ?」
「割と……その、溺愛? だと思います」
「出た」
那由多と松井はニヤニヤし始める。
これは仕入れて損のないネタだなと途端に花森側に身を乗り出した。
花森の隣に座る松井は、花森の腕を肘でつつくようにしながら舞い上がっている。
「聞きたーい。あの東御がどんな溺愛してるのか興味あるう」
「私も、トーミーのいやらしいエピソードが聞きたーい」
「えっ……そ、そういうの話していいか聞いてきませんでした」
「良いに決まってんじゃん、先輩と後輩の恋バナの範疇でしょー」
恋バナの範疇とは何なのかよく分からないが、昼間から先輩二人は会社とは違う東御の話を聞きたがる。
花森は、てっきり反対されると思っていたので予想外の反応に戸惑った。
「あのね、花森ちゃん。二人が付き合ってるのは別にいいと思う。けど、それを知ったら面白くない人が結構いると思うんだよね」
「そうそう、三木なんかは東御を蹴落とそうとして材料探してると思うし」
「そうですね、私、三木さんに酔い潰されたのを東御さんに助けてもらってからの付き合いですし」
花森は三木の様子を思い出して頭が痛くなる。一方、那由多と松井は目を輝かせていた。
「ちょっとそれ、詳しく!」
那由多と松井のスイッチが入る。
花森は周りに会社の人がいないかを念のため確認すると、三木との一件を那由多と松井に話した。
東御がすぐに駆け付けて助けてくれた日の話を、二人は目を輝かせて聞いている。
「やだートーミーったらちゃんと漢なんじゃんかーときめいちゃったー」
「そんなことされたら、好きになっちゃうよねえ。でも、三木は最低だな」
「で? 東御の家に泊まったってことは、その日に結ばれちゃったのかい? 赦してしまったのかい? 花森ちゃん?」
「……あはは」
「花森~隅に置けない~」
「……なんかすいません」
「もー超いい話聞いちゃった。そっか、私、会社では黙っておくね」
「私も、誰にも言わないから」
「え??」
那由多と松井は「ふふふ」と笑って楽しそうにしている。
「まだオープンにしない方が絶対良いって。頭の固い人たちが、東御のこと支社に送るかもしれないでしょ?」
「アリバイ工作が必要になったら何でも言って」
そう言った先輩二人は注文したメニューが並ぶのを見届けると、「食べよ食べよ」と普段通りに食事を始める。
「あ、ありがとう……ございます……」
花森は予想外の言葉に目頭が熱くなった。
東御が支社に異動になってしまうのだろうと落ち込んでいたのもあり、ほっとしたのも加わって言葉を失う。
「いいんだよ、花森。あんたはただ好きな人と付き合っただけでしょ」
「トーミーって学校とかで出会ったらいい男だったんだろうなーって思ってたんだよねえ。やっぱさあ、見た目がいいよね」
「……いつも東御さんの文句を言ってたじゃないですか。それに那由多さんの彼氏さん、すごい爽やかな好青年だったし」
「上司としては嫌いだもん。花森みたいにトーミーに魅力を見せられたこともないし。それに、私にとっては彼が最高なのでー」
花森はホロリとしてしまった。
早く東御にこの話を教えたい。
人に幸せを応援されるというのがこんなに温かいのだと、東御に伝えるにはどうしたらいいのだろうか。
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