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第三章
異変 2
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東御はエレベーターで3階に上がるまでの間にその封筒と便箋を鞄の中にしまい込んだ。
家で処分するのも躊躇われ、会社まで持っていきシュレッダーにかけようと決める。
これから花森の待つ部屋に辿り着くというのに、重苦しい気持ちが身体の中を渦巻いた。
たった一文の手紙がこんなに憎悪を膨らませることもあるのだ。
あえて文面を用いた相手のやり方に流石だと認めざるを得ない。
東御は皮肉に顔を歪める。
「さしずめ、身辺調査が済んだということか……」
東御は一人で乗るエレベーター内で、湧き上がってくるドロドロとした気持ちをなんとか鎮めようとした。
部屋で待つ花森に、こんな自分を知られたくない。
一体何を見て、あの花森沙穂を形容したのだろうか。
手紙の文面に顔を歪め、ハッとした。
東御は花森の笑顔を必死で思い出す。こんな醜い感情に堕ちてはいけない。
エレベーターから降りると、自宅の扉を開ける前に一度深呼吸する。鍵を使って扉を開け、「ただいま」といつも通りに声を上げた。
「八雲さあーーんっ!!」
急にリビングの方で声が上がり、ドタドタと騒がしい足音が近づく。
玄関に現れた花森が、東御の胸に思い切り飛び込んだ。
白いエプロンを付けた花森が腕の中にいる。
東御はその身体をぎゅっと抱きしめて花森の明るい茶色の髪に顔を埋めた。
「卵を割るくらいはできるようになったのか?」
「卵を割るのは元からできましたよ! まぁ、卵焼きに殻が入ったりはしますけどね」
「最悪な食感を思い浮かべてしまったじゃないか……」
「ちなみに、卵焼きも焦がし風味の香ばしいやつが出来上がります」
「響きは旨そうだが、どこかに殻が入っているのかと思うとロシアンルーレットだな」
話しながら、東御の中にあった黒い感情が洗い流されていくような心地がする。
「ふふふ、私がまともなお料理を作れるわけないじゃないですか」
「偉そうに言うところが、さすが沙穂だな」
「でも、今日は夕ごはんをご用意していますよ?」
花森に夕食を用意していると言われて、素直に喜べない東御は言葉を失った。
またドーナツの類があれば何となく違うなと思いながら花森を褒めなければならないし、一生懸命頑張って用意された料理が不味かったらどんな反応をしていいのか分からない。
「夕食か……一体何を……」
東御は言ってしまってから、そこはまずありがとうだろうと反省した。
人というのは恐怖を前にすると感謝が影を潜めるらしい。
「なんと、今日はぶっかけ丼です。私がやったのはオクラとたくあんを切る部分です」
「……よかった」
料理らしい料理をしなくてもちゃんと料理だ。
頭の中の日本語がおかしなことになっているが、要するに東御は失敗をする要素が少ないものを選んだ花森に感心していた。
家で処分するのも躊躇われ、会社まで持っていきシュレッダーにかけようと決める。
これから花森の待つ部屋に辿り着くというのに、重苦しい気持ちが身体の中を渦巻いた。
たった一文の手紙がこんなに憎悪を膨らませることもあるのだ。
あえて文面を用いた相手のやり方に流石だと認めざるを得ない。
東御は皮肉に顔を歪める。
「さしずめ、身辺調査が済んだということか……」
東御は一人で乗るエレベーター内で、湧き上がってくるドロドロとした気持ちをなんとか鎮めようとした。
部屋で待つ花森に、こんな自分を知られたくない。
一体何を見て、あの花森沙穂を形容したのだろうか。
手紙の文面に顔を歪め、ハッとした。
東御は花森の笑顔を必死で思い出す。こんな醜い感情に堕ちてはいけない。
エレベーターから降りると、自宅の扉を開ける前に一度深呼吸する。鍵を使って扉を開け、「ただいま」といつも通りに声を上げた。
「八雲さあーーんっ!!」
急にリビングの方で声が上がり、ドタドタと騒がしい足音が近づく。
玄関に現れた花森が、東御の胸に思い切り飛び込んだ。
白いエプロンを付けた花森が腕の中にいる。
東御はその身体をぎゅっと抱きしめて花森の明るい茶色の髪に顔を埋めた。
「卵を割るくらいはできるようになったのか?」
「卵を割るのは元からできましたよ! まぁ、卵焼きに殻が入ったりはしますけどね」
「最悪な食感を思い浮かべてしまったじゃないか……」
「ちなみに、卵焼きも焦がし風味の香ばしいやつが出来上がります」
「響きは旨そうだが、どこかに殻が入っているのかと思うとロシアンルーレットだな」
話しながら、東御の中にあった黒い感情が洗い流されていくような心地がする。
「ふふふ、私がまともなお料理を作れるわけないじゃないですか」
「偉そうに言うところが、さすが沙穂だな」
「でも、今日は夕ごはんをご用意していますよ?」
花森に夕食を用意していると言われて、素直に喜べない東御は言葉を失った。
またドーナツの類があれば何となく違うなと思いながら花森を褒めなければならないし、一生懸命頑張って用意された料理が不味かったらどんな反応をしていいのか分からない。
「夕食か……一体何を……」
東御は言ってしまってから、そこはまずありがとうだろうと反省した。
人というのは恐怖を前にすると感謝が影を潜めるらしい。
「なんと、今日はぶっかけ丼です。私がやったのはオクラとたくあんを切る部分です」
「……よかった」
料理らしい料理をしなくてもちゃんと料理だ。
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