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第三章
対面 東御源愈 4
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東御は会社の休憩室で父親に電話を掛けた。
相手は出ず、留守番電話に切り替わる。東御は「紹介したい女性がいます。お時間を下さい」とメッセージを残して電話を切った。
恐らく、父は何かしらの反応をするだろう。
この内容を無視できるほど、あの父はまだ落ち着いていない。
東御は眉間に皺が寄りそうになり、眼鏡を直すようにフレームを指で持ち上げた。
会社で歩いていると結婚の噂を聞いた同期入社から声を掛けられる。
相手が新卒社員だと知っているからか、意外だったという反応ばかりだ。
意外、と言われてみると、確かに東御は社内恋愛の類に全く興味が無かった。
感情が無いとか反応が薄いなどと言われる度に、人間関係自体にそれほど興味が向かないことを思い知っていた。
そんな自分が、直属の部下――しかも新卒社員――に骨抜きにされるなど誰も想像できなかったのだろう。
東御のことをよく知る者ほど、花森がどんな女性なのかを知りたがっているようだった。
「花森さんって、どんな子?」
と尋ねられれば、「抜けているところはあるが、賢くてかわいい」と答えている。飼い犬を紹介するような浅い答えしかできていないが、「賢くてかわいい」というのが東御の口から出ると、周りは大いに盛り上がって喜んだ。
「沙穂」
異動前の花森と東御は現在も上司と部下のままだったが、オフィスでも東御は堂々と下の名前で花森を呼ぶ。
花森は流石にそれはできない。
「あ、はい」
「人事から、また面談の予定だ。メールを転送しておく」
「よろしくお願いします」
花森は東御の部署を離れ、営業部の別の課に行くことになる。
人事の面談では花森の意向を確認するのだろう。入社して間もなくの異動で花森が落ち込んだりしなければいいがと東御は心配になる。
メールを転送する際に「異動の件では心配も多いだろうが、沙穂ならどの部署に行っても活躍できる。遠慮せずに自分の希望はしっかりと人事に伝えるように」とメッセージを追記した。
「結婚て、どう思います?」
花森は年上の那由多と松井に切り出した。自分は既に決まっているが、30代の那由多と29歳になる松井は願望などあるのだろうか。
「んー。まあ、できれば、程度かな」
那由多は意外にもあっさりと口にした。もっと願望があるのかと思っていた花森は驚く。
「ああ、分かります。無理してするほどでもないけど、みたいな」
松井までもが同じ価値観だった。アラサーというのは結婚願望が高くなる年齢ではないのだろうか。
「正直、一緒に暮らしてみたら結婚願望が薄れちゃったんだよね、私」
「えっ」
「なんかさあ、彼と結婚した先が見えないっていうのかな」
「先が見えない、ですか?」
「うん。彼氏としては最高なのにね。家庭で彼が幸せそうな姿も、私が幸せになれる想像も、つかなくって」
花森は聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれない、と固まる。
展望台で会った時の爽やかな相馬という青年に、憐みの感情が芽生え始めていた。
東御は会社の休憩室で父親に電話を掛けた。
相手は出ず、留守番電話に切り替わる。東御は「紹介したい女性がいます。お時間を下さい」とメッセージを残して電話を切った。
恐らく、父は何かしらの反応をするだろう。
この内容を無視できるほど、あの父はまだ落ち着いていない。
東御は眉間に皺が寄りそうになり、眼鏡を直すようにフレームを指で持ち上げた。
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意外、と言われてみると、確かに東御は社内恋愛の類に全く興味が無かった。
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東御のことをよく知る者ほど、花森がどんな女性なのかを知りたがっているようだった。
「花森さんって、どんな子?」
と尋ねられれば、「抜けているところはあるが、賢くてかわいい」と答えている。飼い犬を紹介するような浅い答えしかできていないが、「賢くてかわいい」というのが東御の口から出ると、周りは大いに盛り上がって喜んだ。
「沙穂」
異動前の花森と東御は現在も上司と部下のままだったが、オフィスでも東御は堂々と下の名前で花森を呼ぶ。
花森は流石にそれはできない。
「あ、はい」
「人事から、また面談の予定だ。メールを転送しておく」
「よろしくお願いします」
花森は東御の部署を離れ、営業部の別の課に行くことになる。
人事の面談では花森の意向を確認するのだろう。入社して間もなくの異動で花森が落ち込んだりしなければいいがと東御は心配になる。
メールを転送する際に「異動の件では心配も多いだろうが、沙穂ならどの部署に行っても活躍できる。遠慮せずに自分の希望はしっかりと人事に伝えるように」とメッセージを追記した。
「結婚て、どう思います?」
花森は年上の那由多と松井に切り出した。自分は既に決まっているが、30代の那由多と29歳になる松井は願望などあるのだろうか。
「んー。まあ、できれば、程度かな」
那由多は意外にもあっさりと口にした。もっと願望があるのかと思っていた花森は驚く。
「ああ、分かります。無理してするほどでもないけど、みたいな」
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「正直、一緒に暮らしてみたら結婚願望が薄れちゃったんだよね、私」
「えっ」
「なんかさあ、彼と結婚した先が見えないっていうのかな」
「先が見えない、ですか?」
「うん。彼氏としては最高なのにね。家庭で彼が幸せそうな姿も、私が幸せになれる想像も、つかなくって」
花森は聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれない、と固まる。
展望台で会った時の爽やかな相馬という青年に、憐みの感情が芽生え始めていた。
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