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第三章
対面 東御源愈 5
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「彼ね、片親なんだ」
「ええと、お母さんしかいないとかですか?」
「そうそう、シングルマザーなんだって。なんかね、親子の絆が結構強くってねー……」
どこかで真逆の話を聞いたな、と花森は落差に気付く。
「絆が強い方が良さそうって思っちゃいますけど……」
東御を思い出しながら、花森は向かいに座る那由多の方に身を乗り出す。隣の席には松井が座っている。
「そうなんだよね。お母さんを大事にしてるのは凄く好きなんだ。でも、お母さんの方が大事そうって思っちゃってさあ……。お母さんと私の間に立ったら、私の味方はしてくれない人だなって」
「そんなことないんじゃないですか? 今はただ、彼女だからってだけで……」
「まあ、そうかもしれないけどね。でも、お母さんには彼がいないとダメっぽい」
「それって……」
依存か何かなのだろうか、と花森は思ったが、言葉は出てこなかった。
そんなことが、結婚という制度の前には足枷になったりするのか。
花森は改めて自分がこんな簡単に流されるように婚約して良かったのか不安になる。
「花森、不安になってんの? 大丈夫だよ、東御は。家族とか縁薄いって聞いたし」
松井が見かねたように隣の席から声を掛けたので、花森はハッとして会話中に考え込んでいたことに気付く。
「東御さんのお宅は伝統文化の家元をされているらしくて、私の実家とは全然違うんです」
「うわ、そういうのって大変そう」
「やっぱり、大変ですよね」
花森はまだ母親に東御とのことを何も話していない。
余計な心配をかけたくないという気持ちと、東御家とのことに不安があるうちは話すべきではないと思っていた。
「まあでも、難しく考えすぎないっていうのもあるんじゃないかなあ」
松井は独り言のように話し出す。
「ほら、結婚て勢いがないとできないとか言うし。うちは……彼が仕事上手くいくたびに一緒にいられる時間が減るから、なんかどんどん不安になるんだ。でも、お互いがちゃんとお互いのことを考えていれば、そういうことも乗り越えられるのかなあとか」
花森は松井の彼氏がダンサーだと言っていたのを思い出す。
お互い社会人同士でも、生活リズムが違う仕事をしていればこういう悩みも生まれるのだと頷いた。
「そうですね、ダメな理由を探し出すときりがないですけど、私はただ、東御さんが私と結婚したいというのでした方が良いのかなあと」
「東御は結婚した方が幸せになれそうだと思うわ。しっかりしてるし、頼れそうだし」
「はい」
向かい側で隣り合う松井と花森が納得しているのを見ながら、那由多は目の前のアイスティーを口に含んだ。
喉がすっと通るたびに、モヤモヤしていた気持ちが流されていくような気がする。
「私、トーミーと花森ちゃんが結婚して幸せそうにしてるのを見たら、結婚願望沸くかも」
「えっ、責任重大じゃないですか!」
「そういうもんじゃない?? あの家でも上手くいったんだからきっと大丈夫、って思うかも」
「那由多さん、花森にプレッシャー与えてどうするんですか」
「いや、花森ちゃんはその方が頑張れる子かなって」
花森が「えーっ」と声を上げると那由多も松井も楽しそうに笑う。
花森もその後で二人につられて笑った。
人生で苗字が変わるくらいの出来事なのだから、不安や心配事がついてくるものなのかもしれない。
自分の親にだって結婚前や結婚後に何もなかったかどうかは分からない。そう思うと、自然と気が軽くなっていった。
「ええと、お母さんしかいないとかですか?」
「そうそう、シングルマザーなんだって。なんかね、親子の絆が結構強くってねー……」
どこかで真逆の話を聞いたな、と花森は落差に気付く。
「絆が強い方が良さそうって思っちゃいますけど……」
東御を思い出しながら、花森は向かいに座る那由多の方に身を乗り出す。隣の席には松井が座っている。
「そうなんだよね。お母さんを大事にしてるのは凄く好きなんだ。でも、お母さんの方が大事そうって思っちゃってさあ……。お母さんと私の間に立ったら、私の味方はしてくれない人だなって」
「そんなことないんじゃないですか? 今はただ、彼女だからってだけで……」
「まあ、そうかもしれないけどね。でも、お母さんには彼がいないとダメっぽい」
「それって……」
依存か何かなのだろうか、と花森は思ったが、言葉は出てこなかった。
そんなことが、結婚という制度の前には足枷になったりするのか。
花森は改めて自分がこんな簡単に流されるように婚約して良かったのか不安になる。
「花森、不安になってんの? 大丈夫だよ、東御は。家族とか縁薄いって聞いたし」
松井が見かねたように隣の席から声を掛けたので、花森はハッとして会話中に考え込んでいたことに気付く。
「東御さんのお宅は伝統文化の家元をされているらしくて、私の実家とは全然違うんです」
「うわ、そういうのって大変そう」
「やっぱり、大変ですよね」
花森はまだ母親に東御とのことを何も話していない。
余計な心配をかけたくないという気持ちと、東御家とのことに不安があるうちは話すべきではないと思っていた。
「まあでも、難しく考えすぎないっていうのもあるんじゃないかなあ」
松井は独り言のように話し出す。
「ほら、結婚て勢いがないとできないとか言うし。うちは……彼が仕事上手くいくたびに一緒にいられる時間が減るから、なんかどんどん不安になるんだ。でも、お互いがちゃんとお互いのことを考えていれば、そういうことも乗り越えられるのかなあとか」
花森は松井の彼氏がダンサーだと言っていたのを思い出す。
お互い社会人同士でも、生活リズムが違う仕事をしていればこういう悩みも生まれるのだと頷いた。
「そうですね、ダメな理由を探し出すときりがないですけど、私はただ、東御さんが私と結婚したいというのでした方が良いのかなあと」
「東御は結婚した方が幸せになれそうだと思うわ。しっかりしてるし、頼れそうだし」
「はい」
向かい側で隣り合う松井と花森が納得しているのを見ながら、那由多は目の前のアイスティーを口に含んだ。
喉がすっと通るたびに、モヤモヤしていた気持ちが流されていくような気がする。
「私、トーミーと花森ちゃんが結婚して幸せそうにしてるのを見たら、結婚願望沸くかも」
「えっ、責任重大じゃないですか!」
「そういうもんじゃない?? あの家でも上手くいったんだからきっと大丈夫、って思うかも」
「那由多さん、花森にプレッシャー与えてどうするんですか」
「いや、花森ちゃんはその方が頑張れる子かなって」
花森が「えーっ」と声を上げると那由多も松井も楽しそうに笑う。
花森もその後で二人につられて笑った。
人生で苗字が変わるくらいの出来事なのだから、不安や心配事がついてくるものなのかもしれない。
自分の親にだって結婚前や結婚後に何もなかったかどうかは分からない。そう思うと、自然と気が軽くなっていった。
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