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第三章
対面 東御源愈 6
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「父親との対面場所が決まった。日曜日の午前中、10時に東寿館のロビーラウンジだ」
「……はい」
「東寿館ともなれば周りは結婚式の参列者ばかりだと思うが、まあその位周りが賑やかで他のできごとに気を取られていてくれる方が話しやすいだろう」
「そうなんですか」
会社からの帰り道、東御は淡々と待ちあわせ場所を花森に伝えた。
東寿館は東御流が装花の担当をしている、厳かな雰囲気が自慢の結婚式場だ。
果たして当日に賑やかな外野がいるのかは分からないが、人の目がなければ父親が何をするか分からない。
「俺の実母は来ないことになっている。一応事情は伝えたが、『お任せします』とだけ言われた」
「……そうなんですね」
お任せする、という言葉がこんなに冷たく聞こえたのは初めてかもしれない。
花森は、隣を歩く東御の手を握った。
「こんな家で育ったと聞くと、結婚で縁ができるのに抵抗があるだろう」
「いいえ。そうじゃないです。感情を殺して生きていた八雲さんが……そうやって生きることで自分を守っていたような気がして」
「そうだったのかな」
「これからは、いっぱい笑ってくださいね」
ぽつりと花森が言うと、東御からの返事はない。
「そういえば、沙穂と出会って一番変わったのは……毎日が愉快になったことだ」
「毎日が愉快に……ってなんか馬鹿にされてます?」
「違う。今思えば、沙穂と出会う前の俺は毎日が不愉快だったんだ」
「確かに、毎日機嫌が良いことって大事ですもんね」
「そうだな」
改めて東御源愈に対面することで、どんなことが起きるのかは分からない。
あの分からず屋を絵にかいたような男が、そろそろ東御流の引退を前にどんなことを考えているのか。
唯一希望があるとすれば、花森は口論の類に強いことだろう。
「まあ、花森は自分を抑えずに思い切り暴れてくれればいい」
「思い切り暴れる??」
「相手は出会った当時の俺よりもずっと曲者だ。マトモにやり合える相手じゃない」
「ははーん……なるほど」
「それはどういう反応だ」
「もう、八雲さんのお父さんだから好かれなきゃとかそういうことは考えなくていいということですね?」
「考えるな、それだけは考えるな」
「かしこまりました。それでは、お互い相手を打ち負かす方向で行きましょう」
「ああ、負けを認める相手じゃないが、その方向で行こう」
東御は、夫の父親である義父に対して「打ち負かす」心積もりをした花森に笑う。
日曜日を思うと気が滅入るばかりだったが、今日も花森と過ごす時間は愉快だ。
「なんだか、大丈夫そうな気がしてきた」
根拠のない自信が湧くと、隣の花森がにこりと笑う。
東御は花森の様子に、「華道家は所詮、花本来の美しさを表現するだけ」と教えている自分の理論を思い出す。
本当に美しいのは、花本来が持つ命の強さや儚さだ。
それを忘れて奢ってはいけない。
「父親との対面場所が決まった。日曜日の午前中、10時に東寿館のロビーラウンジだ」
「……はい」
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「こんな家で育ったと聞くと、結婚で縁ができるのに抵抗があるだろう」
「いいえ。そうじゃないです。感情を殺して生きていた八雲さんが……そうやって生きることで自分を守っていたような気がして」
「そうだったのかな」
「これからは、いっぱい笑ってくださいね」
ぽつりと花森が言うと、東御からの返事はない。
「そういえば、沙穂と出会って一番変わったのは……毎日が愉快になったことだ」
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「違う。今思えば、沙穂と出会う前の俺は毎日が不愉快だったんだ」
「確かに、毎日機嫌が良いことって大事ですもんね」
「そうだな」
改めて東御源愈に対面することで、どんなことが起きるのかは分からない。
あの分からず屋を絵にかいたような男が、そろそろ東御流の引退を前にどんなことを考えているのか。
唯一希望があるとすれば、花森は口論の類に強いことだろう。
「まあ、花森は自分を抑えずに思い切り暴れてくれればいい」
「思い切り暴れる??」
「相手は出会った当時の俺よりもずっと曲者だ。マトモにやり合える相手じゃない」
「ははーん……なるほど」
「それはどういう反応だ」
「もう、八雲さんのお父さんだから好かれなきゃとかそういうことは考えなくていいということですね?」
「考えるな、それだけは考えるな」
「かしこまりました。それでは、お互い相手を打ち負かす方向で行きましょう」
「ああ、負けを認める相手じゃないが、その方向で行こう」
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日曜日を思うと気が滅入るばかりだったが、今日も花森と過ごす時間は愉快だ。
「なんだか、大丈夫そうな気がしてきた」
根拠のない自信が湧くと、隣の花森がにこりと笑う。
東御は花森の様子に、「華道家は所詮、花本来の美しさを表現するだけ」と教えている自分の理論を思い出す。
本当に美しいのは、花本来が持つ命の強さや儚さだ。
それを忘れて奢ってはいけない。
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