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Chapter1

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 子どもの頃は、わたしだって夢見てた。いつか王子様が……って。白馬に乗って、とは言わないけれど、この世にたったひとり、わたしだけを愛してくれる王子様が現れてくれると信じてた。
 取り立てて可愛くも美しくもない、その他大勢に埋もれたように見えるわたしを見つけ出して、みんなの前で手を差し伸べ、跪いて言ってくれるの。
「どうかわたしの手を取って、共に生きてほしい」
って。
 その言葉にわたしは戸惑いながらも、こう答える。
「ええ、待ってたわ。わたしの運命の人」
 こうしてわたしたちは手に手を取り合って、幸せに生きていくだろうって。
 そんな夢を描いてた。
 決して贅沢は言わない。ただ、わたしを愛してくれる人を。その王子様のために、わたしは身も心も、すべてを捧げるの……。
 

   *****
  

「あっ、ちょっと待って……。そこ、そんな風に弄ったら、おかしくなっちゃう……」
 彼の指がわたしの秘唇を割り開き、蜜壺の口を開くと、ねっとりとした蜜が腿を伝った。
「おやおや、もうこんなに濡らしちゃって。あなたって相当な淫乱だね」 
 彼が呆れたような、感心したような声でそんなことを言う。
 わたしは頭を左右に振りその言葉を否定しようとするが、溢れた蜜はこれから起こることへの期待を物語っていた。彼が人差し指と中指で秘唇をブルブルと揺さぶると、わたしの体は電気が走ったようにビクリと跳ねる。
「あっ……ぅんっ……」
 思わず甘い声が漏れる。
「ああ、いい声だな。でも、これは序の口だからね。もっと、もーっと、気持ちよくさせてあげるからさ。それじゃあ、もうちょっと脚開いて」
 わたしは彼の指示のとおりに脚を広げる。
 今のわたしは、まったくもってみっともなくふしだらな格好だった。一糸まとわぬ姿で、両手はネクタイで縛られ、犬のように四つん這いになって尻を上に突き上げている。そして、尻の後ろには彼がいて、さきほどからわたしの陰部を弄んでいた。
「このぽちっとした、可愛いお豆をこうして弾くと……」
「あんっ……い、やっ……」
 さっきよりも強い刺激が体の芯を走る。
「んんんんんー、いい反応だねえ。この勃起クリをもっとぐりぐりしてあげれば……」
 彼の指先でピンピンとクリトリスが蹂躙されると、頭が痺れるようにぼうっとしてくる。そして、指の動きに合わせて腰も揺れる。
「あははは、いいよぉ。その腰の動き、いやらしいねぇ。じゃあ、もっと刺激強めでこうしてあげる、っと。おお、もう我慢できないって感じでマン汁だらだら垂らして、腰ビクビク揺らしてるねえ。その腰で、どれだけの男をイカセてきたのかなぁ? ふふふ、この淫乱女」
 彼は容赦なく言葉で嬲ってくる。
 やがて、彼の中指がクリトリスから蜜口に伸びてきた。物欲しげに開けていた口は、指を簡単に受け入れパクパクと咥え込む。そして、彼は親指と中指でクリトリスと中をぐいぐいと扱き始めた。
 その無駄のない動きに、わたしの心と体は、振り子のように揺れ動いた。意識は快楽に抗おうとするけれど、体の奥から突き上げてくる欲望の熱は、彼が与えてくる刺激を貪欲に求める。
「いや、やめて……そんな……いっぱいぐりぐりしたら、わたし、イッちゃう……」
 そんなわたしの悲痛な声に、彼は嬉しそうにこう言った。
「いいじゃん、イッちゃえよ。イッて、イッて、意識ぐっちゃぐちゃになれよ。君が乱れるところを思う存分見たいなぁ。飲む前の、真面目で澄ましたあなたもいいけど、エロくていやらしい君もかなりそそるよ。ほら、だからイケよ。イッて、イッて、イッて、アヘ顔晒せよ」
「んっ、んっ、う、んっ……いっ、や……もう、イク……イッちゃう……イク……イク、イク、イク、イクっ!」
 ぴちゃぴちゃという淫らな水音と、わたしの嬌声が頭の中に響く。息苦しさで意識が遠くへと飛んでいきそうになる。
 ああ、ダメだと思う。このままではわたしは本当におかしくなる。彼の指先で狂ってしまう。こわい、こわい。どうしよう。
 でも、と消えかかる意識でふと思う。
 彼になら狂わされてもいいかもしれない。彼の思いのままに、わたしが作り替えられるなら、それもいい。
 そんなことを考えていたら、思わず彼の名前を呼んでいた。
「律……。律ぅ、もっと、もっとしてぇ……」
 そうして、頭の中で楽しそうにわたしを翻弄する律の姿が浮かんでいた時だった。
「へ? オレ、律なんて名前じゃないんだけど……」
 その声にハッとして後ろを振り向くと、律とは似ても似つかないガタイのいい男がわたしの足の間にいた。
 蛍光灯の容赦のない灯りの下で、男は眉根を寄せてこんなことを言う
「もしかして、律って……彼氏の名前、とか……?」
 その質問にわたしはぶんぶん頭を横に振った。
 それは違う。違うけど……。
 そんなわたしの様子に男は苦笑いをしつつ、こう言いながら行為の続きをする。
「はっはははは、別に彼氏でも構わないけどね。オレとしては、一晩ファックできる相手がいればいいだけだからな。君もそうでしょ? 彼氏がいても性欲持て余してるなんてザラにあるわけだから、まあ、罪悪感なんて感じる必要ないよ。とにかく今日はオレのちんぽで楽しみなよ。君の淫乱まんこを見てたら、オレのちんぽももうギンギンに勃ってきちゃったしさ。責任とって中に挿れさせてくれよ」
 そう言うと、男はわたしの体を仰向けにし、両足を大きく開いた。
「やだっ、恥ずかし……」
 わたしは露わになった陰部を隠そうともがくが、男はその手を掴み、わたしの口をキスで塞いだ。男の舌がわたしの口をぐねぐねと弄くり回すうちに、わたしの感覚は麻痺していく。
「んぐっ……んんん……ふん……」
 男の手が再びわたしの陰部を捉える。もうそこは、指などでは我慢できないほど口が広がっていた。
「ああ、ああ。もうぱっくり開いちゃって。お望み通りにここにぶち込んでやるよ。もうオレも我慢できなくなっちゃったからなあ」
 男の言葉通り、彼のペニスは天を突くかのごとくそそり立っていた。彼の体つきに相応しい、黒々とした極太のペニスが目の前にあった。
 彼の手がベッドのヘッドボードに伸びる。小さな袋を手にするとすぐさま破り、中のコンドームを手早くペニスに被せた。そして、よほど我慢できなかったのだろう、間を空けることなくすぐさまわたしのヴァギナにペニスを挿れた。
 ヴァギナはようやく待っていたものが来たばかりに、嬉しそうにペニスを飲み込む。中の隘路も難なく彼のモノを受け入れた。
「じゃあ、動くよ。気持ちよくさせてやるから、イキ狂えよ」
 自信満々に男は言うと、間髪を入れず腰を振り始めた。彼は最初からフルスロットルでピストン運動をした。
「ふんっ、うんっ、ふっ、ふっ、んっ……いい、あんたの中、すげえいいよ……」
 男は無我夢中でわたしの中を突く。目を瞑り、わたしの顔など一切見ていない。突いて、突いて、突きまくる。その安定した規則的な動きに男は酔っていた一方で、わたしの気分はとっくに冷めていた。
 だって、律じゃないんだもの。わたしは律とセックスがしたかったのに、どうしてこんなことになったんだろうと、男が喘ぐのを見ながらそればかり考えていた。
 
 男と会ったのは、とあるバーだった。お互い一人客同士、最初は互いに遠慮しながら呑んでいただけだったのに、それが、どうしてこうなる?
 昨夜の出来事を、ぼんやりと思い出す。
 ああ、そうだ。思い出した。
 わたしの恋バナに、この男が、
「分かる~。それってオレだけかと思ってたけど、あなたもそうなんだね~」
 なんて共感してくれて、意気投合したんだった。
「君の言うこと、凄く分るよ」
 こんなことを軽々しく言う奴に、ロクな奴はいない。これは偏見でも何でもなく事実だ。特に、男でこれを言う奴はクズだと思っていい。人の話なんかろくすっぽ聞いちゃいないのは、その相槌からでも分かる。そのくせ魂胆は、見え見えで薄ら寒い。つまりは「目の前にいる女とヤリたいなぁ」っていう下心が、鼻の下から垂れ下がっている。
 こういう奴はだいたい見れば分かる。なんだか一匹狼を気取って、謎の「オレはできる男だぜ」アピールをして、キザったらしく女に声をかける。で、女の身の上話なんぞを聞いてやって、
「分かるよ」
 を連発すれば獲物はオレのもの、って具合になると思っている。
 他にも、どこで覚えた技なのか、よくあるつまらない恋バナに、
「そんな話初めて聴いたよ」
 なんて台詞を言うバカもいた。
 でも、そんな男に簡単に引っかかる女もバカみたいなわけなのだけれど、まあそんな恋愛ごっこなんて所詮は他人事、バカ同士仲良くやってれば平和よね、などとわたしは気楽に遠巻きに眺めていたわけなのだけど……。 
 結局、今日のこのザマよ。わたしもそんなバカだってってことだ。
「じゃあオレの部屋で飲み直す?」
 とか何だって話になって、コイツの部屋に上がり込んだってわけ。
 そうか、そうか。
 って、納得するな、自分!
 男が、気持ちよさそうに腰を振っているさまを見上げながら、わたしは脳内で頭を抱えていた。
 また、やっちゃった。もう、これで何回目よ? 懲りないな、自分。もういい加減にこんなことやめたいのに、どうして同じこと繰り返しちゃうんだろう?
 ぐるぐると後悔と自責の念が駆け巡る。 
 目が覚めると見知らぬ男の部屋だったということが、わたしの場合、たまにある。
 ……いや、正直に言おう。
 かなりしょっちゅうある。
 今日みたいに土曜の夜、憂さ晴らしに飲みに行った先の店で素性の知れない男と意気投合、そのまま男の部屋に行って同衾、ということは両手でも収まらない程度にある。
 こういうことが起こるたびに、「しまった……」と頭を抱えてきたものだけれど、相手も同じような人種なのか、一夜を共にした程度でどうのこうのという話を持ち出すことはなかった。 
 ただ一言、
「いやあ、昨日の君はすごかったよ」
 と苦笑するくらいだった。
 どこがどうすごかったのよ、と問いただしたことは一度もない。自分の恥など知りたくもないし、男たちが一様に、こちらを珍妙な生き物でも見るような目をしていたのが面白くなかった。もちろん、男たちとはそれっきり二度と会うことはない。
 きっと、今日のこの男ともこれっきりだろう。
 そう思いながら、男の顔を見る。目を閉じ、「ふんっ、ふんっ……」と息を吐きながら、自分の世界に閉じ籠もって一心不乱に腰を振っている。もはやわたしを気遣う余裕すら見せていない。
 まあ、お互い後腐れのないセックスがしたかっただけなのだから、こうなるのも当然か。
 わたしは、男の息づかいに合わせるように喘ぐフリをしながら、早くこの時間が終わることを願っていた。
 
 そして、コトが終わると男はすべての神経の糸が切れたみたいにすぐ寝てしまった。用が済んでしまえば、わたしのことなど最早どうでもいいらしい。
 少しぐらいは気を遣えよと、その寝顔を張り倒してやりたくなるが、もう今日限り会うことはない相手に腹を立ててもしょうがない。こちらの気分だって同じように切れているのだ。
 そんなささくれた気持ちを鎮めようと、シャワーを浴びるためにベッドから立ち上がった時、バッグの中でスマホから通知音がした。壁にある時計を見ると、明け方の四時だった。
 こんな時間に連絡してくる人間と言えば、あいつしかいないと思ったが、とりあえず確認してみる。
 画面にはこうあった。
”万里さん、今世紀最大の問題作が出来上がりました! 至急来られたし。”
 文面から漂うどうでも良さが律らしいと呆れるが、苛立った気分が少し和らぐ。
 至急と言われたからにはすぐさま行きたいけれど、全身に染みついた精液臭は消し去りたい。急いでシャワーを浴びた。
 シャワーを浴びながら、あいつのことを考えていた。
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