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第4話

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 家を追放され、二週間が過ぎた。
 私は冒険者として活動しているけど、今のところは順調そのものだ。
 私は意外と戦闘の才能があったらしい。

 今日もギルドで依頼を受け、私は街の外を歩いていた。
 魔物を発見しては、魔法と刀によって仕留めていく。
 この戦っている時間がとても楽しい。
 
 強者との戦いとなればなおさらだ。
 今日の依頼は、近くに現れたゴブリンリーダーの討伐だ。
 この辺で見たって聞いていたんだけど……どこだろう?

 本来、冒険者というのはパーティーを組むみたいだけど、私は一人で行動している。
 その理由は、微精霊にお願いするからだ。

「微精霊たち、近くに魔物はいない?」
『うーん、ちょっと待ってねー』

 この辺りは木々が多く、魔物が隠れるには適している。
 奇襲を受けないよう、微精霊に協力してもらうのは当然だった。
 それにしても、驚いた。
 世界の人たちって微精霊が見えないみたい。

 今まで誰ともそんな話はしたことなかったので、凄い驚いていた。
 そんなことを考えていると、

「……が、あ……」

 うめき声のようなものが聞こえた。
 なんだろう? 昼間から幽霊とか?
 そういえば、ティーナ姉さんは幽霊とか苦手だった。

 そんなことを思いだしながら、私は声のした方へと近づいてみる。

『ルクス! ルクス! そっちに霊獣様が倒れているよ! 一緒に、ゴブリンみたいなのもいる!』
「……霊獣様?」

 聞いたことある。
 ただ、首をかしげたくなる発言でもあった。
 というのも、霊獣様というのは絵本で出てきた存在だ。

 その昔、世界には凄い精霊術師がいて、その人が四体の魔物を従えていたとか。
 ……おとぎ話のような存在が、近くにいる?
 微精霊たちが理解できない発言をしたことはあったけど、嘘を言ったことはない。

 まさか、本当に霊獣がいるのだろうか?

『とっても偉い霊獣様なの!』
『助けてあげて、ルクス!』

 ……とりあえず、微精霊たちに取って大事な存在が倒れているっていうのは確かみたい。
 それなら、助けてあげよう。
 私も微精霊にはたくさん助けてもらっている。そのお返しはしないと。
 私がそちらへすぐに近づくと、ちょっと大柄なゴブリンがいた。

 やった。ゴブリンリーダー発見。
 そのすぐ近くには……白い毛並みのウルフのような魔物が倒れていた。
 こちらをすがるような目で見てくる。

「たす……け、て」

 驚いた。
 人の言葉で話してくるウルフに、体が硬直する。
 それから、近くにいた微精霊へと顔を向ける。

「この子が、霊獣?」
『そうだよ! 霊獣様だよ!』
『僕たちに優しくしてくれる魔物様だよ!』

 霊獣っていうのは魔物の括りになるんだ。
 そんなことをぼんやりと考えていると、

「がああ!」

 苛立った様子でゴブリンリーダーが吠える。同時に、手に持っていた棍棒を地面へとたたきつけた。
 大地がめくりあがるほどの一撃。
 威嚇を目的とした攻撃に、私は微精霊たちへ指示を飛ばす。

「微精霊、魔法の準備お願い」
『あいー! 任せて!』

 ゴブリンリーダーが声を荒らげる。
 すると、すぐ近くの木々からゴブリンが飛び掛かってきた。
 奇襲を仕掛けるために隠れていたんだろう。

 でも、大丈夫。
 私は微精霊に身体強化の魔法をかけてもらい、横に跳んでかわす。
 そして、準備ができた微精霊に、魔法を放ってもらう。

『いっけー!』

 私の魔力を使って精霊魔法を練り上げた火の微精霊から、魔法が放たれた。
 火の弾丸だ。
 それはまっすぐにゴブリンの体を貫いていく。
 攻撃は終わらない。

『次は僕の番だよー!』
『私もやっちゃうよー!』

 水、風、土。基本四属性の魔法が飛んでいき、ゴブリンたちを的確に貫いていく。

「があああ!!」

 ゴブリンを一掃した私へ、怒りをあらわに飛び掛かってくるゴブリンリーダー。

『ルクス! 身体強化、もう一回行くよ!』
「うん、ありがと」

 微精霊が私に身体強化の魔法をかけてくれ、私の体はさらに軽くなる。
 ひょいとゴブリンリーダーの攻撃をかわすように跳躍。
 その勢いのまま前回りのように回転し、ゴブリンリーダーの肩を切り裂く。

 よろめいたゴブリンリーダーの首へ、着地と同時に刀を振りぬいた。
 私は着地し、拳を固める。うん、今の滅茶苦茶良い感触だ。
 ゴブリンたちが動かなくなったのを確認してから、私は刀を鞘にしまった。

「うん、ありがと、みんな」
『ううん! ルクスの魔力美味しかったよ!』
『うんうん! またいつでも言ってね! 助けるから!』

 みんなが優しい言葉をかけてくれる。
 私はふっと柔らかく微笑み、それから倒れている霊獣を見た。

「みんな、回復魔法も使えるよね?」
『うん、任せてー!』

 私の魔力を渡し、微精霊たちに魔法を使用してもらう。
 霊獣の傷は癒えていき、完全に傷がふさがったところで霊獣はよろりと体を起こした。

「大丈夫……?」
「ああ、大丈夫だ」

 声をかけてみると、やはり同じ言語が返ってきた。

「……やっぱり当たり前のようにしゃべるんだ」

 私がそのように答えると、ワンちゃんは驚いたようにこちらを見てきた。
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