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 イソルベが怒鳴りつけ、前方にて交戦を続ける。
 前のほうにも四体のゴブリンが出たので、そちらの相手に忙しいようだ。
 後ろに現れた二体のゴブリンはじりじりとこちらによってきて、ルファンとミーナが逃げるように後退する。

「あぐ!?」

 その時、ルファンは何かに躓いたようで転んでしまう。
 ゴブリンたちは馬鹿にするようにケラケラと笑って、さらに近づいてくる。
 隙だらけだ。

 やはりGランク迷宮なだけはある。魔物は目の前しか見えていないようだ。
 荷物をその場に置いた俺は、すぐに左腰に差していた剣の柄を握り、走り出す。

 そして、【ブラッドレンジ】を発動する。
 振りぬいた剣から黒色の衝撃波が放たれる。

 一撃で二体のゴブリンを仕留めた俺は、鞘へと剣を戻した。

「す、凄い……」

 驚いたような声はルファンから漏れたものだ。
 転んでいた彼に手を差し出す。

「怪我はしてないか?」
「う、うん……助かったよ」
「悪いな。確実に倒すために囮みたいに使ってしまって」
「そ、それはいいんだけど……凄いね。君も戦えるんだ」
「まあ、そこそこは」

 俺は確かに再効率でステータスを強化してこそいるが、だからといって上を見ればキリがないほどに下位の存在だ。
 こんな魔物を倒せたぐらいで調子に乗っている暇はない。
 荷物を置いた場所へと戻ると、攻略班の戦闘も終わっていた。……まったく。もっと早く倒してこちらへ助けに来てくれればいいのに。
 イソルベたちも後ろのゴブリンが倒されていることに気づき、訝しげな視線を向けてきた。

「なんだよ。後ろに出たゴブリンは弱かったのか?」
「まあ、そうみたいですね」
「てか、誰が倒したんだ?」

 イソルベは俺が戦っていたのを見てはいなかったようだ。彼の視線を受け、ルファンとミーナが俺を見てきた。

「俺です」

 答えると、イソルベを含め全員が笑った。
 
「暗黒騎士でも魔物って倒せるんだな」
「暗黒騎士ってクソ雑魚なんだろ? それで倒せるってどんなゴブリンだよ」
「やっぱ、この迷宮は楽勝だな」

 ケラケラと笑いの声が聞こえてくる。ミーナの表情がわずかに険しいものとなっていた。
 ミーナもこの前成人の儀を受けたばかりであり、ここまで扱われることに思うところがあるようだ。
 すでに俺は一度通った身。
 こんなことで下手にイソルベたちに目をつけられても面倒だ。どうせ、この依頼の後に続くような関係ではないしな。

「そろそろ行きますか?」
「ああ、そうだな」

 俺の提案にイソルベたちもすぐに歩き出した。

「……あの、レウニスさん。あそこまで言われて嫌じゃないの?」
「まあ、あんまりいい気分はしてないけど」
「でも、じゃあどうしてあそこまで好き放題言われたままなの?」

 ミーナの純粋な質問に俺は苦笑する。

「別に、ここで喧嘩して何か利点があるわけじゃないだろ。例えば、言い負かしたとして何かあるか? ちょっとした満足感だけだろ?」
「それは……そうだけど」
「下手したらパーティーの空気も悪くなって、迷宮攻略にも支障が出るかもしれない。迷宮攻略ができなかったら俺たちだけの責任でもないわけだしな。別に俺はなんと思われても、自分の目標に突き進むだけだ」
「……」

 俺はとにかく強くなるために、面倒事に首を突っ込みたくはなかった。
 そんな気持ちとともに歩いていくと、隣にルファンが並んだ。

「……ねえ、レウニスくん。イソルベさんたちは、ちょっとその……リーダーにあまり向いていない気がするんだけど、大丈夫かな?」
「まあ、でもまだ迷宮攻略自体初めてだろうし、仕方ないんじゃないか?」
「でも、それでも事前に職員から指導も受けているはずだろう? 休憩はまったくとらないし、荷物持ち班のことなんてお構いなしに進んでしまうし……第二層でこれだけど、第三層は大丈夫かな?」

 確かに、心配な部分ではある。
 俺も、一人で第三層に挑戦したことはなかったので、ここから先どの程度通用するか分からない。

「一度挑戦して難しそうなら引き返せばいいんじゃないか? さすがに敵との力の差くらいはできるだろうし」
「……確かに、ね」

 今回の依頼は迷宮の寿命が尽きるよりも早い。
 仮に失敗して引き返したとしても、なんとかなるという見込みがギルドにはあるはずだし。
 俺が知っているところでいうと、ランクの高い冒険者が待機しているとかだ。
 そこまでしてでも、俺たちだけ行かせるのはギルド側にも冒険者の教育が業務としてあるからだ。

 新人冒険者をきちんと指導するように、と国からの無理難題を押し付けられるため、ギルドというのも大変だ。

 ただ、今はクランというシステムも生まれている。
 クランとは、冒険者の集まりのようなものだ。パーティーよりも集団としては大きく、所属すれば様々なメリットが受けられる。

 先輩冒険者から丁寧に指導を受けられるとか。戦力バランスを考えたパーティー編成をしてもらえるとかだ。

 クランと聞けばめちゃくちゃ恩恵がありそうだが、所属している人たちが達成した依頼はクランに収められることになる。クランハウスや、その他もろもろの経費に使われるのだとか。
 それに、どれほどのクランといっても、やはり人間関係に難ありの場所もある。

 だから、俺はクランに所属するつもりはなかった。
 ……まあ、そもそも暗黒騎士とステータスで足きりされてしまうだろうけどな。
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