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食べるってもしかして意味が違う?

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 痛いのは嫌だと顔を引きつらせていると、傷ついたような声が頭上から振ってきた。

「嫌なの? 俺はシズキを番にしたい」
「……つが、い?」

 なんの話だろう、食べるんじゃなかったのだろうか。ちゃんと考えたいのに痛いくらいに抱きしめられているせいで、息が苦しくなってきた。

「お、お願い……いったん離して……くださ……」
「あっ、ごめんね! 痛かった?」

 やっと解放されて肩で息をつく。タオは狼狽しながら手をわたわたさせた。

「痛いというか、息ができないです」
「うわあ、大変! そうか、人間さんって見た目通り弱いんだね。気をつけるよ」

 タオにとっては普通の力加減で抱きしめていたつもりらしい。うっかりで死にかけてはたまらないと彼から離れた。

 虎獣人はそんなシズキの態度を気にすることなく距離を詰めてくる。

「ねえ、シズキには恋人がいないんだよね? だったら俺と番になることを考えてみてくれない?」
「番って……なんですか、それ」
「えっ、知らないの? ずっと一緒に暮らす、恋人同士より仲良しな間柄のことだよ! 伴侶とも言うね」
「伴侶……⁉︎」

 男同士で、そもそも種族も違うのに伴侶になるだなんて、静樹の常識ではあり得ないことだった。勢いよく首を横に振って拒否を示す。

「えー、どうしても駄目?」
「駄目です、無理です……っ」
「そっかー……まあ、知り合ってすぐだもんね。そんなにすぐには決められないか」

 すぐだろうが後だろうが無理なものは無理だと青くなる静樹の前で、彼はやる気をアピールするように拳を握りしめた。

「シズキに伴侶になってもいいって思ってもらえるように、頑張るね!」
「えっと、その……はい」

 そんな日は永遠に来ないと思ったけれど、あまり拒否しすぎて暴走されても嫌なので、一応返事をしておいた。

「後は俺が服を縫っておくから、シズキは休んでていいよ」
「……はい」

 やっとタオから解放されて、静樹は部屋へと逃げ込んだ。身体を投げ出すようにして寝台にダイブする。

(伴侶だなんて……本気なんだろうか)

 いったい静樹のどこをそんなにも気に入ったのだろう。それとも、誰にでも告白してまわる軽いタイプの人なのか。

(この世界の常識もタオのことも、全然わからない)

 はあと大きなため息をついて、すっぽりとシーツを被った。初めてのことばかりで緊張しすぎて、頭が痛い。

 もう何も考えたくなくて、ギュッと目を瞑った。
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