29 / 43
今取り込み中
この気持ちは一体なんだろうと胸の奥を探ろうとした時、ドンドンと表戸を叩く音が耳に飛び込んできた。
「おーいタオ、いるか?」
「ユウロン! ちょっと待って、いやだいぶ待って」
「なんだ、いるなら中に入れろよ」
「取り込み中! 厠に行ってくるから。先入っててもいいけど、とにかく待ってて」
タオが足音を荒くして、居間から出ていく気配がする。
「んだよ、鍵くらい開けてけっての。気が効かねえな……腹でも壊してんのか?」
悪態をつく声が扉越しに聞こえる。静樹は寝台から降りて表扉の鍵を開けた。
「あの、こんにちは」
「おお、あの時の坊主。誰だっけ、シズキだったか? ありがとうよ開けてくれて」
黒狼の獣人ユウロンは、ズカズカと家に上がり込んで勝手にお茶を沸かしはじめた。
「あ、僕が淹れましょうか」
「いいのか? じゃあ任せるぜ。ったくあの野郎、居候に任せてないで自分でもてなせよな」
ユウロンはタオに文句を言いながら椅子に腰掛けた。
なんとなく申し訳ない気持ちで、なるべく気配を小さくしながらお湯が沸くのを待つ。狼獣人は腕組みをして、金色の瞳を光らせながら静樹を見上げた。
「で、アイツとは上手くやってんのか?」
「えっと……はい。まあ、それなりに」
「ふうん」
駆け足の音が近づいてきて、厠側の裏扉が勢いよく開かれた。
「シズキを虐めないでよね⁉︎」
「虐めてねえよ、話してただけだ」
「本当に? シズキ、何か酷いこと言われてない?」
「大丈夫だよ」
「信用ねえな、何もしねえっての」
お茶を淹れて改めて席につくと、ユウロンは静樹とタオの顔を見回して唇の端を釣り上げる。
「仲良くやってるようだな、安心したぜ」
「当たり前でしょ。俺とシズキは友達、いやもう大親友並みに仲がいいんだから」
「へえ? てっきりお前のことだから、とっくに番になりたいとでも言い寄ったんじゃないかと思っていたが」
「ちょ、ちょっとやめてよ」
図星を突かれたタオが狼狽えている。静樹もつられて赤くなっていると、ユウロンは意地悪く笑った。
「はは、やっぱりな。で、フラれたのか」
「フラれてない!」
「でも友達なんだろ? 前の彼女にも速攻でフラれて友達だって言い張ってたよな」
タオに彼女がいたのかと、驚きに目を見張る。
(彼女、いたんだ。そうだよね、タオは気さくで性格もいいし、情熱的だし……好きだって迫られたら、つきあう人だっているよね)
別に友達に彼女がいたっていいはずだ。いいはずなのに、なんとなく面白くない気分になり、腕を摩って自身の気持ちを宥めた。
ユウロンは静樹にも語りかけてくる。
「こいつ人間への憧れが強すぎて、彼女の前でもそればっかり話題にしてたんだよ。じいちゃんに聞いた昔話を頭から信じこんで、人間さんってか弱くて綺麗で助けてあげたくなる感じなんだってって、目をキラキラさせてさ」
「しょうがないじゃない、守ってあげたくなるような子が好きなんだ。俺は他の虎獣人と違って多情じゃないしさ、一途な人間さんに特別に想われたいんだよ。そういう子に頼ってもらえるのが理想の恋愛なの、悪い?」
「別に悪くねえと思うぜ? 上手くいくといいな。なあシズキ、夢見がちなタオに理想を押しつけられたら、バシッと言ってやっていいからな」
「ええっと……」
自分はタオが思い描いていた理想の人間像そのものなのだろうかと、気になってしまう。同時に頼りにすることは彼にとって負担ではなく、むしろ喜んでくれているようだと安堵した。
(別にタオの好みに当てはまってなくたって、いいんだけれど……なんでこんなに心がそわそわするんだろう)
「おーいタオ、いるか?」
「ユウロン! ちょっと待って、いやだいぶ待って」
「なんだ、いるなら中に入れろよ」
「取り込み中! 厠に行ってくるから。先入っててもいいけど、とにかく待ってて」
タオが足音を荒くして、居間から出ていく気配がする。
「んだよ、鍵くらい開けてけっての。気が効かねえな……腹でも壊してんのか?」
悪態をつく声が扉越しに聞こえる。静樹は寝台から降りて表扉の鍵を開けた。
「あの、こんにちは」
「おお、あの時の坊主。誰だっけ、シズキだったか? ありがとうよ開けてくれて」
黒狼の獣人ユウロンは、ズカズカと家に上がり込んで勝手にお茶を沸かしはじめた。
「あ、僕が淹れましょうか」
「いいのか? じゃあ任せるぜ。ったくあの野郎、居候に任せてないで自分でもてなせよな」
ユウロンはタオに文句を言いながら椅子に腰掛けた。
なんとなく申し訳ない気持ちで、なるべく気配を小さくしながらお湯が沸くのを待つ。狼獣人は腕組みをして、金色の瞳を光らせながら静樹を見上げた。
「で、アイツとは上手くやってんのか?」
「えっと……はい。まあ、それなりに」
「ふうん」
駆け足の音が近づいてきて、厠側の裏扉が勢いよく開かれた。
「シズキを虐めないでよね⁉︎」
「虐めてねえよ、話してただけだ」
「本当に? シズキ、何か酷いこと言われてない?」
「大丈夫だよ」
「信用ねえな、何もしねえっての」
お茶を淹れて改めて席につくと、ユウロンは静樹とタオの顔を見回して唇の端を釣り上げる。
「仲良くやってるようだな、安心したぜ」
「当たり前でしょ。俺とシズキは友達、いやもう大親友並みに仲がいいんだから」
「へえ? てっきりお前のことだから、とっくに番になりたいとでも言い寄ったんじゃないかと思っていたが」
「ちょ、ちょっとやめてよ」
図星を突かれたタオが狼狽えている。静樹もつられて赤くなっていると、ユウロンは意地悪く笑った。
「はは、やっぱりな。で、フラれたのか」
「フラれてない!」
「でも友達なんだろ? 前の彼女にも速攻でフラれて友達だって言い張ってたよな」
タオに彼女がいたのかと、驚きに目を見張る。
(彼女、いたんだ。そうだよね、タオは気さくで性格もいいし、情熱的だし……好きだって迫られたら、つきあう人だっているよね)
別に友達に彼女がいたっていいはずだ。いいはずなのに、なんとなく面白くない気分になり、腕を摩って自身の気持ちを宥めた。
ユウロンは静樹にも語りかけてくる。
「こいつ人間への憧れが強すぎて、彼女の前でもそればっかり話題にしてたんだよ。じいちゃんに聞いた昔話を頭から信じこんで、人間さんってか弱くて綺麗で助けてあげたくなる感じなんだってって、目をキラキラさせてさ」
「しょうがないじゃない、守ってあげたくなるような子が好きなんだ。俺は他の虎獣人と違って多情じゃないしさ、一途な人間さんに特別に想われたいんだよ。そういう子に頼ってもらえるのが理想の恋愛なの、悪い?」
「別に悪くねえと思うぜ? 上手くいくといいな。なあシズキ、夢見がちなタオに理想を押しつけられたら、バシッと言ってやっていいからな」
「ええっと……」
自分はタオが思い描いていた理想の人間像そのものなのだろうかと、気になってしまう。同時に頼りにすることは彼にとって負担ではなく、むしろ喜んでくれているようだと安堵した。
(別にタオの好みに当てはまってなくたって、いいんだけれど……なんでこんなに心がそわそわするんだろう)
あなたにおすすめの小説
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜
鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。
そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。
あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。
そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。
「お前がずっと、好きだ」
甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。
※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。