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帰宅

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「疲れちゃったね。今日はチキンでも買って帰ろうか。ジャンクかな?」
「いいと思います。疲れた日はたんぱく質が大事だって言いますし」

 何を話しても、どこか気持ちが落ち着かなくて、帰り道はほとんど無言だった。早く家に帰って抱きしめ合いたかった。当たり障りのない話だけをして、紘人さんの部屋へ戻る。

「あー……疲れた……」
「紘人さん、終電まで残業したときよりしんどそうな顔してます」
「そりゃ、そうだよ。もう5年分のもやもやというか、しこりが取れたんだよ……取れ方が、ちょっと刺激的で、本当に疲れた……」

 ぐったりとした紘人さんが、ラグにごろんと寝転んで、私を手招きした。二人分のアウターをハンガーにかけ、紘人さんの腕の中に飛び込む。彼は私を強く抱きしめて、大きなため息を吐いた。

「由奈、愛してる。ありがとう。ずっと、嫌な思いをしたことは抱えて生きていくんだと覚悟していたから、こうやって断ち切ってくれる人に出会えて、幸せ者だね」
「断ち切れたんでしょうか……?」
「断ち切れたよ。あの時一番辛かったのは、一番大事にしていた人が実は俺のことを全然大事に思っていなかったんだっていう事実で……俺が今一番大事に想っている由奈が、俺のことを大事に想ってるって、あの人に向かって言ってくれて、全部報われた気持ち。ありがとう」

 私のあちこちに頬ずりしながら、ありがとうを繰り返す。紘人さんの頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目元を緩ませた。

「あのさ、本当は、こんなところで言うつもりなかったんだけど……由奈、俺、由奈と結婚したい」

 突然のプロポーズに動きが止まる。驚いて、言葉が出てこない。
 目を丸くして硬直する私に、紘人さんが微笑んだ。

「ごめんね、驚かせて。本当は、もう少し後で……同棲して、毎日一緒に暮らすイメージを付けてから言おうかなって思ってたんだけど、どうしても今日言いたくなった。俺、愛されてるなぁって思って、このまま、俺のこと大事にしてくれる由奈のこと、大事にしながら一生過ごしていたいなって、思ったんだ」

 紘人さんの目に涙が浮かぶ。それにつられて、私も目の奥がつんとして、はらりと涙が零れた。

「泣かないで、由奈。大好きだよ。ずっと一緒にいたい。ずっと、大切にする。由奈が幸せだと俺も幸せで、こんな風に想い合える人、由奈しかいないって、思ってる」
「私も、紘人さんと、ずっと一緒がいいです……! 紘人さんのこと、ずっとずっと大事にします。私、紘人さんと一緒に幸せになりたい」

 はらはらと涙を流す私を、紘人さんが思い切り抱きしめてくれる。

「よかった。ありがとう。嬉しい……ダメだな、語彙が、死んでる……由奈、愛してるよ」
「わ、わたしも、愛してます……!」

 二人とも涙で顔がぐしゃぐしゃのまま、何度もキスを繰り返す。紘人さんが背中を撫でてくれるのが心地よくて、ラグの上で服が乱れるのも気にせずに身体を寄せ合う。気持ちが落ち着くまで、ずっとずっと抱きしめ合っていた。
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