咲かない桜

御伽 白

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3章

Part 176『誤算と才能』

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 「ふう、勝算があったとは言え、こんな危ない橋を渡るなら、契約金をもう少し貰っておくべきだったかもしれないね。」

 「同感 作戦 失敗 想像 恐怖」

 ネネは、この作戦がうまくいかなかった場合を想像して、背筋に寒いものが走る。

 実力差は、確実であった。攻撃をしても肉体に傷つけることすら出来ない相手であったため、防御にも意識を回していた最初の段階では、体力的な問題でネネ達の方が地面に倒れていただろう。

 だからこそ、防御を重視して体力を温存する事にした。そして、相手が捨て身で特攻してくるのを待っていた。

 相手が高確率でそうしている事は、分かっていた。相手は、言動から明らかに鬼という種族を強く意識していた。

 実際、普通に戦えば、勝負にならなかった。そして、それを理解させるように動くのは彼女の態度から見て明らかだった。

 だからこそ、兄である自分が囮になりその間に妖刀で動きを封じる。

 問題点として攻撃に専念した鬼を相手にどこまで生き残れるかという点だったのだが、間一髪といったところであった。

 「ネネ、二人で話しているんだ。普通に話してくれれば良いのに・・・・・・」

 「仕事 途中 雑談 禁物」

 「真面目だなぁ。そこも愛しているけれどね。とはいえ、他の人達も早々に決着がつきそうな雰囲気だし僕達も撤退準備かな。」

 二人は、粉雪にとどめは刺さない。殺してしまえば完全に鬼島を敵に回してしまう。

 今回の戦いは、粉雪が自分達に対して油断していたからこそ出来た作戦であり、次はない。と確信していた。

 周囲の戦いを見てどの鬼とも戦いたくないという意見だった。

 「まあ、ちょっと、様子見をしてーーーー」

 そう言いかけて、男の視界でネネの背後でふらりと何かが動いた事に気付いた。

 まるで気配もなく音すらないその動きは、背筋が凍るほどの恐怖を男に与えた。

 「ネネ!」

 男は、咄嗟にネネの腕を引いてその反動を使って自分の体を前に差し出した。

 その瞬間、腹部に鋭い痛みが走る。ただの手のはずのそれは、まるでナイフのように鋭く男の体を抉った。

 「ぐっ・・・・・・」

 (しくじった。もう数回は切りつけておくべきだった。)

 男は、そう思いながら、自分を攻撃してきた相手を見る。粉雪は躊躇なく男の腹をえぐる。しかし、その動きはどこかぎこちなく明らかに人形遊びの攻撃が効いているのは間違いなかった。

 「おにぃ!?」

 先ほどの淡々とした口調でなく感情のこもった声で男に声をかける。

 「はは、大丈夫だよ。ネネ、お仕事中だろう。冷静にだ。」

 男は、腹を抉られた状態であるというのに冷静であった。笑顔を作りネネに優しげに諭すようにそう言った。

 そう。万全を期すのならば、二人は、人形遊びを使い、更に数度切りつけておくべきだった。

 そして、更に誤算であったのは、粉雪の才能を見誤っていた事である。

 技術が上達するその才能は、言ってみればイメージ通りに体を動かせる能力である。イメージ通りに動かせるからこそ、悪い部分はすぐに修正されより最適化される。

 例え、どのように戦えば良いのかをイメージする発想力があったとしても体を自由に動かせなければ、そのイメージに近づけるために反復練習する必要がある。

 その能力がどちらも群を抜いていたからこそ、粉雪は天才であったのだ。

 粉雪の体は、ほとんどが満足にいう事をきかない状況であった。けれど、動かせない訳ではなかった。

 粉雪は、最適化した。現在の自分の体の動かし方を。そして、本来ならありえないレベルの肉体の操作を完璧に実現していた。

 「・・・・・・ま・・・・・・け・・・・・・な・・・・・・い・・・・・・」

 まともに動かない口を使って粉雪は、男に向かってそう言った。

 「・・・・・・はは・・・・・・これだから・・・・・・天才は・・・・・・」

 男は、粉雪を蹴り飛ばし、距離を取る。その瞬間に腹部に強烈な痛みが走るのを感じる。

 すぐに、男はネネに抱きとめられる。心配そうな表情を浮かべる妹に男は、相変わらず飄々とした笑顔を浮かべる。

 「死 承諾 不可 無事?」

 「ああ・・・・・・こりゃあ、家に帰って・・・・・・養生しないとね。」

 「始末 実行 帰還」

 怒りのこもった声でネネは、蹴られバランスを失っていた粉雪に視線を送る。

 今なら殺せる。罪は償わせる。そう言った意思を感じさせる言動であった。

 「いや・・・・・・どうやら、時間切れらしい。ネネ、逃げよう。」

 男はそう言って粉雪の更に後ろを指差した。その背後にいるのは、真冬であった。その表情は、怒りが見えた。

 「逃すと思いますか?」

 凍った冷たい声で真冬はネネ達にそう問いかける。

 「ああ・・・・・・逃げるさ。どうやら、撤収の時間だ。」

 男がそう言った。その瞬間、少し離れた場所で爆発するような音が聞こえる。

 真冬がそちらに目をやると、そこにいた存在に目を奪われた。巨大な体躯を持った狼の様な生き物が立っていた。

 そして、そのすぐそばには、ボロボロになった甲冑を身に纏い地面に倒れているキズキとそれをかばう様に狼と睨み合っているマコトの姿であった。

 その光景に動揺している隙をついてネネはビー玉の様な赤く透明な球を地面に落とした。

 「目的 達成 撤退」

 その瞬間、二人の体を赤い光が覆う。

 「妖刀の効果は、・・・・・・数時間で消える。・・・・・・この傷で・・・・・・チャラってことにしておいてくれ・・・・・・」

 「闘争 推奨 敵 強大」

 二人は真冬に向かってそう告げるとすぐに姿を消してしまった。

 「・・・・・・転移の魔法ですか・・・・・・用意周到な・・・・・・」 

 真冬は、気配がない事を確認し、追跡は諦め、粉雪を安全な場所へと移動させる。

 「お疲れ様です。粉雪。少し休んでいてください。」

 真冬は、そういうと加勢するべく、マコト達の元へ向かった。
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