咲かない桜

御伽 白

文字の大きさ
294 / 352
4章

Part 293『再会』

しおりを挟む
 眠りにつくと自分の意識がどこかに連れて行かれるような感覚に襲われる。

 意識ははっきりとしているのに、視界に靄がかかっているような感覚。

 この感覚には覚えがある。3度目にもなれば、なんとなく、どういう状況かわかる。

 これは、夢だろう。それも記憶を見るあの夢だ。何故、俺にそんな能力が備わっているのか分からない。

 体質といってしまえばそれまでだが、

 靄の奥に行けば、辿り着けるはずだ。

 進んでいくと靄がゆっくりと風景を作っていく。そして、ぼやけていた世界がしっかりとしていく。

 そこは、鍛冶場だった。刀鍛冶が刀を作る場所だ。俺は、そこまで刀鍛冶の工房に足を運んだことがない。だが、そこが、鍛冶場であることはすぐに分かった。何故なら俺も知っている場所だったからだ。

 ウチガネさんの工房だ。なら、これは誰の記憶なのだろうか。

 辺りを見渡していると何度も聞いたことのある鉄の高い音が響いている。

 その音に意識を向けるとそこには、鉄を打ち続ける男の姿があった。

 「ウチガネさん・・・・・・?」

 もはや芸術的とも思える所作で、鉄を鍛えるその後ろ姿を見間違うことはない。

 その背中をもう見ることはないと思っていた。目頭が熱くなっていく。どうやら、夢の中でも涙は出るらしい。

 何をするでもなくその作業風景を見ていた。真摯に作品に向き合い、自分の出せる最高を求め続けるその姿勢に、俺は憧れたのだ。

 自分の人生の大半を刀に注いだその生き様が、何かに全力を注げるその姿に近づきたくて、俺は呪術を身につけようと思ったのだ。

 眺めているとウチガネさんは、作業を終えてこちらを向いた。

 「久しぶりだな。峰」

 そして、懐かしむような声音で俺にそう言った。

 「・・・・・・え?」

 思わずそんな声が漏れてしまったのは無理からぬことだった。記憶を辿る俺の体質はあくまで、記憶だ。ただ、映画を見ている様なそんなもので、会話など出来るはずもない。

 「そりゃあ、勘違いだ。お前の体質は、想いを視るってもんだ。魔力の原点を見るなら俺とは会えないはずだからな。」

 「想いを視る。じゃあ、これは、ウチガネさんの想いを見てるって事ですか?」

 「想いというよりは、有り様だ。俺という存在を夢の中で復元しているだけだ。生き返った訳でも、死後の世界からお前に会いに来たわけでもない。」

 「復元・・・・・・?」

 流暢に説明されるが全く分からないままだった。つまりは、目の前にいるのはウチガネさんではないという事だろうか? まるで、心を読む様に俺の思考に対して答えを返してくれる姿を見てそれも有り得るのかと思案する。

 「いや、お前が持っている妖刀『花咲はなさか』に篭った俺の魂が影響している以上、俺は、お前の知っているウチガネとほとんど同質の存在だ。」

 言い換えりゃあ、残留思念ってやつか。とウチガネさんは、そう言った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...