咲かない桜

御伽 白

文字の大きさ
297 / 352
4章

Part 296『ドーピング』

しおりを挟む
 突き刺した足には痛みはない。切れ味の鈍いこの刀を突き刺したりしたら普通なら、血が出てきそうなものだが、全く出ていない。

 足に突き刺さったというのに、一切の手応えはなかった。

 ウチガネさんのいう使い方が本当ならこれが正解のはずだ。

 刀でありながら斬れない刀、しかも、斬る対象が自分であるという、刀としては、おおよそ、邪道としか言いようがない。

 刀の設計コンセプトからそもそも離れてしまっているこの刀は、ウチガネさんとしても隠しておきたい代物だったのかもしれない。

 一体どんな変化が起こるのか。俺は、内心で期待しながら自分の体を見直した。

 しかし、肉体に何か変化が起こった様な感覚が一切ない。劇的に何かが変わるのかと期待していたのだが、どうやら目に見えて凄まじい効力が出る訳ではないらしい。

 「少しがっかりではあるけど・・・・・・ていうか、この刺した妖刀抜いても大丈夫だよな? 勢いで刺したけど、抜いた瞬間血が出るなんて事は・・・・・・」

 ゆっくりと刀に力を込めて引き抜く。やはり、痛みはなく刀傷も存在しない。

 しかし、刀を抜き切った瞬間、まるで頭をアイスピックで突き刺されているかの様な異様な頭痛が走った。

 思わず頭を抑えるが、すぐに痛みは引いていく。

 「な、なんで、足に突き刺したのに頭が痛くなるんだよ・・・・・・」

 恨み言を呟きながら、刀を置いて暇つぶしに別の作品でも作ろうかと思った。

 手遊び程度で何か出来ないか。そう思いながら簡単な作品を作り始める。

 そして、気が付いた。自分の思い通りに体が動くことに。

 普段なら集中してもやはり体の動かし方には僅かにズレがある。作品も自分のイメージと現実の差がはっきりと現れる。

 修練の意義とは、そのイメージと現実の差をどれだけ埋めることができるかという部分が大きい。

 今は、そのズレがほとんどない。極限まで集中出来たとしてもこうはならない。自分の手の動きをミリ単位で調節できるような気すらする。

 もしかして、これが妖刀の効果なのか? 肉体の感覚を鋭敏にするという。

 圧倒いう間にそれこそ、10分ほどで完成した小さなサクヤの人形を見て俺は、自分でも驚いていた。

 明らかに俺が今まで作った作品の中で一番に完成度が高い。

 少しデフォルメされたデザインではあるそれは、売り物になりそうなほどに精巧に作られていて、プロが作ったような代物だ。

 それこそ、もっと集中すれば、篝さんの作品に迫るものが作れるような気すらしてくる。

 「いや、流石にそれは言い過ぎか? しかし、この刀を使えば、作品がすぐに量産ーーー」

 そう呟いた矢先だった。急激な眠気に瞼が重くなる。抗いようのない本能の欲望に支配され、倒れこむように意識を手放してしまった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...