咲かない桜

御伽 白

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4章

Part 326『時間』

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 文字を刻むタイプの呪術の戦闘方法として日常的な道具を強化し使うというのは定石である。

 自身の身体能力を高めたところで相性の悪さは必ず出てくるため道具に頼るというのが現実的な方法だった。

 俺は近くに落ちている木の枝を拾い上げると呪字を刻む。

 妖怪に対して切れ味が上昇する/妖怪以外には一切傷が入らない。

 拾い上げた木の棒は、妖怪に対してのみ名刀と変わらない切れ味を有することになった。

 醜穢から伸びる影の糸を切り裂きながら醜穢に迫っていく。

 それは確かに醜穢に対して有効打になっていた。先ほどまで皆無だった勝機が確かに出来たのだ。

 状況的には俺が有利に思える。しかし、瞬間移動を使う醜穢に俺は一撃を当てることすら出来ずにいた。

 そして、それは俺の時間を確実に奪っていた。

 十分は経っただろうか。現状では、残り五分で決着をつけられる気がしない。

 自分を守るために枝を振るうことは難しくない。しかし、それは素人に毛が生えたレベルであり戦うための技術がない。

 将来の自分は呪術の道に邁進したのだろう。そして、自衛のためにある程度戦闘技術を獲得した。

 それが今の自分の到達可能な状態。

 これが終われば戦闘面で誰かに師事することも考えなければいけない。

 もっとも、この状況を乗り切ることが出来ればの話だが・・・・・・

 執拗に自分のことを狙っている醜穢から逃げられる気もしない。

 奥の手はあるが、どうなるか分からない以上は使いたくない。

 サクヤは無事に助けを呼びにいけたのだろうか。

 俺はそう考えながら枝を振るって戦いを続けた。

 ***

 助けを呼ぶそれは確実な戦闘能力を有さない二人が取る選択肢として一番高いものだった。

 そして、不幸を望むハチがその辺りの手を回さない訳がなかった。

 電話という一番楽な連絡手段を妨害し、更には魔道具を惜しみなく使い森からの通行を一時的に遮断している。

 森全体を濃霧が覆っていた。サクヤは何度もその霧に入り外に出ようと試みるが、気が付けば戻ってきてしまうのだ。

 いくら霧が濃いとはいえ、慣れ親しんだこの山で霧が濃くなった程度で、そこまで方向感覚を失う訳はない。

 醜穢がそういう能力を持っているのではとサクヤは考える。しかし、すぐにこれだけ大規模な隔離を行えるほどの能力があの未知の存在にあるようには思えなかった。

 そこまで考えたところで何者かが自分達を狙っていることをサクヤは確信した。

 これが悪意によって仕組まれたことならば、ここに来てしまった時点で詰んでいる。

 サクヤは、日向の元に戻ることにした。自分ではどうすることも出来ない。あれから15分以上経っている。

 囮役でも何でも手伝えるはずだ。

 サクヤが日向のいた場所に着くとその光景に驚愕の表情を浮かべていた。

 そこいたのは、醜穢を圧倒している日向の姿だった。
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