咲かない桜

御伽 白

文字の大きさ
46 / 352
2章

Part 46『醜穢と呼ばれるもの』

しおりを挟む
 路地裏でクロがちょこんと座ってこちらを見ていた。その姿は何かから姿を隠しているようにも感じた。

 「久しぶりだな。クロ」

 「お久しぶりやなぁ。最近は、ちょっと、うちらもごたついてたから、挨拶に行けんかったんや。すまんね。」

 「いや、それ自体は、全然良いんだけど、なんかあったのか?」

 俺がそう尋ねるとクロは、「今この街は、うちら妖怪には住みにくい街になってますわ。」と憎々しい声音でそう言った。

 「この街の状況は、街を歩きまっとったようやから知っとるやろ?」

 「そうですね。誰もいないですよね。」

 この駅一帯をある程度歩き回ったのだが、実際、妖怪の姿を一匹すら見えなかった。いつもなら、人間を観察しているような妖怪が姿を見せてもおかしくないはずなのにである。

 「この一帯でやばいやつが出たんや。」

 「やばいやつ?」

 「うちらは『醜穢しゅうあい』って呼んどります。黒い泥のバケモンですわ。それも無差別に妖怪を襲うタイプの奴ですわ。」

 妖怪を襲う化物・・・妖怪自体が化物みたいなのだが、またニュアンスが違うのだろうか・・・

 「『醜穢』っていうのは、妖怪なんですか?」

 サクヤも心当たりがないようでクロに尋ねる。どうやら、有名な存在ではないようだった。

 「正確には元妖怪、言うのが正しいわ。妖怪変化の成れの果て、死に間際の最後の灯火そないな表現が一番しっくりきますわ。」とクロは答えた。しかし、はっきり言ってそれだけではよく分からなかったので詳しく話を聞くことにした。

 流石に話し込むとなると商店街も全くの無人というわけではないので路地裏の方に入って話をすることにした。

 そこで聞いた話を要約すると、妖怪にも人間以上は長命と言っても寿命があり、普通の妖怪は、そのまま死んでいく。だが、力の強い妖怪が死ぬ時には、その力が暴走して存在が崩壊するらしい。この辺りの説明は、俺にも詳しくはよく分からなかったのだが、妖怪としての形を保てなくなり泥のような半固形の化け物へと変貌するという事らしい。

 その化物は自我もなく、ただの災害のようなものらしい。普通は、自然消滅するのを遠くから見ていれば良いのだが、今回は、その化物が妖怪を襲うので大混乱が起こっているらしい。

 しかも、曲がりなりにも元がかなり強大な妖怪だったようで、その力は強力で力の弱い妖怪程度では、勝負にならないのだという。

 「結構、深刻じゃないか・・・」

 「せやから深刻やねんて・・・うちらの仲間も戦えるようなもんは持ってへんからな。街で情報集めるのは中止して隠れとく事にしてんのや。」

 「それで、対策は? どうやって倒すんだ?」

 「対策なんてありませんわ。言いましたやろ。最後の灯火いうて、あれは、すでに瀕死やから、放置してれば自然消滅するもんですわ。触らぬ神に祟りなしやわ」

 「それってどれぐらいなんだ・・・?」

 「長くて一年・・・早くて半年言うところですかな・・・」

 「気が長いとか言うレベルじゃないぞ!?」

 「流石に一年も街に行けないのは退屈ですね・・・」

 「そうは言うても打つ手なしやからなぁ。あったら分かります。あんなもんと戦うのははっきり言って自殺行為ですわ・・・まあ、普通の人間には、被害がないから街の活動が止まったりするような異常事態にはならへんから、一年ぐらいは他の街へ行くのを待つか、うちらが他の街へ観光に行くかやね・・・」

 完全に受け身の姿勢である事に間違いはないが、そうせざるを得ない存在がこの街を徘徊してると思うと背筋が寒くなるのを感じた。

 ただ、人間には、被害がないのなら、確かに対処しなければいけないと言うわけではないのが救いだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...