咲かない桜

御伽 白

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2章

Part 48 『会いたい・・・』

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 街に蠢く音が響く。ズルズルと何かを引きずる様な音は不安を一層掻き立てる。その化物は、形のない泥の塊の様だった。蠢くたびに姿を変え崩壊し、そして、また再構成される。

 時々、人間の腕や足の形の突起が出来上がっては崩れていく、その様子は、街にいくつもいた妖怪などよりも醜穢で恐ろしい存在だった。

 誰もが見れば卒倒するであろうはずの化物が駅の近くにいても誰一人悲鳴をあげることなく当たり前の日常を送っていた。妖怪は目に見えない。その事が人間を守っていた。

 この世界は肉体を持つ者達の世界であり妖怪達は、人間の意識していないものにしか干渉できない。そういった不変のルールによって人間は守られている。

 見えてない時点で化物達との次元が違う。だからこそ、お互いに干渉できない。

 見えていない事が人間を守る最強の盾になっているのだ。

 「あ・・・・・・あ・・・・・・あ」

 泥の一部が人間の口を形作り、不器用に発声する。その声すら人間には届かない。

 化物にもはや殆どの自我はなかった。溢れ出る魔力は、肉体を破壊し泥へと変わってしまった。もう、化物の元の姿がわかる要素はなくなってしまった。

 しかし、ほとんどなくなった意識がふとした拍子に湧き上がってくる。それは意識というには、あまりにも断片的で一瞬のものだが確かにあった。

 (嫌だ・・・嫌だ・・・)

 何かに怯える様な意識は、化物の体をピクリと震わせる。

 (・・・・・・会いたい・・・・・・会いたい・・・・・・あい・・・た・・・)

 最後に残った意識で化物は、そんな事を考える。

 しかし、化物は分からない。

 いったい誰に会いたかったのかも、どうして会いたいのかも・・・

 絶えず漏れ出す魔力が化物の記憶を徐々にけれど確かなスピードで奪い去っていく。断続的に失われていく記憶、その感覚は、死に迫っている事をはっきりと実感させる。

 意識が、眠る様に、あるいは水底みなぞこへ沈む様にゆっくりと消えていった。

 醜穢は、モゾモゾと動き街の徘徊を再開する。何かを探す様に街を歩くのだった。
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