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14.孤児を脅かす怪異

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 言い渡された任務に顔をしかめた。

 教会が運営する孤児院での、不審な騒動への対処だ。子供だけが目撃する不審な人影、大人には聞こえない物音や声……混乱した子供達の懇願により、神父と修道女が話し合って要請した事例だった。

 昨夜の夢が脳裏を過ぎる。あの夢の直後、まるで暗示だったように『孤児をおびやかす怪異』の任務が下されたのは、何らかの作為がある気がした。常に命懸けの場で磨いてきた、悪魔狩りとしての自分の直感は疑わない。

「クルス……、これは彼女の透視がらみか?」

 直球で尋ねれば、隠す様子なく頷かれた。

「そうですよ、リリトが視た結果からセイルが選ばれました」

 歴代最高の能力を誇る彼女の透視だから、クルスは疑うことなく決定したのだ。

 オレが解決する未来を予知するリリトの能力は神に属するもので、悪魔ごときが関与できる領域ではない。ならば、自分で考えすぎているのだろう。

 そう結論付けて、オレはゆったりとローブをさばいて膝をつく。

「しかと承りました」

 決められた手順どおりに一礼し、数歩後ろに下がってから身を起こした。面倒な儀礼だが、彼らの間にも最低限のルールと立場が存在している。それを無視して友人同士の気安さですべてを済ますことは出来なかった。

「神のご加護を」

 いつもと同じ挨拶を声にした金髪の友人に笑顔を向け、オレは踵を返した。さきほどの笑顔とは打って変わった厳しい表情は、この任務自体を疑う気持ちが滲んでいる。上手に感情を隠し、いつも通りの態度を作ったオレは荘厳な広間を後にした。




 辿りついた孤児院の子供達は、とても明るい表情をしている。神父やシスターもさほど深刻な事態だと考えていないようで、オレを迎える彼らの態度は温和そのものだった。

 まるで客人のように迎えられ、お茶を出される。丸テーブルを囲む彼らから、特に不審な気配は感じられなかった。それだけ確認すれば、神父とシスターに尋ねることはない。

 一口だけお茶を飲んで切り出した。

「子供達と話せますか?」

「どうぞ」

 本国から派遣された司教へ丁重に応対する神父へ一礼し、シスターの案内で子供達が掃除をしている庭へ顔を出す。知らない大人を遠巻きに眺めるより好奇心で寄ってくる姿は、大人を怖いものだと認識していない証拠だった。つまり、子供達は健全な環境で、愛情深く育てられている。

 ならば、ストレスによる幻聴や幻覚の可能性は消えた。
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