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19.他に何を言われた?

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「……ふ、ぅん、ぁ……っ」

 俺はあの窓も扉もない部屋のベッドに連れ戻され、がっつり舌を絡めたキスで呼吸を奪われていた。逆の立場なら、アザゼルが焦るのも怒るのも理解できるから、何となく突き放しづらい。

「っ、はぁ、はあ……落ち着いた、かよ」

 散々に貪られ、肩で息をしながら見上げる。アザゼルは銀の長い髪を檻のように俺の上に散らしながら、首を横に振った。幼子が「違う」と我が侭をいう姿と重なって、苦笑いする。

「さっきは、ありがとな。助かった」

「余のせいだ。急いでいたとはいえ、ハヤトへの守護を授けていなかった」

「守護?」

「出がけに必ず口付けをしていたであろう?」

 ああ、あれか。守護ってことは、あのキスで何か安全対策を施してたのか? 悪い、ただのスケベ心だと思ってた。確かに今日は出がけのキスをしなかったな。あれで発見が遅れたらしい。

「キスしてれば、もっと早く来られたのか?」

「あの程度の攻撃でケガを負うことはなかった。余の魔力を譲渡しているからな」

「よくわからないけど、結界みたいなもんかな」

「近いな。余の魔力を纏っていれば、フラウロスの攻撃は防げたはずだ」

 あの女、フラウロスって名前か。

「あの子は元恋人なのか? お前がいるから悪いって言われたが……」

「他に何を言われた?」

「殺してやる、とか。俺のせいで切り捨てられた、だったか」

 記憶を辿って口にした言葉に、アザゼルは眉を寄せた。吐き捨てるように答えを口にする。

「あの女は部下だ。余が伴侶を得たことを祝福せず、そなたを害そうとした故、殺すようアスモダイに命じた。その直後に行動を起こした。愚かにも程がある」

 ……ってことは、あの女もその部下っぽい男もあの場所で惨殺された可能性が高いか。ぞっとした。今回はアザゼルが気が付いたけど、もし駆け付けるのが間に合わなければ? 俺が惨殺死体になったのだ。

 フラウロスは、簡単に殺せる俺を甚振った。猫がネズミを遊びながら殺すように、苦しめてボロボロになるまで追い詰める気だったのなら。今後も同じ状況になるってことか?

「な、なあ……俺はアザゼルの愛人扱いなのか? 今後も狙われるのか?」

 ざっくり一度で殺してくれるならいいが、あんな甚振り方はゴメンだ。絶対に嫌だった。血が噴き出した時の感触を覚えている。血圧が下がって寒さが増して、熱が失われた。二度は耐えられない。次は気が狂う。

「安心しろ、二度はない。ハヤトを守るために、命を深く繋げることにした……」

 居場所も考えもすべてを管理する。恐ろしい発言なのに、なぜか正しい気がした。俺はこの世界で弱者だ。自分の身も守れない奴が、強い男の庇護下に入るのは当然で……アザゼルに頼るしかない。

「本当、か?」

「ああ。余が必ず守り抜く。安心して身を委ねよ」

 命じる口調に頷き、俺は初めて抵抗なくアザゼルに抱かれた。
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