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44章 呪われし勇者

595. 迷惑な彼らは侵略者でした

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 魔の森の加護はすべての種族に適用される。つまりという発言は、こう置き換えることができた。『人族はこの世界の住人ではない』と――。

「魔の森の子ではない、のか」

 ルシファーの呟きに、リリスは反論しなかった。肯定もせず曖昧に微笑んで、茶菓子をひとつ手元に引き寄せる。ぱきんと音を立てて2つに割り、ひとつを口に入れた。残りをルシファーの口にそっと押し込む。

「異世界人なの?」

 ベルゼビュートが驚きの声をあげ、アスタロトは考え込んでしまった。ルキフェルは大急ぎで本を取り寄せて調べ始める。記憶を辿るベールが、納得した様子で頷いた。

「なるほど。それならば説明がつきます。魔族は魔の森で生き抜く術を持つのに、人族だけがひ弱で魔力量も少なく魔の森で生きられなかった。その理由が別世界の住人だと言われたら、反論の余地がありません」

「……それってだよね?」

 ルキフェルが言葉を選ばず呟く。ベルゼビュートは大きく頷き、茶菓子を口に放り込んだ。

 魔族が住んでいる世界に、外部から人族が入ってくる。その際に何らかの呪いを使い、本来の住人である魔族を排除する勇者の存在を作り上げたとしたら……成功かどうかは別として、明らかな敵対行為であり侵略だった。

「もっと早く滅ぼせばよかった」

 ぼそっと呟いたルキフェルへ、ルシファーが苦笑いしながら首を横に振った。

「この事情を知らなければ、原始の種族を滅ぼすのは躊躇するし……オレも止めたからな」

 最高権力者のルシファーが平和主義だったこと、何らかの方法で思考に干渉された可能性を考慮すれば、今の事態は当然の結果だった。悪いと苦笑いするルシファーへ、アスタロトが肩を竦める。

「何度も進言しましたが、すべて断られました」

「原因が分かれば、大公権限で滅ぼしても良かったですね」

 ベールまで人族の絶滅を支持する。ルシファーとしては、害がなければ森の外で生活していても構わないのだが……そんな複雑な心境で溜め息を吐いた。

「そこで切り捨てないのが、ルシファーですもの」

 くすくす笑うリリスがお茶を口元に運ぶ。少し躊躇う様子を見せて、視線をアスタロトへ向けた。心得たように、アスタロトがルキフェルに向かって切り出す。

「ルキフェル、この場で大切な話をしておきたいのですが……」

「何?」

 勇者が攻めてきて初めて邂逅した人族の歴史部分を読んでいたルキフェルが、声に顔を上げた。真剣なアスタロトの姿勢に、本を閉じて向き直る。

「私がを封印している話は知っていますか?」

「……封印の中身は知らないけど」

 アスタロト大公は己の身をもって何かを封じている――これは知られた話だ。長生きの種族の長老クラスに伝わっていた。神龍族シェンロンのタカミヤ家当主モレク、ドラゴニア家当主エドモンド、サータリア家のオレリアなどが該当する。

 彼や彼女らは封印された対象を知らずとも、封印した事実は伝え聞いていた。そして他の種族の中にも、その話を噂として聞いた者もいる。

「封印の内容を知るのは、ルシファー様、ベルゼビュート、ベールのみです。理由はお判りでしょうが、封印した現場に彼らがいました」

 ルキフェルに知らせなかった理由を誤解しないよう、アスタロトは淡々と説明する。

 魔王誕生前から存在する大公3人は、魔王の暴走時に互いの身を犠牲にして止める盟約を結んでいた。決まった時にルキフェルはまだ生まれておらず、それ故に誰も彼に説明せず過ごし……先日のタブリス国で最悪のタイミングで知られる。

 傷ついたルキフェルの慟哭を覚えているから、先に理由を説明したのだ。仲間外れにしたのではなく、封印現場にいた者が知っているだけだと。事実を素直に受け止めたルキフェルが頷く。

「リリス嬢はある程度知っているようですが、魔の森の記憶ですか?」

 そこで振り返るアスタロトに、リリスは口に含んだお茶を飲み干してから頷いた。

「ええ。魔の森で起きた記憶は呼び出すことが出来るわ。ある程度、私は調べられるけれど……アシュタやルシファー達が何を考えてたか、知らない」

 事実を知ることは出来る。しかし真実や気持ちはわからない。当事者がその口で語る内容こそ、真実なのだから。
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