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40.一緒なら頑張って王になる

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「なんでそんな話に発展したのかしら」

 呆れた、そう匂わせるアルマが首を横に振る。古龍シェンを連れて戻った集落は、久しぶりの珍客に盛り上がった。森人にとって、理の番人であるドラゴンは良き隣人だった。古龍の知恵を借りて穏やかに暮らす森人を、シェンも心地よい友人として受け入れている。

「他に魔王や側近の襲撃を止める方法がないから?」

 バルテルが自信なさそうに呟いた。だがシェンが笑いながら否定する。

「そうじゃない。コハクがシドウを大切にしてるからだ。一緒にいたいんだろう?」

 問われた琥珀はすぐに頷いた。握ったツノを布で磨きながら、知ってる言葉を並べた。

「僕のお友達で、お母さんでお父さん。全部シドウで、ずっと一緒にいる。約束した」

 鼻の奥がツンとして涙が溢れる場面だ。抱き締めて「僕もだよ」と言ってやりたい。そんな感動のシーンで、駆け寄った子猫達がシェンの膝をよじ登った。シェンの身じろぎで転がったラウが、にゃーと抗議の声を上げた。直後、後ろから母猫ニーがシェンを噛んだらしい。

「うわっ! え、猫?! ちょ、やめろって」

 慌てて追い払っている。バルテルは大笑いして転げ回った。アルマは苦笑いして子猫を拾い上げては籠にしまう。唸っていたニーだが、子猫が入った籠の中で丸くなった。そのまま寝るようだ。

「ニーをいじめないで」

「いや、虐められたのは我だよな?」

 齧られた指先を見せながら文句を言うが、琥珀は首を横に振った。小さい方が悪くない。それは琥珀が決めたルールだった。幼子が辿々しく口にするルールを聞いて、古龍はにやりと笑う。

「ふむ。一理ある」

 なぜかシェンは納得してしまった。集落の森人への説明は、アルマが担当する。面倒は早く片付けるに限ると言い残し、さっさとこの場を離脱した。こういうカンの鋭さは森人特有の能力だろうか。

「コハク、どうしても王は嫌か?」

「シドウと話せて、一緒ならいい」

 念押しするように確認するシェン。琥珀は考えることなく即答した。一度決めたことは琥珀の中で揺るがない。だから答えはいつも同じで、迷わなかった。羨ましいくらいの強さだ。そのくせ間違っていると説明されて納得すれば、反対の意見でも受け入れる子だった。そう考えると人の上に立つ素質はあるのか。

「ならば王になれ。シドウ殿を守るためだ」

『どういう意味だ?』

 僕を守る?

「ベリアルは賢い。数十年後の復活の前に魔力の不足に気づく。その際に襲われるのはどこで誰だ? 考えるまでもない、ツノを持つコハクが攻撃されるぞ。彼らがもっとも弱体化した時に叩くしかあるまい」

 魔王が倒れた直後の混乱に乗じて、魔力量が激減した魔族を叩け。シェンの言葉に容赦も遠慮もなかった。配慮すべき相手と認識していないのだろう。

「どうやらシェンの言葉が正しいようだ。どれ、集落の結論を聞いてくるか」

 黙って聞いていたバルテルは、笑ってツリーハウスから降りた。すぐに戻って来るが、それまでにこちらも決断した方がいいか。

「シドウ、取られないなら頑張る」

『シェン、後見人としての役目を果たしてくれ。琥珀が王になるなら、僕の魔力はすべて琥珀にやる』

 僕の覚悟は決まっている。まだ幼い琥珀が幸せになり、生き抜くための力になることだ。誰も王という地位にこだわらないのに、転がり込むときはこんなものか。

 にしても……一緒にいるために頑張って王を目指すってのも、琥珀らしいな。
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