上 下
72 / 72

72.幸せになってやるんだからね(最終話)

しおりを挟む
 披露宴は非常に盛り上がり……と表現するのは正しくて間違っている。酒を飲んだママは魔法を空にぶっ放し、飛んでいた何かを叩き落とした。ちなみに巨大な鳥らしく、羽を広げたら人の身長より大きかった。白いからすぐに手当てされたが手遅れで、最終的にその場で蒸し焼きにされる。

 ブラッドリーの将軍や騎士の手慣れた様子から、野営経験の豊富さが窺えた。ちょっと気の毒、たぶんお祖父様に連れ回された結果だよね。熱湯をかけて羽根を毟り始めると、結婚式に参加した平民が手伝いに名乗りを上げた。羽毛は子ども達が集めて、枕にされるらしい。

 なんというか、人って逞しいよね。肉も切り分けて土産になり、その場で半分ほどを平らげた。調子に乗ったママがもう一発ぶっ放そうとしたけど、パパに妨害される。ディープキスされて真っ赤になったママは、そのまま撃沈した。

「ふぅ、よかった」

 度数の高い酒を口に含んだパパが流し込み、酔い潰したらしい。お祖父様の指示だから、起きてもパパが叱られることはないと思う。キスで息がうまく出来なかったのも影響し、潰れたママはやや微笑んだまま眠る。抱き上げたパパが退場した。

 にぃには次々と注がれる酒を飲むが、パパに似てザルなので平気そう。メイベルはすでにシャンパンの乾杯だけで真っ赤になっている。駆け付けた侍女ローナが指示を出し、さっと持ち帰られた。すぐに戻ってきて、まだ飲んでいるにぃにを促す。

 新婚だし……多少酔ってても、今夜は初夜です。メイベルの意思確認が取れない場合は、明日に持ち越しだけど。少なくとも同じベッドで寝ていないと離婚案件になるよ。呆れ顔でにぃにを見送る。げらげら笑うお祖父様は、浴びるように酒杯を空けた。

「瓶で飲むぞ!」

 怖ろしい宣言が出たのが合図だったらしい。将軍が「失礼仕る」と後ろで謝罪して、じぃじの首を思いきり鞘で叩いた。眉を寄せて不機嫌そうな顔で振り返り、己の剣を掴むが……そのまま転がるように倒れる。きちんと急所を捉えていたらしい。

「すごいね」

「お褒めに与り、恐縮です。では失礼します」

 将軍は他の騎士に合図を出し、じぃじの手足を縛りあげる。夜中に暴れないようにするためらしい。普段から行っている作業のようで、誰も「不敬では?」と尋ねたりしなかった。連れ去られるお祖父様に手を振り、私はぽつんと残される。と言っても、後ろには乳母エイミーがいた。

「ねえ、。私ね、凄く幸せだよ。だからありがとう」

 決死の覚悟で夜の森を抜けたこと、私を助けようとしてくれたこと、大切に慈しんで育ててくれたこと。すべてに感謝とありがとうを――。

 涙に濡れた顔を手で覆って、エイミーは大きく首を縦に振った。彼女の行いは間違っていなかった、亡くなった我が子の分まで愛したことを、娘は理解している。そう伝えたかったの。本格的に泣きだしてしまったエイミーに抱き着き、背中を撫で続けた。

 いろいろあったな。騒がしい話し声や興奮した人々が立てる物音、歌や踊りが伝わってくる。その中でエイミーの慟哭を感じながら目を閉じた。

 冤罪で首を落とされ、目が覚めたら赤子……そこから逃げて家族に出会い、私は幸せになった。ものすごい冒険だと思う。世界を救った勇者くらい、波乱万丈だった。だから幸せだよ。この場を離れている家族を思い浮かべ、私は欲張りになる。

 ――もっともっと! 誰もが羨むくらい幸せになってやるんだからね。






       The END ……?









*********************
 お読みいただきありがとうございました(o´-ω-)o)ペコッ 当初の予定と物語がズレてしまい、何が起きるか自分でも読めないまま書き進めた物語です。ここで一段落。続きを書けば書けるけど、波乱万丈部分だけでいかな? と考えた次第です。
 既存の完結作や新作で、またお目に掛かれることを祈りつつ。



【破天荒な妖精姫は醜い夫を婿に望む】
3/25、22:00更新

「私、ロヴィーサ・ペトロネラ・エールヴァールは、英雄レードルンド辺境伯アレクシス様に嫁ぎたいと思います」
妖精姫と称えられる令嬢は、整った美しい顔(かんばせ)を綻ばせた。求愛を受けたのはドラゴンの爪による醜い傷痕を持つ辺境伯。その容貌は令嬢達が卒倒するほど崩れ、手はごつごつと硬い。他国の王太子、王弟、公爵など多くの良縁を振ったロヴィーサは夫になる男の傷だらけの手を握った。
「ええ、お断りにならないで」
ドラゴンを倒し国を救った英雄は、妖精姫と称えられる美貌と慈悲の公爵令嬢に求婚される――これは美女と野獣ならぬ、お転婆妖精姫と最強のお人好しの恋物語
大人しそうなお姫様はかなりのお転婆、予想外の言動を繰り返し英雄を振り回す。そんな妻が愛おしくて、溺愛が止まらない英雄は諦めた幸せを手に入れる
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(204件)

きらさび
2023.09.14 きらさび

『要らない悪役令嬢…』で綾雅先生の作品を認知しました。そして、こちらのお話を読み直して、「凄い面白い!」と思って作者欄を見たら…あれれれ?でした。文章のリズムが心地好く読めて、気持ち良いです。このお話は完結してますが、他作品のこれからも投稿を楽しみにしております。

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
2023.09.14 綾雅(りょうが)電子書籍発売中!

お読みいただきありがとうございます(´▽`*)ゞヶィレィッッ!! 意外と書き散らしておりますので、お暇なときにどうぞ! 要らない悪役令嬢は30万文字で仕上げる予定が倍に/(^o^)\となったお話です。こちらは悪役令嬢が転生する先を弄ってみました。作品により文体が違ったり、試行錯誤しております。また次の作品でお会いできるのを楽しみにしております(*ノωノ)

解除
ぱら
2023.03.26 ぱら

完結おめでとう㊗御座います!!

皆大はしゃぎで幸せな結婚式!(*´ω`*)

この先が波乱万丈であっても幸せに皆がなれますように。( ᴗ̤ .̮ ᴗ̤人) *•.❥*

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
2023.03.26 綾雅(りょうが)電子書籍発売中!

ありがとうございます(´▽`*)ゞヶィレィッッ!! 一番幸せそうな場面で終わりました。少しだけ最後にエイミーとの絆を書かせてもらいました(=´∇`=)にゃん

解除
NOGAMI
2023.03.25 NOGAMI

完結おめでとうございます🎊

3人もの素敵なお母さんに恵まれて、幸せですね😊
これから先も目一杯幸せになって!

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
2023.03.26 綾雅(りょうが)電子書籍発売中!

ありがとうございます(人´・ω・`o)感謝♪
沢山のお母さん、その分幸せも増えていくでしょう。幸せになる未来を願い、ここで筆をおきます←カッコよさげに聞こえる/(^o^)\

解除
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

イラストから作った俳句の供養

現代文学 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1

実は私、転生者です。 ~俺と霖とキネセンと

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

異世界に落っこちたので、ひとまず露店をする事にした。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:49

雨に濡れた犬の匂い(SS短文集)

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:228pt お気に入り:0

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:173,227pt お気に入り:7,991

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:20,051pt お気に入り:1,491

愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:38,439pt お気に入り:723

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。