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37.女戦士ブレンダの後悔

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「行くあてはあんのかい?」

 女戦士はブレンダと名乗った。様々な戦場を渡り歩く傭兵で、ゼルクに同行しないかと持ちかける。

「いいのか?」

「傭兵なんてのは、脛傷を持つ連中ばかりさ。誰も気にしないさ。それに……あたしだって指名手配を食らってる身だよ」

 事情を聞いてもいいか迷うゼルクをよそに、彼女は残った鍋の中身を薄めて茶のようにした。容器によそって飲む。麦の香りとざらりとした舌触り、たまに干し肉の欠片が口に流れ込む。どろりと重い湯は、胃の隅々まで行き渡った。

「故郷でね、両親と弟を殺された。魔族ならともかく、同じ村の奴らだってんだから……救いがない」

 幼い頃から体を動かすことが得意で、気づけば剣を手にしていた。狩りや衛兵の真似事をして覚えた剣術は、師匠を得て一気に上達する。そうなれば、村で燻るより大きな街に出たくなる。才能があるのか、向いていたのか。そこそこ稼いで仕送りを始めた。

「仕送りったって、贅沢できる金額じゃない。でも、村人からしたら大金でね」

 言葉を詰まらせるブレンダは、大きく息を吐き出した。手元の器の中身をぐいと飲み干す。

「あたしの送った金貨欲しさに、両親と弟は殺された。生きたまま家に火をつけたんだとさ。弟だけでも逃がせないか、金貨を差し出して頭を下げる父を殺し、母に火をつけた。だから全員の首を落としてやったんだよ」

 村は全滅した。首を落とした後、建物全てを焼き払ったのだ。役人達は「貴重な税収をもたらす村民を殺した」罪で、ブレンダを手配した。あたしの家族が殺された時は動かなかったってのに、な。

 自嘲するブレンダの胸を過ぎるのは、「金貨なんざ送らなければ良かった」という後悔だ。久しぶりに大きな仕事で稼いで、弟がそろそろ学校だったな……なんて考えて。

 お祝いのつもりだった。学校の支度を整えて、少し豪華な食事をしてくれたら。家族思いの小さな願いは、残酷に踏み躙られた。

 ゼルクは言葉もなく、まだ半分入った器を両手で包む。形は違っても、帰る場所を持たない者同士だ。迷いながらも、ゼルクは傭兵も悪くないと考え始めていた。

「湿っぽくて悪いね。あんたも似たようなもんだろ。傭兵なら包帯やローブで顔を隠した奴も多い。どうだい?」

 再びの誘いに、ゼルクは首を縦に振った。行きたい場所もないし、会いたい人ももういない。ブレンダの飾らない態度は心地よく、顔を隠して生きるのも悪くないと思った。

「よし、じゃ……明日の朝は早いよ」

 豪快に笑って握手を求めるブレンダに、ゼルクは手を差し出した。剣ダコが付いた、ごつごつと硬い手のひら。自分と同じだ。安心して肩の力を抜いた。

 翌朝、二人は火を始末して旅立つ。その姿を数羽の鳥がじっと見つめた。やがて姿が見えなくなると、手分けして飛び立つ。後を追う鳥、報告に向かう者、どちらも魔力を纏っていた。
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