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第30章 マロンの複雑な事情

214.カッコつかねえな、おい(3)

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『でも』

「言い訳や反論したら、芋の数増やすぞ」

 ごろごろと芋を追加して転がした。

『あの……』

「まだ追加が欲しいのか?」

 忍び笑う傭兵の後ろから、ジャックがのそっと顔を覗かせてぼやく。

「金馬の聖獣殿、なにも言わずに芋を剥いとけ。また増えるぞ」

「キヨは容赦ないからな」

 普通の子供にするように、ぽんと頭を軽く叩いたノア。そんなことないと抗議するオレの後ろで、マロンは照れたように俯いて芋を剥き始めた。不器用で、芋の大きさは半分になってしまったが……これまたお約束だと大笑いした青猫。我関せずで食事まで休憩する黒豹……スノーは笑いながら小さな手でナイフを器用に扱い、剥き方をマロンに指導し始めた。

『なんだか楽しそうなのが腹立たしいわね』

 悪役のようなセリフで、コウコが戻ってきた。奇妙な香を焚いた犯人を探しに行った彼女は、しっかり仕事する有能な龍だ。ずるりと数人の男を引っ張り出した。

 影に収納された時点で、当然ながら息の根は止まっている。これじゃ事情聴取ができない。オレに掛けられた懸賞金の、掛け主に繋がる情報が欲しいのだ。

「コウコ、生きてるのはないの?」

『主人ったら、あたくしがそんなミスするわけないじゃない。影に入れたら死んじゃうから、残りは吊るしてあるわ』

 びっくりした。前半の言葉で全員しっかり殺しましたと言われたかと思ったぞ。しっかり者だったコウコに腕を出すと、するする巻きついた。ミニ龍こと赤蛇状態のコウコは、ご機嫌で首や肩に絡みつく。この冷たさも慣れると悪くない。

「ご飯できるまで休んでて。食べたら案内してもらうから」

 コウコがちろちろと赤い舌を覗かせたあと、ぴたっと動かなくなった。爬虫類って、寝てても目蓋が開いてるから分かりにくいんだよ。

 ノアやサシャが指揮をとり、手が空いてる連中が手早く芋を剥く。苦戦するマロンも、だいぶ慣れてきた。芋のサイズは相変わらず半分になってるが、当人はスノーや他の傭兵と楽しそうに過ごしている。

 話を聞き出すのはいつでもいい。前の主人の命令を守ったのに、オレが叱ったら可哀想だ。板挟みで苦しんだんだろう。右を向いてたのに、左に行けと命令されても、体はひとつ。そんな状況でおろおろする人の良さが、マロンらしい。

『ご主人様、食べ終わったら……話を聞いてもらってもいいですか』

 小さなサイコロみたいになった芋を、恥ずかしそうに差し出しながら、オレの小型版マロンは歩み寄った。だからにっこり笑って「いつでもいいぞ」と答えるのが正解だ。

 オレを狙う貴族は野放し、コウコが香を使った実行犯を拘束中、東の国の貴族連合とやらも後回しにしてる上、マロンの話も聞かなきゃ……。あ、リアムへのお土産買ってない。やる事は山積みだった。
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