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第9章 支配者の見る景色
285.平定した世界の恵みを享受する
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いくらでも仕事はある。問題は何が出来て、出来ないかだった。少し考え、ダッタスが先に口を開く。
「家畜の世話は慣れてます。あと農作業もできます」
「俺も汚れ仕事は平気です。あと少しなら字も読めます」
アルバスは子供達と一緒に教育して文官にし、ダッタスは馬の世話でもさせるか。王城に残された多くの馬は、現在交代でドワーフや魔術師候補の子供達が見ている。専門に詳しい者がいれば助かるはずだ。針仕事が出来るアルバスの妻と、料理が得意なダッタスの妻はすぐに仕事を割り振った。アルバスの弟は庭師の弟子に引き抜かれる。
一通り分類を終えたところで、リリアーナが袖を引っ張った。
「ご褒美!」
欲しいのだと強請る。目を輝かせて楽しみにする子供を、久しぶりに抱き上げた。子供の頃と同じ縦に抱けば、重くなっていた事実に気づく。だが雌に重さの話は禁句だったか。前にアナトに指摘したときは、頬をつねられた。
「わかった」
余計な発言は危険だ。そうやって言葉を飲み込む癖をつけてしまい、自分の言葉が足りないことは承知している。いまさらスタンスを変える気はない。抱き上げたリリアーナが腕を首に回すのに気づき、横抱きにした。目を見開いて驚いたあと、リリアーナが嬉しそうに笑う。
それほど褒美の昼寝が嬉しいのか。抱き上げて廊下を歩くオレの背でマントが翻り、侍女や文官が慌てて道を開けた。そのまま後宮へ足を運び、離宮との間にある小さな庭へ向かう。テーブルと椅子2脚を片付け、代わりに大きめの長椅子を置いた。収納に家具を入れっぱなしにするオレを、アースティルティト達は怒るが便利だ。
指先で収納空間を操ったオレが腰掛け、抱いたままのリリアーナが自分の靴を脱いだ。寝転がると上にのしかかるように身体を重ね、リリアーナは「おやすみ」と口にした。それに答えてやり、彼女の金髪を撫でてやる。こんな褒美を望むとは、やはり竜族は猫と同じだ。習性や好みがよく似ていた。
魔力量が多すぎ、小動物を威圧してしまうため本物の猫と戯れたことはないが、これが猫なら悪くない。やはり小型の愛玩動物は癒しになると言ったククルは正しかった。そんなことを考えるうちに、胸の上で眠る子供の体温に誘われて目を閉じた。
数十分して、近づく気配に薄く目を開いた。アナトとバアルの双子だ。
「ほら、やっぱりお気に入りなんだってば」
「一緒に寝てる噂は本当だった」
誰から聞いた噂だろう。ぼんやりと思うが、しっかり抱きついたリリアーナの鼓動が心地よく、起き上がってまで確認する気になれない。
「この世界の人間は制圧したんでしょ? なら少し休んだ方がいいよね」
「それ、アスタルテも言ってた」
互いに納得しあいながら、双子は足音を殺して離れていった。静けさの戻った庭で、葉擦れの微かな音が耳を擽る。東屋の隙間から零れる光が、木漏れ日のように踊った。この平和な状況に、ようやく実感する。
そうか。人間を平定したなら……走り続ける必要はない。残る魔族を併合しながら、この世界を統治するだけだ。終点が見えたことで、この世界にきて1年も経っていない事実に口元が緩んだ。随分と走ったものだ。
ここまで急ぐ理由はなかったのだが……そこで意識は再び眠りの腕に絡めとられた。
「家畜の世話は慣れてます。あと農作業もできます」
「俺も汚れ仕事は平気です。あと少しなら字も読めます」
アルバスは子供達と一緒に教育して文官にし、ダッタスは馬の世話でもさせるか。王城に残された多くの馬は、現在交代でドワーフや魔術師候補の子供達が見ている。専門に詳しい者がいれば助かるはずだ。針仕事が出来るアルバスの妻と、料理が得意なダッタスの妻はすぐに仕事を割り振った。アルバスの弟は庭師の弟子に引き抜かれる。
一通り分類を終えたところで、リリアーナが袖を引っ張った。
「ご褒美!」
欲しいのだと強請る。目を輝かせて楽しみにする子供を、久しぶりに抱き上げた。子供の頃と同じ縦に抱けば、重くなっていた事実に気づく。だが雌に重さの話は禁句だったか。前にアナトに指摘したときは、頬をつねられた。
「わかった」
余計な発言は危険だ。そうやって言葉を飲み込む癖をつけてしまい、自分の言葉が足りないことは承知している。いまさらスタンスを変える気はない。抱き上げたリリアーナが腕を首に回すのに気づき、横抱きにした。目を見開いて驚いたあと、リリアーナが嬉しそうに笑う。
それほど褒美の昼寝が嬉しいのか。抱き上げて廊下を歩くオレの背でマントが翻り、侍女や文官が慌てて道を開けた。そのまま後宮へ足を運び、離宮との間にある小さな庭へ向かう。テーブルと椅子2脚を片付け、代わりに大きめの長椅子を置いた。収納に家具を入れっぱなしにするオレを、アースティルティト達は怒るが便利だ。
指先で収納空間を操ったオレが腰掛け、抱いたままのリリアーナが自分の靴を脱いだ。寝転がると上にのしかかるように身体を重ね、リリアーナは「おやすみ」と口にした。それに答えてやり、彼女の金髪を撫でてやる。こんな褒美を望むとは、やはり竜族は猫と同じだ。習性や好みがよく似ていた。
魔力量が多すぎ、小動物を威圧してしまうため本物の猫と戯れたことはないが、これが猫なら悪くない。やはり小型の愛玩動物は癒しになると言ったククルは正しかった。そんなことを考えるうちに、胸の上で眠る子供の体温に誘われて目を閉じた。
数十分して、近づく気配に薄く目を開いた。アナトとバアルの双子だ。
「ほら、やっぱりお気に入りなんだってば」
「一緒に寝てる噂は本当だった」
誰から聞いた噂だろう。ぼんやりと思うが、しっかり抱きついたリリアーナの鼓動が心地よく、起き上がってまで確認する気になれない。
「この世界の人間は制圧したんでしょ? なら少し休んだ方がいいよね」
「それ、アスタルテも言ってた」
互いに納得しあいながら、双子は足音を殺して離れていった。静けさの戻った庭で、葉擦れの微かな音が耳を擽る。東屋の隙間から零れる光が、木漏れ日のように踊った。この平和な状況に、ようやく実感する。
そうか。人間を平定したなら……走り続ける必要はない。残る魔族を併合しながら、この世界を統治するだけだ。終点が見えたことで、この世界にきて1年も経っていない事実に口元が緩んだ。随分と走ったものだ。
ここまで急ぐ理由はなかったのだが……そこで意識は再び眠りの腕に絡めとられた。
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