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37 再会2
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オーバンは当惑し、騎士達は怪訝そうな顔をトビアスに向ける。トビアスの姿を見て春輝の宣言を聞けば誰もが同じ反応をするだろう。
「オーバン、マルコムの墓に連れて行ってくれるんだろう?」
当惑したまま動きを止めていたオーバンに声をかけた春輝は、トビアスを促し馬車へと乗り込む。
「マルコムとは……妹君を預けていた衛兵でしたか?」
「そうだ」
「弔いに行かれるとは、意外ですね」
「そうか?」
「ハルキ殿は妹君以外には、興味がおありではないでしょう? 私をこうして側に置こうとしていることも不思議なぐらいですし」
同情で人を側に置かないことくらいわかっていると言うトビアスに、よくぞ理解してくれていると口端を持ち上げる。
うさぎのぬいぐるみを撫でながら、春輝は窓の外へと向けていた視線を対面に座るトビアスに向けた。
「理由があるんだよ。俺は一応アンタを多少は信頼してるんだ。遠征中世話になったしな。今の俺には周りに味方がいない。あのオーバンも、信用できないしな」
「ですが、マルコムと共に妹君を預けられていたではありませんか。信用していたからでは?」
「信用してたさ。いちかが誰かに殺されたなんて可能性がなければな」
ハッと息を呑んだトビアスの目を春輝はじっと見つめる。一緒に遠征に出ていたトビアスがなにか事情を知っているかとも考えた。
だがトビアスの反応は初めて聞いたとばかりに驚愕に彩られたもので、何も知らなかったのだとわかる。
「まさか、そんなことがあるわけが……」
「俺もそう思いたかったよ」
「……いったい誰が」
「誰だろうな? あのいけ好かない姫かとも思っていたけど、戻ってきてから接触はないし、となると王様か? いちかが死んで得をするのは誰だと思う、トビアス」
動揺を隠しきれないトビアスには、春輝の質問には答えられない。
「それに俺自身が洗脳されてたと知った今じゃ、周りは敵だらけだと思ってるし……だけどトビアス、お前はきっと俺の味方になってくれるだろう?」
罪悪感から失わなくていい眼を自ら捨て、境遇を春輝のせいにし恨み言の一つも言えばいいのにそれをしないトビアスは、きっと春輝の側につく。そんな確信が持てるくらいには、春輝はトビアスの性格を遠征の最中で知っていた。
「洗脳……?」
「異世界から人を呼んで、はいそうですかと、毎回死なないとも限らない魔王の元に行くなんて、おかしな話だろ? それに俺がいちかの元を離れたのもあり得ないことだ」
トビアスは春輝の話に顔面を蒼白にさせながらも、懸命に状況を整理しようとしている。その態度が既に春輝の好ましい物でもあった。
例えオーバンにこの話をしたとしても、トビアスのような反応は返ってこないだろう。
「なぁトビアス、お前は俺についてきてくれるか? 返答次第では今ここで放り出すけど」
薄く笑みを浮かべた春輝に問いかけられたトビアスの頭は未だに混乱していた。だが、春輝の言うように、死と隣り合わせである魔王討伐へと嬉々として向かう歴代の勇者は考えてみれば異常なことだ。
今まではそれが当たり前のように染みついていて、こうして疑問に思ったこともなかった。
確かに洗脳と言う手段を用いらなければ、いくら正義感があろうとも受け入れられないことだろう。小さな違和感の芽は大切にしなければならないのは騎士として大事な事柄だ。
一度考えだしてしまえば止めることなく、更なる疑問が次々に浮かんできてしまう。だがそんな考えは後回しにしなければならない。
「ハルキ殿がお許しくださるのなら、このトビアスをお使いください。この体でどこまでお役に立てるかわかりませんが」
頭を下げたトビアスに、春輝は内心ほっとし、満足そうに頷いた。
「オーバン、マルコムの墓に連れて行ってくれるんだろう?」
当惑したまま動きを止めていたオーバンに声をかけた春輝は、トビアスを促し馬車へと乗り込む。
「マルコムとは……妹君を預けていた衛兵でしたか?」
「そうだ」
「弔いに行かれるとは、意外ですね」
「そうか?」
「ハルキ殿は妹君以外には、興味がおありではないでしょう? 私をこうして側に置こうとしていることも不思議なぐらいですし」
同情で人を側に置かないことくらいわかっていると言うトビアスに、よくぞ理解してくれていると口端を持ち上げる。
うさぎのぬいぐるみを撫でながら、春輝は窓の外へと向けていた視線を対面に座るトビアスに向けた。
「理由があるんだよ。俺は一応アンタを多少は信頼してるんだ。遠征中世話になったしな。今の俺には周りに味方がいない。あのオーバンも、信用できないしな」
「ですが、マルコムと共に妹君を預けられていたではありませんか。信用していたからでは?」
「信用してたさ。いちかが誰かに殺されたなんて可能性がなければな」
ハッと息を呑んだトビアスの目を春輝はじっと見つめる。一緒に遠征に出ていたトビアスがなにか事情を知っているかとも考えた。
だがトビアスの反応は初めて聞いたとばかりに驚愕に彩られたもので、何も知らなかったのだとわかる。
「まさか、そんなことがあるわけが……」
「俺もそう思いたかったよ」
「……いったい誰が」
「誰だろうな? あのいけ好かない姫かとも思っていたけど、戻ってきてから接触はないし、となると王様か? いちかが死んで得をするのは誰だと思う、トビアス」
動揺を隠しきれないトビアスには、春輝の質問には答えられない。
「それに俺自身が洗脳されてたと知った今じゃ、周りは敵だらけだと思ってるし……だけどトビアス、お前はきっと俺の味方になってくれるだろう?」
罪悪感から失わなくていい眼を自ら捨て、境遇を春輝のせいにし恨み言の一つも言えばいいのにそれをしないトビアスは、きっと春輝の側につく。そんな確信が持てるくらいには、春輝はトビアスの性格を遠征の最中で知っていた。
「洗脳……?」
「異世界から人を呼んで、はいそうですかと、毎回死なないとも限らない魔王の元に行くなんて、おかしな話だろ? それに俺がいちかの元を離れたのもあり得ないことだ」
トビアスは春輝の話に顔面を蒼白にさせながらも、懸命に状況を整理しようとしている。その態度が既に春輝の好ましい物でもあった。
例えオーバンにこの話をしたとしても、トビアスのような反応は返ってこないだろう。
「なぁトビアス、お前は俺についてきてくれるか? 返答次第では今ここで放り出すけど」
薄く笑みを浮かべた春輝に問いかけられたトビアスの頭は未だに混乱していた。だが、春輝の言うように、死と隣り合わせである魔王討伐へと嬉々として向かう歴代の勇者は考えてみれば異常なことだ。
今まではそれが当たり前のように染みついていて、こうして疑問に思ったこともなかった。
確かに洗脳と言う手段を用いらなければ、いくら正義感があろうとも受け入れられないことだろう。小さな違和感の芽は大切にしなければならないのは騎士として大事な事柄だ。
一度考えだしてしまえば止めることなく、更なる疑問が次々に浮かんできてしまう。だがそんな考えは後回しにしなければならない。
「ハルキ殿がお許しくださるのなら、このトビアスをお使いください。この体でどこまでお役に立てるかわかりませんが」
頭を下げたトビアスに、春輝は内心ほっとし、満足そうに頷いた。
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