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本編
第一話 南相馬へ
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ダタン、ダタン・・・・・・・
わたしを乗せた列車は、どこまでも続いてるようにも思えるレールの上を走っている。
わたし―春峰あさひは、窓枠にひじをついて、外を眺めた。
窓の外には、だんだん活気が戻ってきた町が見える。
《まもなく、原ノ町、原ノ町でございます・・・・》
合成音の無機質な車内放送にハッとして、網棚の上に置いといたスーツケースを手元に寄せた。
クゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・・シュァァァァァ・・・・
床下から音が鳴る。
列車は減速すると、駅に止まった。
《おまたせいたしました。一番線に、到着の電車は・・・・》
これまた合成音の放送が流れるホームに降り立つ。
ガシャン!ウィー!
改札をくぐって、駅前に出た。
「ついに・・・、来た」
東京からここまで、新幹線と常磐線を使って、わたしはこの、福島県南相馬までやって来た。
ここに来たのは、観光じゃない。引っ越しだ。
お母さんは、わたしが中三の時に死んだ。
お母さんとお父さんは別居してたらしい。
わたしはお父さんのいる春峰家に引き取られた。
そしてとうとう、わたしは、お父さんの故郷、福島県南相馬市に引っ越した。
(なんで、こんなところで・・・)
原宿にあるようなおしゃれなショップもない。電車は一時間に一本。こんなド田舎になんか、来たくなかった。
東京にいたころ、趣味でやってた乗馬ができる施設はあるけど、わたしはもう、馬に乗れない。
「はぁ~」
ため息が出るくらい、いやだ。
東京に帰りたい。
「あさひちゃん!!よく来たねぇ」
少し高めの、明るい声がした。
(冴子おねえちゃんだ・・・・・!)
わたしのお父さんは、五人兄弟の一番上で。冴子おねえちゃんは、お父さんのの一番下の妹だ。
一応、わたしの「おばさん」に当たるんだけど、まだ二十五歳で、おばさんなんて言ったらぶっとばされる。
「今日から、お世話になります」
なつかしいはずなのに、言葉がうまく出なかった。
「まぁまぁ、とりあえず、家に行こうか。部屋も用意してあるよ」
冴子おねえちゃんについて、駅前の駐車場に向かう。
止めてあった車の後部座席に持ってきたスーツケースを乗せた。
キュキュキュキュキュキュ・・・・・・ドドドドドドドドドド・・・・
わたしが助手席に乗り込むと、運転席に乗った冴子おねえちゃんが車のエンジンをかけた。
「じゃぁ、しゅっぱーつ!」
車は、市街地を出て、田んぼと畑の中を進んでいく。
しばらく走って、一軒の家の庭に、入ってった。
「はい!とうちゃーく!」
冴子お姉ちゃんがエンジンを止める。
ここが、わたしが今日から暮らす春峰家だ。
敷地には、母屋のほかに、もう一つ建物が建っている。厩舎だ。
このあたりには、「相馬野馬追」というお祭りがあって、それに出るために馬を飼ってる人が多い。でも、ここの厩舎の中は空っぽだ。
「天照は?」
冴子おねえちゃんにきく。
天照は、春峰家で飼ってる馬。わたしが十歳のころ、競馬場から買われたらしい。
(そのころすでに五歳。まだまだ寿命じゃないはず・・・)
「あぁ、あれね。お父さんがね、年取って飼うの大変になったから預けてあるの。ほら、あさひちゃんも通う南相馬高校。あそこの『野馬追部』っていうとこにね」
ふ~ん、「野馬追部」かぁ。ちょっと興味あるな。でも私は、もう二度と馬に乗ることはないと心に決めているから。
ガラガラガラ
「こんにちは~」
母屋の中に入る。
大震災の津波で流された時に建て替えたから、中は結構新しい。
トントントン
冴子お姉ちゃんの後について階段を上る。
階段を上がってすぐ右の部屋に入った。
「ここが、あさひちゃんの部屋。家具とかは、もうすでに届いてるからね。」
南向きの窓から、日の光が差し込んでいる。
家具も、ほとんどがそろってる。
床は畳敷で、床の間には何もかけられてない。。
(いい・・・・・・・・)
わたし好みのかなりいい部屋だ。
クローゼットの中に東京から持ってきた服と、これからわたしが通う「県立南相馬高校」の制服を入れる。
南相馬高校の制服は、冬服は濃いグレーのブレザーと夏服の灰色のベスト。両方とも、胸ポケットに校章が刺繍されている。スカートは、夏冬共通のグレー。
「・・・・・・」
はっきり言って、ダサい。
手荷物の整理を終えて、スーツケースをしまった。
クンクン・・・・・・
「・・・・美味しそう」
一階からは、おいしそうなにおいがする。
タンタンタン・・・・・・
においにつられるように、一階に降りた。
台所では、冴子おねえちゃんと、わたしのおばあちゃんに当たるハルおばあちゃんが晩ごはんの準備をしていた。
「あぁ、あさひちゃん、のど乾いたんかい。カフェオレでものみな。」
ハルおばあちゃんが、冷蔵庫から茶色のパックを出す。見なれないパックだ。
「酪王カフェオレ?」
「そうさ。福島県限定だよ。」
へぇ~。たしかに、東京では見かけないね。
ゴクッ・・・・
コップにつがれたそれを一口、口に含んだ。
なにこれ!!
「めっちゃおいしい!!」
東京とかで売ってたカフェオレなんかと全然違う。上手に言い表すことはできないけど、何かが違うんだ。
「それはよかったなぁ。」
ハルおばあちゃんが嬉しそうにわたしを見てる。
なんか、体の奥底から力がわいてきたような気がする。
「ごちそうさま。ありがと。」
ハルおばあちゃんに言って、二階に上がった。窓を開けると、気持ち良い風が部屋の中を吹き抜ける。
わたしは床に座ると、他の荷物にも手を伸ばした。
わたしを乗せた列車は、どこまでも続いてるようにも思えるレールの上を走っている。
わたし―春峰あさひは、窓枠にひじをついて、外を眺めた。
窓の外には、だんだん活気が戻ってきた町が見える。
《まもなく、原ノ町、原ノ町でございます・・・・》
合成音の無機質な車内放送にハッとして、網棚の上に置いといたスーツケースを手元に寄せた。
クゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・・シュァァァァァ・・・・
床下から音が鳴る。
列車は減速すると、駅に止まった。
《おまたせいたしました。一番線に、到着の電車は・・・・》
これまた合成音の放送が流れるホームに降り立つ。
ガシャン!ウィー!
改札をくぐって、駅前に出た。
「ついに・・・、来た」
東京からここまで、新幹線と常磐線を使って、わたしはこの、福島県南相馬までやって来た。
ここに来たのは、観光じゃない。引っ越しだ。
お母さんは、わたしが中三の時に死んだ。
お母さんとお父さんは別居してたらしい。
わたしはお父さんのいる春峰家に引き取られた。
そしてとうとう、わたしは、お父さんの故郷、福島県南相馬市に引っ越した。
(なんで、こんなところで・・・)
原宿にあるようなおしゃれなショップもない。電車は一時間に一本。こんなド田舎になんか、来たくなかった。
東京にいたころ、趣味でやってた乗馬ができる施設はあるけど、わたしはもう、馬に乗れない。
「はぁ~」
ため息が出るくらい、いやだ。
東京に帰りたい。
「あさひちゃん!!よく来たねぇ」
少し高めの、明るい声がした。
(冴子おねえちゃんだ・・・・・!)
わたしのお父さんは、五人兄弟の一番上で。冴子おねえちゃんは、お父さんのの一番下の妹だ。
一応、わたしの「おばさん」に当たるんだけど、まだ二十五歳で、おばさんなんて言ったらぶっとばされる。
「今日から、お世話になります」
なつかしいはずなのに、言葉がうまく出なかった。
「まぁまぁ、とりあえず、家に行こうか。部屋も用意してあるよ」
冴子おねえちゃんについて、駅前の駐車場に向かう。
止めてあった車の後部座席に持ってきたスーツケースを乗せた。
キュキュキュキュキュキュ・・・・・・ドドドドドドドドドド・・・・
わたしが助手席に乗り込むと、運転席に乗った冴子おねえちゃんが車のエンジンをかけた。
「じゃぁ、しゅっぱーつ!」
車は、市街地を出て、田んぼと畑の中を進んでいく。
しばらく走って、一軒の家の庭に、入ってった。
「はい!とうちゃーく!」
冴子お姉ちゃんがエンジンを止める。
ここが、わたしが今日から暮らす春峰家だ。
敷地には、母屋のほかに、もう一つ建物が建っている。厩舎だ。
このあたりには、「相馬野馬追」というお祭りがあって、それに出るために馬を飼ってる人が多い。でも、ここの厩舎の中は空っぽだ。
「天照は?」
冴子おねえちゃんにきく。
天照は、春峰家で飼ってる馬。わたしが十歳のころ、競馬場から買われたらしい。
(そのころすでに五歳。まだまだ寿命じゃないはず・・・)
「あぁ、あれね。お父さんがね、年取って飼うの大変になったから預けてあるの。ほら、あさひちゃんも通う南相馬高校。あそこの『野馬追部』っていうとこにね」
ふ~ん、「野馬追部」かぁ。ちょっと興味あるな。でも私は、もう二度と馬に乗ることはないと心に決めているから。
ガラガラガラ
「こんにちは~」
母屋の中に入る。
大震災の津波で流された時に建て替えたから、中は結構新しい。
トントントン
冴子お姉ちゃんの後について階段を上る。
階段を上がってすぐ右の部屋に入った。
「ここが、あさひちゃんの部屋。家具とかは、もうすでに届いてるからね。」
南向きの窓から、日の光が差し込んでいる。
家具も、ほとんどがそろってる。
床は畳敷で、床の間には何もかけられてない。。
(いい・・・・・・・・)
わたし好みのかなりいい部屋だ。
クローゼットの中に東京から持ってきた服と、これからわたしが通う「県立南相馬高校」の制服を入れる。
南相馬高校の制服は、冬服は濃いグレーのブレザーと夏服の灰色のベスト。両方とも、胸ポケットに校章が刺繍されている。スカートは、夏冬共通のグレー。
「・・・・・・」
はっきり言って、ダサい。
手荷物の整理を終えて、スーツケースをしまった。
クンクン・・・・・・
「・・・・美味しそう」
一階からは、おいしそうなにおいがする。
タンタンタン・・・・・・
においにつられるように、一階に降りた。
台所では、冴子おねえちゃんと、わたしのおばあちゃんに当たるハルおばあちゃんが晩ごはんの準備をしていた。
「あぁ、あさひちゃん、のど乾いたんかい。カフェオレでものみな。」
ハルおばあちゃんが、冷蔵庫から茶色のパックを出す。見なれないパックだ。
「酪王カフェオレ?」
「そうさ。福島県限定だよ。」
へぇ~。たしかに、東京では見かけないね。
ゴクッ・・・・
コップにつがれたそれを一口、口に含んだ。
なにこれ!!
「めっちゃおいしい!!」
東京とかで売ってたカフェオレなんかと全然違う。上手に言い表すことはできないけど、何かが違うんだ。
「それはよかったなぁ。」
ハルおばあちゃんが嬉しそうにわたしを見てる。
なんか、体の奥底から力がわいてきたような気がする。
「ごちそうさま。ありがと。」
ハルおばあちゃんに言って、二階に上がった。窓を開けると、気持ち良い風が部屋の中を吹き抜ける。
わたしは床に座ると、他の荷物にも手を伸ばした。
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