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本編
第五話 武者装束
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わたしと光太は、厩舎につくと、それぞれの馬の馬装を解いて、しっかりと汗をふく。
「ごはんだよ~」
馬房に入れた後、エサの燕麦と乾草をあげた。
「お疲れさん!お先に失礼するね」
部活が終わると、急いで近くにある磐城太田駅に向かう。
わたしは電車通だ。高校は磐城太田駅の近くにあるけど、家の最寄り駅は鹿島駅。
クォォォォォ・・・・
ホームに駆け込むと同時に、銀の車体に赤と緑の帯を巻いた常磐線電車が滑り込んできた。
「ふぅ・・・・・」
わたしは電車に乗り込むと、運転室うしろの壁に背中を預けた。
帰宅ラッシュで四両編成の車内は満席、とても座れそうにない。
クゥゥンと音を立てて、電車が動き出す。
《間もなく、鹿島、鹿島でございます・・・・》
原ノ町を通って、鹿島についた。
ピピッ!
Suicaで改札を出て、家まで歩く。
「ん・・・・・?」
門の前まで来ると、わたしはどことなく違和感を感じて立ち止まった。
「・・・・・」
家についたけど、今日は、なんかいつもと違う感じがする。
「おかえりなさい!あさひちゃん!」
中に入ると、冴子おねえちゃんが出ていた。
「ちょうどよかった。部屋に荷物置いたら、茶の間に来てくれない?」
「いいですよ」
荷物を置いて、茶の間に入った。
茶の間には、鉄と防虫剤のにおいがあふれてる。そして、約一名を除く家族全員が集合していた。
「あさひちゃんが野馬追部に入ったって聞いて、お父さんが出してきたの」
「え!?」
冴子おねえちゃんが言ったことにビックリする。
野馬追部に入ったことは、家族の誰にも言ってないはずなのに。
「あさひちゃんの服から、天照のにおいがしたからね」
(ウソでしょ・・・・・)
冴子お姉ちゃんって、犬か何かなの?
「はい、これだよ~」
茶の間には、壱領の鎧が置かれていた。冴子おねえちゃんによると、「大鎧」というタイプの鎧らしい。
かなりがっしりとした感じで、重そうだ。「萌黄匂縅」という黄緑色のグラデーションのデザインがなされている。
兜の前部分には、鍬形と呼ばれる装飾。
「全部、あさひちゃんのおじいちゃんが使ってたのだよ。さすがに鎧直垂は新調したけどね」
そうか、この前わたしの体を採寸してたけど、あれは鎧直垂を作るためだったのか。
「あさひちゃん、ちょっと着てみない?サイズはピッタリのはずだからさ」
何かを言う暇もなく、わたしは冴子お姉ちゃんに脱衣所へ連行された。
シュル・・・・
わたしは来ているブレザーとスカートを脱ぐと、靴下を脱いだ。
「これね・・・・・」
和服用の肌着を着た後、鎧直垂の袴をつける。上半身には、「籠手」という、うでと胸を保護する防具をつけた。
シュルシュルシュル・・・・キュッ
肌着の上から鎧直垂をつけた。足には、袴の上から脛当てをつける。
「よいしょっと・・・・」
紺色の足袋に履き、鎧の着用に移る。
鎧直垂は、ピンク色の地に、白で桜の花がデザインされたものだった。
「この鎧直垂、わたしがデザインしたんだよ」
冴子おねえちゃんが鎧を着つけてくれながら言う。冴子おねえちゃんの本業は、デザイナーなんだそうだ。
ちなみに、この鎧直垂は「正絹」つまり、絹100%らしい。
「紐で結んでつけるんですね」
「意外でしょ?」
脇盾、弦走をつける。これで、大掛かりなところは終了だ。
「これで胴体部分は完成だね」
冴子お姉ちゃんが笑いながら、馬手の袖、射向の袖、栴檀の板、鳩尾の板をつけた。
「あとは、兜をかぶるだけ」
平安貴族のつけるような烏帽子の上から兜をかぶり、兜の緒を締める。
「うぅ~・・・・」
覚悟はしてたけど、やっぱり、重い。
「なにしろ全体で三十kgもあるからね~」
笑いながら冴子おねえちゃんが言う。
「小学生並みの重さじゃないですか・・・・」
わたしはそう言うと、兜飾の緒を緩め、兜を脱いだ。
「まだ太刀は用意できてないの。今度作ってもらうから、あさひちゃんはどんな刀がいいか教えて」
「分かりました」
でも、いきなり「どんな刀がいい?」って言われても、何も出てこない。
(まあ、普通の人生で刀を発注することなんてないから、当然と言っちゃ当然だ)
わたしが考えながら周りを見ると、脱衣所の扉の隙間から、黒い鼻面が飛び出した。
「ワン!」
わたしの愛犬、ジャーマン・シェパード犬のカローが顔を出す。
「カロー!どうしたの?」
カローはわたしに近寄ってくると、興味深そうに鎧の匂いを嗅ぐ。
「あ・・・・・」
ふと、ひらめいた。
「あの、鞘に螺鈿細工をすることって、出来ますか?」
「うん、出来ると思うけど・・・・・?」
「だったら、鞘に螺鈿でカローを描いてもらいたいんです。金地螺鈿毛抜型太刀のネコみたいに」
「なるほどね・・・・・・」
冴子お姉ちゃんは少し考えて、口を開く。
「いいよ!じゃあ、ベースも毛抜型太刀にしておくね!」
「ごはんだよ~」
馬房に入れた後、エサの燕麦と乾草をあげた。
「お疲れさん!お先に失礼するね」
部活が終わると、急いで近くにある磐城太田駅に向かう。
わたしは電車通だ。高校は磐城太田駅の近くにあるけど、家の最寄り駅は鹿島駅。
クォォォォォ・・・・
ホームに駆け込むと同時に、銀の車体に赤と緑の帯を巻いた常磐線電車が滑り込んできた。
「ふぅ・・・・・」
わたしは電車に乗り込むと、運転室うしろの壁に背中を預けた。
帰宅ラッシュで四両編成の車内は満席、とても座れそうにない。
クゥゥンと音を立てて、電車が動き出す。
《間もなく、鹿島、鹿島でございます・・・・》
原ノ町を通って、鹿島についた。
ピピッ!
Suicaで改札を出て、家まで歩く。
「ん・・・・・?」
門の前まで来ると、わたしはどことなく違和感を感じて立ち止まった。
「・・・・・」
家についたけど、今日は、なんかいつもと違う感じがする。
「おかえりなさい!あさひちゃん!」
中に入ると、冴子おねえちゃんが出ていた。
「ちょうどよかった。部屋に荷物置いたら、茶の間に来てくれない?」
「いいですよ」
荷物を置いて、茶の間に入った。
茶の間には、鉄と防虫剤のにおいがあふれてる。そして、約一名を除く家族全員が集合していた。
「あさひちゃんが野馬追部に入ったって聞いて、お父さんが出してきたの」
「え!?」
冴子おねえちゃんが言ったことにビックリする。
野馬追部に入ったことは、家族の誰にも言ってないはずなのに。
「あさひちゃんの服から、天照のにおいがしたからね」
(ウソでしょ・・・・・)
冴子お姉ちゃんって、犬か何かなの?
「はい、これだよ~」
茶の間には、壱領の鎧が置かれていた。冴子おねえちゃんによると、「大鎧」というタイプの鎧らしい。
かなりがっしりとした感じで、重そうだ。「萌黄匂縅」という黄緑色のグラデーションのデザインがなされている。
兜の前部分には、鍬形と呼ばれる装飾。
「全部、あさひちゃんのおじいちゃんが使ってたのだよ。さすがに鎧直垂は新調したけどね」
そうか、この前わたしの体を採寸してたけど、あれは鎧直垂を作るためだったのか。
「あさひちゃん、ちょっと着てみない?サイズはピッタリのはずだからさ」
何かを言う暇もなく、わたしは冴子お姉ちゃんに脱衣所へ連行された。
シュル・・・・
わたしは来ているブレザーとスカートを脱ぐと、靴下を脱いだ。
「これね・・・・・」
和服用の肌着を着た後、鎧直垂の袴をつける。上半身には、「籠手」という、うでと胸を保護する防具をつけた。
シュルシュルシュル・・・・キュッ
肌着の上から鎧直垂をつけた。足には、袴の上から脛当てをつける。
「よいしょっと・・・・」
紺色の足袋に履き、鎧の着用に移る。
鎧直垂は、ピンク色の地に、白で桜の花がデザインされたものだった。
「この鎧直垂、わたしがデザインしたんだよ」
冴子おねえちゃんが鎧を着つけてくれながら言う。冴子おねえちゃんの本業は、デザイナーなんだそうだ。
ちなみに、この鎧直垂は「正絹」つまり、絹100%らしい。
「紐で結んでつけるんですね」
「意外でしょ?」
脇盾、弦走をつける。これで、大掛かりなところは終了だ。
「これで胴体部分は完成だね」
冴子お姉ちゃんが笑いながら、馬手の袖、射向の袖、栴檀の板、鳩尾の板をつけた。
「あとは、兜をかぶるだけ」
平安貴族のつけるような烏帽子の上から兜をかぶり、兜の緒を締める。
「うぅ~・・・・」
覚悟はしてたけど、やっぱり、重い。
「なにしろ全体で三十kgもあるからね~」
笑いながら冴子おねえちゃんが言う。
「小学生並みの重さじゃないですか・・・・」
わたしはそう言うと、兜飾の緒を緩め、兜を脱いだ。
「まだ太刀は用意できてないの。今度作ってもらうから、あさひちゃんはどんな刀がいいか教えて」
「分かりました」
でも、いきなり「どんな刀がいい?」って言われても、何も出てこない。
(まあ、普通の人生で刀を発注することなんてないから、当然と言っちゃ当然だ)
わたしが考えながら周りを見ると、脱衣所の扉の隙間から、黒い鼻面が飛び出した。
「ワン!」
わたしの愛犬、ジャーマン・シェパード犬のカローが顔を出す。
「カロー!どうしたの?」
カローはわたしに近寄ってくると、興味深そうに鎧の匂いを嗅ぐ。
「あ・・・・・」
ふと、ひらめいた。
「あの、鞘に螺鈿細工をすることって、出来ますか?」
「うん、出来ると思うけど・・・・・?」
「だったら、鞘に螺鈿でカローを描いてもらいたいんです。金地螺鈿毛抜型太刀のネコみたいに」
「なるほどね・・・・・・」
冴子お姉ちゃんは少し考えて、口を開く。
「いいよ!じゃあ、ベースも毛抜型太刀にしておくね!」
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