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本編
第六話 秋競馬
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雲雀が原祭場地に、勝負の季節がやって来た。
「ヴヒヒヒヒ~ン!」
「グフフフ、グフフフ」
祭場地近くの駒つなぎ場には、たくさんの馬と、色とりどりの勝負服を着た乗り手が集まっている。
今日は、毎年春と秋に開催される「野馬追振興競馬大会」の日だ。
わたしも勝負服に着替えたあと、馬運車から馬たちを降ろした。
「とりあえずつないで、異常がないか確認したら、馬装を」
狼森先輩の指示が飛ぶ。
「わかりました!」
天照の馬体をすみからすみまで確認する。問題なし。
「ちょっとごめんね・・・・」
天照の背中に鞍を置いた。
「はい、お口あーんだよ」
ハミもかませる。
「精が出ますな」
となりで、結那が鬼鹿毛の馬装をしながら言った。
「そっちこそ、宝塚記念のゴールドシップみたいにならないようにしなさいよ」
鬼鹿毛は、かなりの荒馬らしい。狼森先輩を骨折で病院送りにし、競走馬時代の調教師を円形脱毛症にした実力は伊達じゃない。
「ふふっ、ドバイでのジャスタウェイみたいに圧勝するから」
鬼鹿毛を乗りこなせるのは、結那だけらしい。なぜか、結那の言うことだけは聞くのだそう。
「だって、あのゴルシの子でしょ?」
鬼鹿毛は今日、耳覆いつきの赤いメンコとブリンカーと呼ばれる後方視界を狭める器具。さらには下方視界を遮るシャドーロールに上方視界を狭めるブロウバンドと、調整馬具フル装備で臨んでいた。
「鬼鹿毛の荒々しさをうまく力に変えるの。わたしだって、荒馬の扱いには自信あるんだよ」
結那が笑いながら言った。その後ろでは、鬼鹿毛が馬っ気を出している。
「負けないわよ」
結那は馬っ気を出しっぱなしの鬼鹿毛にまたがると、コースに向かって去っていった。
レースはつつがなく進み、いよいよわたしと天照の番。
雲雀が原のコースは競馬で言うダート。ここ最近の晴天続きで、馬場は「良」だ。
「がんばろうね。天照」
天照に語りかけた。
「・・・・・」
いつもならいななきを返してくれるはずなのに、沈黙したままの天照。
「おい、あさひ、今日は、こいつちょっと虫の居所が悪いぞ。気をつけろ」
背中にまたがり、スタート地点に向かう直前、近付いてきた狼森先輩がアドバイスをくれる。
「はい、わかりました」
スタートラインに立ち、手綱を少し絞ってスタートを待つ。まわりは全員、知らない騎馬だ。顔を上げると、みんながゴール地点に立ってるのが見えた。
プレッシャーに押しつぶされそう。
スタート係が、全頭がスタートライン上にいることを確認。
スタート直前の、一瞬の沈黙。緊張がピークに達した。
バサッ!
旗が振られた。
めいいっぱい、天照の腹を蹴る。
ほかの騎馬より、半歩くらい遅れてのスタート。
(マズい、遅れた)
前方との差は、どんどん開いていく。
手に持っていた鞭(むち)をふりあげた。
そのまま天照を思いっきりたたく。
その瞬間、天照が暴走した。
猛スピードで一気に駆け出す。
「ギャァァァァァ!止まってぇぇ!」
手に持っていた手綱を思いっきり引いた。
「ブヒヒヒヒヒーン!」
天照が前足を上げて、後ろ脚だけで立つ。
「え?」
つぎの瞬間、わたしの体は宙に浮いていた。
ドサッ!
地面に激しく叩きつけらる。薄れていく意識の中で、誰も乗せずに駆けていく天照とこちらに向かって走ってくる誰かが見えた気がした。
わたし―高澤結那は、ゴール付近に立って、あさひがゴールするのを待っていた。
あさひに先行する騎馬が次々と駆け抜けていく。
あさひのほうを見た。あさひは今のところ、最下位だ。
あさひがあせってるのがわかった。鞭を振り上げるのが見える。
「ダメ!!そんなことしたら・・・・」
わたしが叫ぶのと同時に、鞭が天照の体に振り下ろされた。
天照が暴走する。
「ギャァァァァァ!止まってぇぇ!」
あさひが、叫ぶと同時に、手綱をめいいっぱい引いたのが見えた。
天照が後ろ脚だけで棒立ちになる。
あさひが背中から跳ね飛ばされるのが見えた。
「あさひ!!」
あさひのほうに駆け出す。
こっちに走ってきた天照を光太と狼森先輩が二人がかりで捕まえた。
「あさひ!!あさひ!!」
あさひは、動く様子がない。
顔をその唇のあたりに近づけた。よかった。息はしてる。
周りに人が集まってきた。
「おい!!救急車呼べ!」
人垣の中の一人が叫んだ。遠くから、救急車のサイレンの音が聞こえてくる。
救急隊員の人があさひを救急車に乗せた。
「ごめん!!馬、全部馬運車に積んで、学校に戻しといてくれ」
先輩もつきそう。
救急車は、サイレンを鳴らしながら去っていった。
「ヴヒヒヒヒ~ン!」
「グフフフ、グフフフ」
祭場地近くの駒つなぎ場には、たくさんの馬と、色とりどりの勝負服を着た乗り手が集まっている。
今日は、毎年春と秋に開催される「野馬追振興競馬大会」の日だ。
わたしも勝負服に着替えたあと、馬運車から馬たちを降ろした。
「とりあえずつないで、異常がないか確認したら、馬装を」
狼森先輩の指示が飛ぶ。
「わかりました!」
天照の馬体をすみからすみまで確認する。問題なし。
「ちょっとごめんね・・・・」
天照の背中に鞍を置いた。
「はい、お口あーんだよ」
ハミもかませる。
「精が出ますな」
となりで、結那が鬼鹿毛の馬装をしながら言った。
「そっちこそ、宝塚記念のゴールドシップみたいにならないようにしなさいよ」
鬼鹿毛は、かなりの荒馬らしい。狼森先輩を骨折で病院送りにし、競走馬時代の調教師を円形脱毛症にした実力は伊達じゃない。
「ふふっ、ドバイでのジャスタウェイみたいに圧勝するから」
鬼鹿毛を乗りこなせるのは、結那だけらしい。なぜか、結那の言うことだけは聞くのだそう。
「だって、あのゴルシの子でしょ?」
鬼鹿毛は今日、耳覆いつきの赤いメンコとブリンカーと呼ばれる後方視界を狭める器具。さらには下方視界を遮るシャドーロールに上方視界を狭めるブロウバンドと、調整馬具フル装備で臨んでいた。
「鬼鹿毛の荒々しさをうまく力に変えるの。わたしだって、荒馬の扱いには自信あるんだよ」
結那が笑いながら言った。その後ろでは、鬼鹿毛が馬っ気を出している。
「負けないわよ」
結那は馬っ気を出しっぱなしの鬼鹿毛にまたがると、コースに向かって去っていった。
レースはつつがなく進み、いよいよわたしと天照の番。
雲雀が原のコースは競馬で言うダート。ここ最近の晴天続きで、馬場は「良」だ。
「がんばろうね。天照」
天照に語りかけた。
「・・・・・」
いつもならいななきを返してくれるはずなのに、沈黙したままの天照。
「おい、あさひ、今日は、こいつちょっと虫の居所が悪いぞ。気をつけろ」
背中にまたがり、スタート地点に向かう直前、近付いてきた狼森先輩がアドバイスをくれる。
「はい、わかりました」
スタートラインに立ち、手綱を少し絞ってスタートを待つ。まわりは全員、知らない騎馬だ。顔を上げると、みんながゴール地点に立ってるのが見えた。
プレッシャーに押しつぶされそう。
スタート係が、全頭がスタートライン上にいることを確認。
スタート直前の、一瞬の沈黙。緊張がピークに達した。
バサッ!
旗が振られた。
めいいっぱい、天照の腹を蹴る。
ほかの騎馬より、半歩くらい遅れてのスタート。
(マズい、遅れた)
前方との差は、どんどん開いていく。
手に持っていた鞭(むち)をふりあげた。
そのまま天照を思いっきりたたく。
その瞬間、天照が暴走した。
猛スピードで一気に駆け出す。
「ギャァァァァァ!止まってぇぇ!」
手に持っていた手綱を思いっきり引いた。
「ブヒヒヒヒヒーン!」
天照が前足を上げて、後ろ脚だけで立つ。
「え?」
つぎの瞬間、わたしの体は宙に浮いていた。
ドサッ!
地面に激しく叩きつけらる。薄れていく意識の中で、誰も乗せずに駆けていく天照とこちらに向かって走ってくる誰かが見えた気がした。
わたし―高澤結那は、ゴール付近に立って、あさひがゴールするのを待っていた。
あさひに先行する騎馬が次々と駆け抜けていく。
あさひのほうを見た。あさひは今のところ、最下位だ。
あさひがあせってるのがわかった。鞭を振り上げるのが見える。
「ダメ!!そんなことしたら・・・・」
わたしが叫ぶのと同時に、鞭が天照の体に振り下ろされた。
天照が暴走する。
「ギャァァァァァ!止まってぇぇ!」
あさひが、叫ぶと同時に、手綱をめいいっぱい引いたのが見えた。
天照が後ろ脚だけで棒立ちになる。
あさひが背中から跳ね飛ばされるのが見えた。
「あさひ!!」
あさひのほうに駆け出す。
こっちに走ってきた天照を光太と狼森先輩が二人がかりで捕まえた。
「あさひ!!あさひ!!」
あさひは、動く様子がない。
顔をその唇のあたりに近づけた。よかった。息はしてる。
周りに人が集まってきた。
「おい!!救急車呼べ!」
人垣の中の一人が叫んだ。遠くから、救急車のサイレンの音が聞こえてくる。
救急隊員の人があさひを救急車に乗せた。
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